第48話 魔王復活
王都のほうも落ち着きを取り戻してきたので、俺たちは森の屋敷に戻った。
「これからどうしようかしら。何か商売でもはじめる?」
シュリとしてはのんびりするのは許せないらしい。
「水天ヴァルナが出してくれた水を売れば、水の悪い地方なら永久に食っていけると思うけど、そういうのじゃないんだよな」
「そういうのじゃないの」
まあ、そう言われると思った。
「ゴーウェンが体か頭を動かして働かないといけないの。でないと帰っちゃうからね」
「いや、おぬしは帰ってもよいぞ」
横からマルファがきついことを言った。
「別にお前がおらんようになっても、使用人ぐらいいくらでも雇えるのじゃ。魔王の夫に失礼じゃぞ」
「だから、私は使用人じゃないんだってば……」
シュリの声は弱い。どうもマルファとは相性が悪いらしい。
と、扉がドンドン、ドンドンと叩かれた。
今度は誰だ?
「私が行ってこよう」
女騎士のナリアルが出ていった。
少ししてから、
「うわあああ!」
という大きな声がした。
よほど特徴的な奴が来たんだろう。
そのあと、何か言い合いをしているようだった。
ナリアルとしては追い返そうとしているらしい。
礼儀正しいナリアルがああいう態度をとるというのは相当なことだな。
「わかった。ただし、武器はすべてここに置いていかれよ」
ナリアルの声からすると、同僚だった剣士でも来たのだろうか。
違った。
入ってきたのは、魔王ベルエールだった。
俺たちにも刺客を差し向けてきた奴だ。
だが、妙にくたびれている。
「た、助けてくれ……」
そして、床に倒れこんだ。よほど疲れているらしい。
「なんじゃ、ずいぶん汚れておるのう。くたびれ果てるほどに狩りでも楽しんだのか」
マルファの声は冷たい。こんな奴知らんぞという顔でお茶を飲んでいる。
「とりあえず何か飲む?」
シュリは一応やさしい声をかけた。
「そんな奴に憐憫の情を示す必要はないぞ」
一方、マルファはとことん冷たい。
まあ、命を狙われたことがあるんだから自然な対応かもしれないが。
「おおかた、失政で魔族の大反乱でも起きたのじゃろう。二十回以上もこちらの攻撃に失敗したら、ついて来る者もついてこんわ」
図星だったらしく、ベルエールがうなだれた。
「最初に堂々と四天王を派遣した手前、そのあとそうっと刺客を出すわけにもいかなくなって……派手に送り出してたら、その者たちが次々とやられて……」
そりゃ、出ていった者が片っ端から負けていったら、信用もされなくなるか。
「それでわらわは何をすればよいのじゃ? お前の首を取って、魔王軍に送り届ければよいのか?」
「た、助けてください……」
「今のわらわには魔王を助けるメリットが皆無じゃの。お前が魔王になったら、またこっちを殺しに来るじゃろう」
「わかった、お姉様……魔王の座を返します……。魔王マルファが復帰すれば、反乱もおさまるはずです……」
「別にわらわは魔王になど、もう興味はないのじゃがのう」
「まあ、マルファ、ここは許してやろうぜ」
「ゴーウェンがそういうなら、魔族の世界に平定に行ってもよいのう」
俺の言うことだとすぐに聞いてくれるんだな……。
俺たちは魔族の城に戻った。
全員が平伏したわけではないが、城に迎え入れてはもらえた。
「よし、こちらのセカイもばたついてもおるし、人間側への侵攻は一度中止するのじゃ!」
魔王マルファがどさくさにまぎれて、そう宣言したので、結果的に世界の平和が実現した。
「あと、戦争で必要になっていた税金も安くしてやろう!」
その一言が効いたようで、あまり大きな反対もなかった。
税金が下がることに真っ向から否と言ってくる奴はいないってことだな。
そのあと、俺たちは各地でぽつぽつと起こっていたマルファに対する反乱を一つ一つ打倒していった。
ぶっちゃけ神格を各地に派遣してたら、すぐに終わった。
俺も何度かアチャラ・ナータを召喚していたら、それで魔族の中でもアチャラ・ナータ信仰が起こりはじめた。
光の存在だぞと思ったが、人間の王国側の守護神を押しのけて最高神になった存在なので問題ないらしい。
結果的に王国と魔族の両方が同じ神格の宗教になった。
「これって、かなりいいことなんじゃない?」
シュリにそう言われた。
実際、俺のほうでも考えていたことがある。
「よし、両陣営の神官を集めるか」
俺は王になったカタリナに働きかけて、王国側の神官と、魔族側の神官による、合同会議を行わせた。
上手くいくか不安だったが、ひとまず大きな対立もなく終わった。
やはり宗教的対立がないというのは話し合いのうえでデカい。
ただ、さすがに別の組織だったわけだから、あっさり合併なんてことは難しいが。
ひとまず長年の対立を止める下準備にはなったはずだ。
じわじわクライマックスに近づいてきました。
最後まで書きますのでお付き合いください!




