第28話 嫁とのいちゃつき
今回はいちゃいちゃしたり、きわどい話をするだけの回です。
次の日、魔族の世界に旅に出たいとシュリに言ったら
「そういうことは先に言いなさいよ。こっちも準備があるんだから!」
と言われた。
活動をしはじめようとしてるのに、微妙に理不尽だ。
「一応、新婚旅行って形だし、別に来なくてもいいぞ」
「そうじゃ、わらわはゴーウェンと二人きりでもいいんじゃぞ」
マルファも口をタコみたいにとがらせている。
「そういうわけにはいかないの。ゴーウェンに私は召喚されたんだから、ちゃんとついていかないとおかしいでしょ!」
そういうものなのかな。
ただ、ヴィナーヤカがくすくすと笑っていた。
「あらあら、智恵の神格の眷属をしてるくせに、自分の恋心はよくわかりませんのね」
「ちょっと! 恋心ってどういうことですか!? わ、私は恋とか、そんな……何の関係もありませんからね……」
ヴィナーヤカは他人をおちょくるのが本当に上手いな。
しかし、シュリも色恋に疎すぎるだろう。
まあ神格の世界はそういうものなんだろうか。
とはいえ、シュリが俺を好きな可能性はちょっと考えづらいから、こっちとしては気楽だ。
食卓にはマハーカーラが作ってくれた完璧な朝食が並んでいる。
サラダにジャムを塗ったパン、ボイルドエッグ、あと、チーズ。
まあ、チーズやジャムはシュリやヴィナーヤカが近くの町から買ってきたものだが。
とくにヴィナーヤカが買い物に行くと、ものすごい美少女が来たと町が色めきたつらしい。
そりゃ、神格だからな。まさしく天上の美ってやつだ。
シュリもかわいいと思うが、獣人だと認識されるせいか、そこまで盛り上がりはしないらしい。やっぱり獣人は差別対象なんだな。
まあ、奴隷は値段がけっこう張るらしいので、奴隷市みたいなのを見たことはないし、働いてるのもほとんど見たことはないのであまり実感は湧いていない。
「ほら、我が夫よ、あ~ん(はぁと)なのじゃ」
マルファがボイルドエッグの載ったフォークをこっちの口に持ってくる。
「はい、あ~ん」
もし、これをヴィナーヤカにされたら恥ずかしいと思うが、マルファの場合は子供だからというのもあるのか、そこまでの恥ずかしさはない。
むしろ見てる側が恥ずかしさを強く認識するらしい。
シュリが今日も顔をしかめていた。
「夫婦愛がいいのはけっこうだけど、もうちょっと人の目を気にしなさいよ」
「使用人ふぜいがうるさいのじゃ」
マルファはシュリに冷たい。
「私は使用人じゃないの! あなたよりはるかに偉いの! 間違えないで!」
「ふん、たんなる獣人ではないか。魔族は獣人を差別はせんが、讃えもせんからの」
「だから、獣人じゃないの! もっと偉いんだって!」
わざとイライラさせるようなため息をマルファはつく。
「ふん。我が夫に懸想しておるんであろう。お妾ぐらいになら、妻のわらわの好意で許してやってもよいぞ」
「め、め、めかけ!?」
シュリが顔を真っ赤にする。
あっ、これまでで一番尻尾が長く伸びた。
「け、け、汚らわしいにもほどがあるわ……。ほんとにありえない……」
「じゃが、そこまでこっちに絡んでくる理由がほかにないではないか。まったく、人の夫に色目をつかいおって」
「だから、色目なんてつかってないって……。も、もう、元の世界に帰っちゃうんだからね……」
シュリはもう涙目だ。さすがにやりすぎたか。
「おいおい、マルファ、いじめちゃダメだぞ。お前は世界平和とか考えてるんだろ」
「そ、そうじゃったな……。ゴーウェンがそう言うなら気をつけるのじゃ……」
マルファの頭に手を載せる。
「ほら、言い過ぎましたって謝れ」
「うっ……」
抵抗があるのは理解できるが、このままにしておくのもよくない。
「わ、悪かったのじゃ、シュリ……」
ちゃんとマルファが頭を下げる。
「よくできました」
今度は頭を撫でてやる。
「う~、気持ちいいのじゃ~」
こうすると、マルファが喜ぶ。
もう俺も同居人が増えたというより、猫を飼ったような気持ちである。
一方、その様子をずっとヴィナーヤカはにやにやしながら見ている。
「それじゃ、マルファさん、わたくしもお妾さんとして認めてもらってもよろしいですの?」
また、この人、悪乗りしてきたな……。
「おぬしはすでに妾と認めておる。というか、そうでなきゃ、我が夫とちょこちょこ抱き合っていることを容認できるわけなかろう……」
ヴィナーヤカはもともと男女の抱擁像なので定期的に抱き合っていないと落ち着かないのだ。
「正直、わらわの体では、我が夫をじゅうぶんに満足させることができないのじゃ……。おぬしの大人っぽい体がうらやましいのじゃ……」
「マルファさんもいずれ大きくなりますわよ。百年も我慢すれば大丈夫ですわ」
それ、俺が生きてないと思うんだが。
まあ、でも地味に性生活っていつかは深刻な問題になるかもな。
夫婦は夫婦だからな。
五年後も十年後もお互いを必要としてたら、はい、ぎゅっと抱き合うだけですってわけにもいかなくなってくるかもしれない。
でも、今のマルファの体だと、正直、犯罪臭が強すぎる……。
まあ、朝からそんな下世話な考え事はやめておこう……。
「そうですわねえ。わたくしとゴーウェンさんは清い関係ですが、もしゴーウェンさんが我慢できないなら、厳密には神格ではない方で気を静めるというのもいいんじゃありません?」
ちらっとヴィナーヤカはシュリのほうを見た。
これ、絶対嫌がらせだな。
また、シュリが顔を真っ赤にしている。
そりゃ、シュリじゃなくてもそういう顔になる話題だわ……。
「ほら、今日は家の掃除するから……あんたたち夫婦は買い物にでも行ってきなさい!」
朝食を食べ終えた俺とマルファは早々に追い出された。




