第33話 自宅増築作戦
城からの帰路は行きよりはかなり早めの移動になった。
討伐軍みたいなのが派遣される危険性もありえたからだ。
たしかに地位を明け渡したとはいえ、元魔王の存在は新魔王にとったら邪魔以外の何物でもない。
たとえば、新魔王に不満を抱くグループがいたとする。
そういう連中が元魔王を担ぐことは十二分に考えられる。
あと、王国侵略の邪魔をするぞと宣言したようなもんだからな。
じゃあ、そいつらから片付けてやると思われてもおかしくない。
とにかく、姉と弟の仲がよほどよくない限り、マルファは新魔王ベルエールに命を狙われる恐れがあるし、それは俺も同じだってことだ。
とはいえ、さすがにすぐさま討伐というのは外聞も悪いのか、単純に新たな将軍の引継ぎなどが上手くいってないのか、無事に森まで帰れた。
帰るなり、シュリが、
「この家も狭くなってきたわね」
と言った。
たしかにナリアルまで実質、この家の住人になってしまったので、部屋の数が足らない。
今後も人数が増える可能性がまったくないとも言い切れないし(なにせマントラで召喚しちゃう可能性がある)、部屋はほしいな。
「じゃあ、作りましょうか、木造なら、木も周りにたくさんあるし」
お好み焼き作ろうかぐらいの軽いノリでシュリが言った。
「作るって、犬小屋作るのとはわけが違うぞ」
「あなた、私のスペック、理解してないでしょ……」
ちょっと、シュリがすねたみたいな顔を出して、部屋に引きこもったと思ったら、十五分後、
「はい、これでいいんじゃない?」
ものすごく精密な設計図を書いた紙を出してきた。
「お前、建築技能もあるのか?」
「建物見れば、脳内に図面なんて描けるでしょ」
いや、そんな奴いねえよ!
「あとはその知識のストックから今回の増築にいいものを選択していくだけ」
口調からとくに知性は感じられないが、やっぱりシュリって猛烈に頭いいんだな。
ちなみに図面によると、建物を回廊のようなもので一周できるようにさせて、その中央は小さな中庭にするというもの。
面積だけなら今の建物の7、8倍はあるので、実質的には新築だ。
「これはよいのう。わらわの別荘の20分の1ぐらいの広さはある」
マルファがさすが王族という発言をした。
「私の屋敷の10分の1ぐらいの広さはありますね」
ナリアルもさらっとすごいことを言った。
「えっ、ナリアルも超ブルジョワなの!?」
「将軍という役職に対して、屋敷が支給されるだけの話だが」
「俺も魔族になろうかな……」
明らかに日本より住環境でまさってるじゃねえか……。
しかし、設計費用はこれで浮いたとしてだ。
「こんな規模のを作るとなると、町の大工さんの規模だと難しいだろうな。王都で大きな工房を持ってるようなクラスでないと」
ヴィナーヤカが資産運用はしてくれてるはずだが、それでももっとお金を稼がないと費用が工面できないのではないか。
「何言ってるのよ。これから私たちで作るのよ」
「シュリ、積み木じゃないんだぞ」
「私たちのステータスなら、積み木みたいなもんよ」
本当に簡単だった。
まず、木を切り出す。
シュリやヴィナーヤカが豆腐でも切るように材木を作っていった。
俺やナリアルはその間に釘とか必要な材料を用意することにした。
マルファは(元)魔王だけにだらだらしていた。
組み立てもシュリが主導でさくさく進めていった。
たしかに材木を運ぶのが、想像以上に楽だった。
あと、組み立ては面白いのが、マルファも手伝った。
幼女にしか見えないが、手に長い材木載せて歩いていた。
だいたい、建物が完成したかなという頃合いに大きな荷馬車が何台も来た。
「わたくしが瓦業者を手配しておきましたの」
たしかに瓦はイチから焼いて作るわけにもいかないから、買っておかないとな。
日本のものと比べると一枚一枚が細長い。
おそらく西洋瓦に近い様式だ。
結局、その日のうちに新しい屋敷が完成した。
森に貴族の邸宅が突如出現したようなクオリティだ。
「まあ、こんなとこね。気になる点はいくつかあるけど」
これでとくに威張ることもないシュリ。
この世界に情熱大陸が放映されてたら絶対出演依頼が来ると思う。
その夜は新築の家を記念して、バーベキューをやった。
食材調達は例によってマハーカーラだ。
シュリとヴィナーヤカはほとんど野菜だけ、マルファとナリアルはほとんど肉を食べていた。
同居人、食に偏りが激しすぎる……。
「シュリ」
焼いたカブにタレをつけて食べているシュリに声をかけた。
「何? 中庭に植える花の相談?」
「お前、やっぱりとんでもないな。マジでリスペクトする」
感謝の気持ちはちゃんと伝えておこうと思った。
ちゃんと感謝の意を示しておかないと、恩恵が当たり前になって、マヒしてしまう気がしたのだ。
一応、仏教徒なので、そこはちゃんとしておこうと思った。
「今日はありがとうな」
「わざわざ、あらたまって言わないでいいのよ……。恥ずかしいじゃない……」
たしかにこんなこと急に言われたらやりづらいかもしれない。
夜でもはっきりわかるほどシュリの顔が赤い。
「ただ、あなたもそれなりに努力してるのはわかってるし、それに私も応えてあげようとしただけで……ああ、もう! なんでもないから! バカ!」
なぜか、ありがとうと言ったらバカと言われた……。
ひとまず気持ちは伝えられたので、よしとしよう。
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