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第4話 最強の召喚魔法

日間103位に入りました。ありがとうございます!

 馬車は見事に消え去っていた。


「どういうこと……?」


 まだハンナは理解ができていないらしかった。


 一方、俺は何もかも痛いほどにわかってしまった。


 わからないほうが幸せだったかもしれないが。


「あいつらは俺たちお荷物を始末する最も効率的な方法を使ったんですよ」


 俺は言う。

 あまり話して気持ちいい内容じゃないけど、言わないわけにもいかない。


「たしかに連中がマクレクスさんやハンナさんと戦うと負傷するおそれがある。こっちは勇者候補ですからね。あいつらもできることなら戦いたくない。しかし、俺たちを生かしておく意味もない。では、どうするか?」


 二人が俺の顔を見て、息を飲む。


「森に置き去りにしてしまうんです。この世界の地理にも明るくない人間は出てこれないって寸法ですよ。そして、もちろん、ここはただの森じゃない。おそらく、巨大なモンスターが――」


 近くの木が突然倒れた。

 その先に何か大きなものがいる。


 獣、というかモンスターといったほうが近いだろう。


 体に苔を生やしたイノシシのようなものがいる。

 しかもイノシシのような小型じゃない。身長五メートルはあるかもしれない。

 目は怒りで興奮したように吊り上がっている。


「ありゃあ、ビヒモスじゃねえか!」

 マクレクスが叫んだ。

 これがビヒモスなのか。ゲームで見たことがある――ってそれどころじゃない。


 ビヒモスなんてLv1で勝てるわけがない。


 ――と、俺の前にハンナが立った。


「あなた、一般人程度の力しかないんでしょ。ここは私たちが守るわ」


「ハンナさん、それ、かっこいいけど、無理だ! しかも死亡フラグですし……」


「死亡フラグ?」


 そりゃ、通じないよな。

「とにかく逃げたほうがいいです!」


 そう叫んだ時にはもうマクレクスが踏みつぶされていた。


 次にビヒモスが足を動かした時には、先ほどまでマクレクスだったものがあるだけ。


 あの近衛兵の連中、非協力者の始末は毎回ここで始末してたんだ。


 たとえ中級の冒険者といえども、ビヒモスには太刀打ちできない。

 ステータスがちょっと高くても、ハイクラスのモンスターとの実戦経験がなければ、どうしようもないだろう。


 しかも、ビヒモスなら死体だって食べてくれるかもしれないし、まさに完全犯罪が成り立つってわけだ

 暗くなる時間にこの森に着くようにしたのも計画の上なんだろうな。夜はモンスターが活発に動き出す。


 その光景を見て、ハンナも自分の死を悟ったらしかった。


「ゴーウェン、逃げなさい! 少しでも遠くへ!」


「でも、ハンナさんが……」


「ここにいても絶対に私を助けられないでしょ!」


 返す言葉がなかった。

 俺が何かできる相手じゃない。こっちは一般人だ。


 背を向けて逃げた。

 遅れて悲鳴が聞こえてきた。


 ハンナも殺されたらしい。

 生き延びていても、どうせ治療する方法すらない。

 死ぬのが少し遅くなるだけだ。


「くそ!」

 今は逃げるしかない。

 異世界に来てもチート能力がないと何もできない!


 しかし、あんな巨大なものに逃げられるわけがない。


 目の前にビヒモスが来ていた。

 回りこまれていたらしい。


 終わった。


 俺はLv1なうえに武器すら持っていない。

 打開策は存在しない。


 俺が何かできることといえば――


 修行で習ったマントラを唱えることぐらいだ。


 それで助かったら苦労はしないけど、ほんとにそれぐらいしかすることもないんだよな。


 どうせなら、戦闘時に効きそうな不動明王のマントラにするか。


 不動明王とは仏敵を打ち倒すことを目的としている、いかつい顔の仏像である明王部のトップにあたる神格だ。

 いわば武闘派の仏像の最高峰と言っていい。怒りの表情で剣を持っている。


 そのマントラは悪を打ち砕くと言われている。


 そんな言葉だけで悪を倒せたら、俺のいた世界にも悪なんて存在しないと思うが、しょうがない。ほかにやれることもない。


「ノウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン……」 


 どうか、このビヒモスを倒してくれと願った。


 これで何も起こらなかったら、俺の人生はそこまでってことだ。


 ――と、強い光が差した。

 俺の前に何かが現れれている。


 光に輝いた鎧と兜で身をまとった剣士がいる。

 顔も兜のせいで見えないが、パラディンとでもいう言葉がふさわしいような存在だ。


「ウソだろ……? 何か召喚できた……?」


 その剣士はビヒモスに飛びかかると――


 ――バシュッ!


