第42話 アライル呼び出し
王城にいる筆頭魔導士アライルはけげんな顔をした。
理由はいくつかある。
まず、名指しで自分が指定されたこと。
あと、そもそも論として、相手が自分の名前を知っていること。
たしかにアライルは高名な魔導士だが、地方の冒険者が名前まで知っているものかというと、話は違う。
もちろん魔導士の世界でアライルを知らない者はまずいないが、それなら逆にアライルを呼びつけるような失礼なことをする者はそうそういない。
とはいえ、王であるマリウス5世としてはこの機会を逃したくない。
「どうかオルドアの森まで行ってはくれんか? 王国に協力する条件としてお前が単身訪れるように指定しておるのじゃ」
「率直に申し上げますと、そもそも王に参れと命令されておいて、条件を出す時点で不敬かと思われます。人を食ったような連中の可能性が高いかと」
「背に腹は替えられぬ。実力のある者ならワシも頭を下げてでもその冒険者たちに魔王軍討伐を頼もうではないか」
王もそれなりの覚悟はある。体面を言っている事態ではないのだ。
「もし本当に腕の立つ者であるなら一人娘を妻にしてもよいぐらいじゃ」
王の一人娘は今年、15歳になる才女だ。
その姫のために命を賭けて戦おうとする者も多い。
「そこまでのお気持ちなのでしたら、私も渋るわけにはいきませんな……」
そして不安を覚えつつ、アライルはオルドアの森を目指した。
移動に関する魔法もあるのだが、心理的に落ち着かないのでわざとゆっくりと馬車で旅をすることにした。
森の屋敷を近くをよく走る馬丁に伝えると有名なところらしく、すぐに案内された。
たしかに森の中とは思えないほどに立派な建物だ。
領主の館と言われても、そうおかしくはない。
◇ ◇ ◇
「あっ、どうやら来たらしいな」
馬車が止まったので想像がついた。
飛行の魔法ぐらい絶対使えるだろうけど、得体の知れないところに余計な力を使って来たくなかったのかもしれん。
「じゃあ、私が呼んでくるわ」
シュリが自発的に玄関のほうに出ていった。
マルファに使用人と言われるとすごく怒るくせにこういうことは率先してやってくれる。
せっかくなので客人を招く部屋に神格たちとマルファ、ナリアルも集まってもらう。
威圧のため、および、防衛用の策だ。
この世界の魔法もそれなりに把握してるはずだが、一部の魔導士だけの秘法みたいなのがある危険はある。
アライルは俺の顔を見た途端、青ざめた。
しかも何歩かあとずさりすらした。
「な、なぜ、あなたが……」
始末しようとした人間はたくさんいるだろうが、Lv1だった奴は滅多にいないからな。記憶にも残ってるだろう。
「ここにあんたを呼んだのはすべてをぶっちゃけて話をするためだ。勇者召喚の実態を王城で暴露されても困るだろ。そのへんは俺も空気を読んでやった」
「そ、そうか……。ビヒモスたちモンスターの餌にはならなかったのだな……」
今更アライルも不幸な事故だったなどと言い出しはしなかった。
よかった。そのほうが話が早い。
「じゃあ、俺のステータスをサーチ・アビリティで見てくれよ。あとあとの話がそれで楽になる」
アライルは素直にそれに応じた。
ただ、その表情はどこかで想像の外側のことがあった証拠だが。
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ゴーウェン
Lv57
職 業:召喚士・治癒士・調理師
体 力:1134
魔 力:1251
攻撃力: 835
防御力: 808
素早さ: 961
知 力:1125
技 能:サーチ・アビリティ サーチ・アンデッド センス・エヴィル ヘルフレイム ライトニング・ボルト メテオ・レイン サーチ・イーヴル レヴィテーション テレポーテーション ディナイアル・マジック リーディング・マインド
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「な……Lv57だと……?」
「ちなみに俺の周囲にいるみんなの中にはさらに強いのもゴロゴロいる。はっきり言って魔王軍なんて一日で全滅させられる。というか、魔王軍が前に撤退しただろうけど、それも俺たちのせいだ」
「魔王側が本当であると言っておくのじゃ」
まあ、元魔王が部屋の中にあるとは、さすがのアライルもわからないだろうな。
「魔王軍で困ってるなら助けてやってもいい。だけど、その場合は全面的に俺たちの指示に従ってもらう。王といえど、こちらの命令には逆らわないこと。それが条件だ」
普通なら、戯言もいいところだろう。
それでも、俺のステータスを見せたあとなら、そうとも限らない。
「魔王軍を滅ぼしてくれるのか……?」
「俺としては王国にも魔王軍にも肩入れする気はない。魔王軍側だった知り合いもけっこういるんでな」
「ちなみに私がゴーウェンの妻の魔王マルファじゃ」
黙っててほしいのに、言っちゃった……。
「ちなみに、そちらが夜伽役の元将軍のナリアルじゃな」
夜伽役という言葉にナリアルが顔を赤らめたが、客人の驚きはそんなところじゃない。
「元魔王とその将軍が……ここに……?」
「俺が一応勝った。戦争状態はそこで一旦ストップしたんだけど、まあ、納得行かない奴がまた魔王になってな、今、あんたらが戦ってるのはその次の魔王だ」
アライルは頭を抱えている。
まあ、情報多すぎるよな。
「俺たちがやるのは魔王軍と王国軍を停戦状態に持ちこむことだ。俺の信仰してる宗教だと平和状態が一番だからな」
「魔王軍と和平を結ぶということか……。いくらなんでも、私だけでは決められん……」
「だろうな。王様に持ち帰って話し合ってくれ。ああ、あと、俺たちが協力する最低条件として、一個だけ挙げとく」
これは外せない。
「勇者召喚は禁止しろ。俺みたいな被害者が増えるのは楽しくない」
これ以上は具体的に言わなくてもわかってもらえるだろう。
「王の下で詳しく話し合うことにする……」
肩を落としたまま、アライルは帰っていった。
お茶ぐらい飲んでいったらいいのに。
まあ、こんなところには一秒でも長くいたくないか。




