第34話 四天王進撃
新たに魔王となったベルエールは早速軍隊の編制を行った。
まずは軍事作戦のために四天王を定めた。
町一つほどの図体を持つ巨大ハイドラ――ボードリー。
この世界のありとあらゆる魔法を極めたという魔導士――ディルケア。
魔族の中で最強のドラゴン――ガルドレント。
水を操り、毒水で地下水を完全に汚染し町を根絶やしにしたこともあるウンディーネ――サルティアネ。
まさに四者四様の最強布陣であった。
彼ら四人は城の城壁外部に集結し、出立の儀式の最中だ。
なぜ、城の外なのかといえば、ドラゴンのガルドレント、ハイドラのボードリーが入れないからである。
新魔王ベルエールはすがすがしささえ感じながら彼らを見回していた。
彼らがここに並んでいること自体が即位したばかりの自分を荘厳しているかのようだ。
「四天王たちよ、君たちの力があれば必ず人間どもの小さな王国など塵のように消えてしまうだろう! 僕はそれを今、確信した!」
大仰にベルエールは抱擁でもするように手を広げる。
「だが、その前に我々魔族を振り回し、不愉快な行為を繰り返した先代魔王を討ちたいと思う。我が姉ではあるが、もはや姉などとは思っていない」
そう、ここに四天王を定め、彼らを並べたのはすべてはこのため。
「四天王たちよ、先代魔王を討ち、我ら魔族に再び栄光を取り戻させよ! 身内の恥を雪いだ後に、人間の恭仁も滅ぼしてやろう!」
ドラゴンの咆哮が城外に響き渡った。
完璧な作戦だ。
そうベルエールは思う。
この四人がマルファのいる森を囲んで攻め立てれば、確実に勝てる。
まずはマルファに従う者を殺したうえで、マルファは連行して、公開処刑にでもするか。
そうなれば、ベルエールへの求心力も一層強まることだろう。
マルファのあまりにも身勝手な作戦、人間を夫としたというふしだらな行為に、現在魔族の大半は憤っていた。
その怒りがベルエールの支持につながってもいるのだ。
マルファを殺せば、自分の地位は磐石となる。
このチャンスを逃してなるものか。
ベルエールはほくそ笑んで、政務の部屋に戻った。
しかし、政務中に水を差すようなことを言う者がいた。
オークの大臣、ドーネだ。オークの中では間違いなく出世頭である。
「申し上げます、魔王様、要塞が奇妙な崩壊をしたという件なのですが……」
そういえば、人間世界侵略の拠点である要塞の城壁が崩れたというのだ。
「超自然の力を操る魔導士が先代魔王の陣営にいたりする恐れも……」
「気にするな。戦場での築城だ。急がなければならなかったためににわか普請になったのだろう。それにどのみちあんなところまで人間が攻めてくることもない」
「では、調査のほうは不要でしょうか?」
「そうだ。それよりマルファをどう殺せば魔族の支持が集まるか考えておけ」
もちろん、ベルエールは万に一つも四天王が敗れるなどとは考えていない。
もしかすると一人ぐらいはマルファに倒されるかもしれないが、せいぜいその程度だろう。
◇ ◇ ◇
「――というわけで、以上の四人がおそらくわらわを殺すために差し向けられるであろう」
マルファの敵の説明はおおかたそれで終わった。
「たしかにこやつらは強い。じゃが、あまりに残忍でな、なので将軍には任命しなかった。それを逆恨みしてもおるかもしれんな」
「魔王軍なのに残忍だから要職につけないってのもシュールだな……」
「なんでじゃ。自分の部下が全員血も涙もない奴だったら、やりづらいではないか」
言われてみれば、そうか。
「このハイドラのボードリー、ドラゴンのガルドレント、魔導士ディルケア、ウンディーネのサルティアネの四人はかなりの強敵です。正直、私では荷が重いです」
申し訳なさそうにナリアルが本音を漏らした。
なお、増築で部屋が増えたので、広い応接間に丸机を置いて、作戦会議をしている。
「まあ、しょうがなかろう。ハイドラもドラゴンも大きさが違うからのう。ディルケアの魔法やサルディアネの水の汚染もナリアルが抗しきれるものではない。得手・不得手があるの」
「まあ、ここまで来たなら、返り討ちにしてあげますから問題ありませんわ」
ヴィナーヤカは今日ものほほんとしている。
そりゃ、負けるわけがないか。
ぶっちゃけ、ヴィナーヤカ一人にすべて任せれば――
「ヴィナーヤカ様、ダメです!」
なぜかシュリが席を立って、きっぱりと拒否した。
「せっかく立派な家を建てたんですよ。ここでじっと待っててドラゴンに燃やされたりしたらどうするんですか!」
シュリ、この家、そんなに気に入ってるんだな。
たしかに増築を主導してたのもシュリだったしな。
「では、森の外側で打って出るしかないのう。ただ、連中、おそらく分かれて攻めてくるぞ。こっちも分割して防衛するのは得策とは言えんのう」
ぽんぽんとシュリは俺の背中を叩いた。
「こんな時こそ、マントラがあるのよ。いい神格を呼び出しなさい」
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