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異世界魔王の耳に念仏唱えたら俺の嫁になった  作者: 森田季節


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第32話 魔王退位

本日から同時にもう一本連載を開始しました。なにとぞ、こちらもよろしくお願いします。もう一本のほうもタイトルに魔王がつきますが、そっちは魔王に転生してます。

「わかった。ベルエール、魔王はお前がやれ」


 その声を聞いたベルエールまでびっくりしていた。


 俺も驚いていたし、ナリアルやシュリやヴィナーヤカもちょっと意表を突かれたという顔をしていた。


「なっ……そんなあっさりと、魔王の地位を放棄なさるのですか……?」


「放棄するのではない。お前に譲るのじゃ。なんじゃ、魔王は嫌か。嫌なら違う者にするが」

「い、いえ、謹んで拝命させていただきます……」

 まあ、ここで遠慮したら本当に違う奴にやらせかねないからな。


「我が夫ゴーウェンとは、オルドアという森で仲むつまじく暮らしておる。そんなところに住んでおっては政務がつとまらんことぐらいはわらわもわかる。では、魔王の地位を諦めるよりないではないか」


「いえ……一般的に考えてその男がこの城に住むとか、いくらでも手はあるかと思いますが……」


 なぜかマルファは鼻で笑うような表情になる。

 ちっちっち、わかってないなあ、とでも言いたそうな顔だ。


「ベルエールよ、お前は恋を知らんようじゃな。恋に落ちた森にちょうど相手の家もある。ならば、そこで暮らしたいと思うのが自然じゃ。それに恋というのは相手に恋したほうが下手に出ねばならんのじゃよ。恋をした側の負けなのじゃ」


 毎日、俺が風呂で体と頭洗わされたりとか、あくまでもお姫様スタイルのわがままたくさん言ってくるけどな。


 かといって、掃除とか庶民みたいな仕事はしたことないだろうし、服だって自分で着たことあるか怪しいし、しょうがないかもしれないけど。


「あと、ゴーウェンを連れてきたら、お前ら、嫌な顔するに決まっておるではないか。夫のことを考えたら、そんなことはできぬ」


 それは実際そうだろう。

 絶対執拗な嫌がらせをされる。

 されるに決まっている。


「わらわは今日から魔王を辞める。ベルエール、お前が魔王として魔族をまとめよ」

「はっ、ありがたき幸せ!」


 任せると言われれば、ベルエールは当然受ける。

 こいつもあっさり魔王になれてうれしいんだろう。

 顔がにやけそうになるのを止めきれていない。


 けど、これだと、魔族と王国の平和な関係を作るのって、完全に振り出しに戻りそうだな……。

 また勇者にされた連中がたくさん殺されるのか。あんまり楽しい話ではないな。

 何年も停戦のままなんてことは、どっちみちありえなかっただろうけどさ。


 しかし、マルファは上目づかいで俺の顔をのぞきこんでいる。

「任せるのじゃ」

 と、片目を閉じて言った。


「ああ、じゃが、ベルエールよ、一つだけ忠告しておくぞ」

 やっと、マルファは俺から離れた。


「ドルディアナ王国の侵攻作戦が暗礁に乗り上げたのは事実じゃ。将軍ナリアルが我が夫に完敗したのも事実。我が夫とその使用人たちが滅法強いのも事実」


 こいつ、神格のこと、使用人って言ったな……。

 シュリはイラっとした顔になってたが、ヴィナーヤカは笑っていた。

 本当に強いと、小さなこと気にならなくなるのだろうか。


「我が夫は究極的に魔族と王国の平和状態を望んでおる。政治に関与するつもりはないようじゃが、もし王国を滅ぼそうと大軍を繰り出すようなことがあれば、それを止めるかもしれぬことは理解しておけ」


「お姉様は洗脳でもされましたか。人間との平和を語るなど、信じられませんね」


 ベルエールの言葉がすべてを物語っていた。

 そりゃ、そういう認識が普通だろうな。


 俺だって不戦条約に魔族と王国が調印しろだなんて言ってない。

 ただ、魔族の侵攻が止まれば単純に王国も平和になるだろうと思ってるだけだ。


「あくまでわらわは忠告しただけじゃ、もとより素直に聞いてもらえることは期待しておらぬ。半年前のわらわに言っても理解できんかったじゃろうしな」


 マルファは魔王だけが許されている豪華なマントをとると、


「ほれ、受け取れ、ベルエール」


 弟のほうに突き出した。


「今からわらわは魔族なだけの平民じゃ。わらわに従いたいという者は勝手にわらわの住む森まで来るがよい。あきれておるなら、ベルエールの元で奉公せい。以上じゃ!」


◇ ◇ ◇


 そのあと、マルファの部屋に俺たち一同は集まった。


「魔王様、本当にあれでよかったのでしょうか……」

 ナリアルはまだ不安そうな顔をしていた。


「わらわはもう魔王ではないぞ。マルファと呼べ」


 ああ、日本でも俺はもう隠居するぞとか言って、周囲が引き止めた偉い人とかたまにいたよな。たしか上杉謙信とかもそうだったっけ。

 でも、本当に辞める人って珍しい気もするけど。


「どっちみち、ゴーウェンが夫になった時からこうなる運命じゃったのじゃ。それにせっかくの新婚生活じゃし、もっと楽しもうではないか。のう、ゴーウェン」


 マルファが顔を俺のおなかのほうにひっつけてくる。

 正直、かわいい。

 ほかの目がなければ、俺も愛らしくてマルファを抱きしめてたと思う。


「済んだことはしょうがないわ。また、森で暮らしましょう」

 シュリは意外とサバサバしていた。

「ただ、さすがに手狭になってきたから増築したほうがいいかもしれないけどね」


「今の貯金なら、増築ぐらいならできますわよ」

 お金のことはヴィナーヤカにお任せしよう。


「では何の問題もないのう。またしばらくは森でのんびりできるであろう。しばらくだけじゃがな」

 少し思わせぶりにマルファは言った。


「また、何かトラブルが起きそうってことか?」

「我が夫よ、呑気すぎるぞ」

 嫁にダメ出しをされた。


「あんな話をベルエールにしたのじゃ。絶対にわらわたちを亡き者にしようとするぞ」

同時並行で新連載「日本の魔王は異世界でも魔王だったようです」     http://ncode.syosetu.com/n8405dd/ をはじめました! よろしくお願いします!

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