 一撃で脳天から半分に切り裂いてしまった。


 ゆっくりとビヒモスの胴体が左右に分かれて倒れる。


「マジで一刀両断した……」


 まだ事態の急激な変化が呑みこめないが……助かった。


 今度は、俺の前に半透明のウィンドウが現れる。

 あれ、これ、ステータス表示か。


=====

ゴーウェン

Lv24

職 業:召喚士

体 力:358

魔 力:408

攻撃力:276

防御力:259

素早さ:304

知 力:389

技 能:サーチ・アビリティ サーチ・アンデッド ヘルフレイム ライトニングボルト

=====


「なんか、無茶苦茶強くなってる!」


 職業も召喚士になって、魔法もいくつか覚えている。

 

 職業を選択した記憶はないから、おそらく剣士の召喚のせいで、自動的に召喚士ということになったんだろう。


 Lv24か。この世界に呼び出された勇者候補の中でも上の中の上のはずだ。それにすぐ到達するって、それだけビヒモスがヤバいモンスターだったんだな。


 でも、なんでステータスが見えてるんだろ?

 ああ、上昇したLvのどこかでサーチ・アビリティを習得してるからか。

 おそらく、習得していると自分のステータスは自動的にわかるようになってるんだろう。


 いや、そんなことは、どうでもいい問題だ。


 俺のLvが上がったということは、この鉄仮面の剣士は――


 ――俺が召喚したってことになるのか。


「いや、でも、俺、Lv1だったしな……。ビヒモスを倒せるような存在なんて召喚できるわけが……」


 そこで、ふと思い当たることがあった。


「なあ、お前、名前はわかるか?」


 剣士はしゃべることはできないようだが、剣で文字を書いた。


 アチャラ・ナータ――とカタカナで。


 アチャラ・ナータというのは不動明王のサンスクリット語だ。


「やっぱり……」


 この剣士は不動明王なんだ。まあ、本人がアチャラ・ナータと言ってるから、それに従うか。


 あのマントラは魔法が実在する世界では、最強魔法の呪文として機能するらしい。


 でも、じゃあ、なんで最初のステータスはLv1だったんだろう。


 これも推測だが、おそらくマントラによる魔法はこの世界の魔法体系とは根本的に違うのだ。


 いわば普通の「魔力」のほかに、隠しステータスとして「神聖魔力」みたいなのがあって、そのステータスが俺はずば抜けているのだ。


 で、その「神聖魔力」で使用できる魔法もステータス上は現れない。


 ――などと考えれば、一応の説明はつく。


 たしかに日本で体力測定はあるけど、魔力測定はないようなもので、その世界で把握されてないステータスが存在するということは原理的にはありうるだろう。


 あと、そもそも勇者候補は三十人のはずが三十一人いた。


 王国で召喚魔法を使っていた時に偶然、俺が光明真言というマントラを唱えて、ゲートを追加で開けてしまったのかもしれない。これも推測だけどな。


 …………。

 ……………………。

 …………………………………………待てよ。


 じゃあ、このマントラを使えば一気に最強になれるんじゃね?

ここでは召喚した神格の説明をします。


★不動明王 アチャラ・ナータ

宇宙の創造神が姿を変えて、悪を滅ぼすために武装した姿で顕現したと言われている神格。


なお、仏教の仏像は人間が信仰しやすいように、その場にあった図像を作ったもの。神格自体に実体はなく(もし肉体があれば時間の経過とともに滅んでしまう)、召喚すればその世界にあった姿で顕現するようになっている。アチャラ・ナ-タが剣士の姿で現れたのもそのため。


次回は本日夕方6時更新予定です。その次は夜11時更新の予定です。次もチートな呪文を使う予定です。

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