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異世界魔王の耳に念仏唱えたら俺の嫁になった  作者: 森田季節


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第25話 魔王が天使になりかけた

昨日は更新順番間違えてすみませんでした! 昨日、これを25話扱いで更新してしまいました。抜けてたものは再度24話として投稿しています。すいません!

「はっ? わらわを? 善良な? 神に?」


 マルファは何を言ってるかよくわからないという顔になる。


「そうだ。お前をそんな存在に変えてやる」

「なるわけがないであろうが! わらわは魔王マルファであるぞ!」


「ここでさっき言ったマントラの説明に戻るんだよ」

「マントラとかお経というのは聖なる呪文なのであろう? それがどうした?」

 こいつ、記憶力いいな。さすがは魔王だ。


 俺は口をマルファの耳元に寄せる。


「俺はその聖なる呪文を自分の力を引き出したり、召喚のために使ってた。けど、聖なる呪文ならこういう使い方もできるんじゃないかって思ったんだ」


「ぞくぞくするではないか! 耳元でしゃべるな!」


「ちなみに、俺のいた国では馬の耳に念仏ってことわざがある。馬に聖なる呪文を唱えても無意味ってことだ。馬には意味を理解する能力がないからな。ケンタウロスなら別だろうけど」


「じゃから、耳元で囁くでない!」


 ならば――


「魔王の耳に念仏ならどうなる?」


「はっ?」


「人」として生きており、文化的な生活を送っている魔王に聖なる呪文を聞かせれば――浄化作用があるのではないか。


 すべては仮説だ。

 だから、これから実行する。

 現実にやって試す。


 俺はマルファの耳元でこう唱える。

 念仏とは、究極的には、しばしばこの言葉を意味する。


「ナムアミダブツ」


 日本人が軽く千年間は唱えてきた呪文。


 日本人が最もよく知っている呪文。


 マントラが力を持つなら、これだって力を持ってしかるべきはずだ。


 光が生まれた。


 マルファ自身が発光しているのだ。


 あまりのまぶしさに俺は思わず、そこから離れた。


「な、なんじゃ……これは……? いったい、何をした……?」


 効果はあった。

 あったけれど、具体的にはどうなるのだろう……?


「魔王様!」


 俺の代わりにナリアルが魔王に抱きついていったが、それでも発光は止まらなかった。


「なあ、シュリ、これ、何が――?」

「私だってわからないわよ!」


 森というのは太陽の光を木々がさえぎるので、そう明るくはないのだが、その森が明るく照らされていた。


 結局、三分ほどでマルファの光は止まった。


「まったく、面妖なことをしおって……」


 マルファはゆっくりと立ち上がる。

 もしかして光らせる効果しかなかったのだろうか。

 マルファはこちらの顔を上目づかいで見つめてくる。


「ふん、お前らを血祭りに上げたあとでドルディアナ王国を滅ぼし、貧しい者に施しを与えてやるからな。覚悟しておくがよい!」


 あれ?


「魔王様、言葉がどこかおかしかったような?」


「国を滅ぼしたあとは、各地の孤児院に寄付をしてやるぞ。恐れおののくがよい――あれ、わらわは何を言うておる? さあ、悪を調伏し、正義を興すのじゃ――おいおい、何だ? どうなっておる?」


 マルファは混乱していた。


 まさか、本当に善の心に目覚めたのか?

 いや、心が善になってるかはわからないが、少なくとも発言は善人寄りになっている。


「あっ、魔王様、羽が……」

 マルファの悪魔めいた羽がぽろりと抜け落ちた。


 それからもう少し鳥っぽい羽が生えてきた。


 そして、今度は突き出ていた二本の角がくるっと180度回転して――


 羊みたいな下向きに変わる。

 これなら頭突きされても安全だ。


「なんじゃー! 体がおかしなことになっておるぞー!」


「念仏の力は恐ろしいですわね」

 もともと邪神寄りの神格だったヴィナーヤカがしみじみと言った。

「これで、戦闘どころではなくなったかと思いますわ」


 まあ、かなり深刻なアクシデントっぽいもんな。


「くぅ……体中に慈愛の心があふれてくるではないか……。早速、魔族内の法も恩寵に満ちたものに改正したくなってきた……」

 槍を杖代わりにして、マルファはどうにか立ち上がる。


「なあ、どうする? まだ戦う?」

「ちゅ、中断じゃ……。今のわらわは槍を握る力が入らん……。お前と戦う気持ちになれん……」


 これは敵の試合放棄でこちらの勝ちということでいいんだろうか。

 勝ち負けはともかくとして、俺たちの命が助かったのは事実だ。


「あなた、よくやったわね。けっこうギリギリだったけど」

 ぽんぽんとシュリが背中を叩いた。

 ああ、動けるってことは槍の効果も消えてるんだな。


「まぁ……お前の命も懸かってたしな……。あとは結果オーライだ……」

 命を助けた相手に褒められると、どうにもむずがゆい。

 いっそ、俺のおかげで助かったんだから感謝しろよぐらい、冗談めかして言ったほうがよかっただろうか。


「うん。私も助けてくれてうれしかった。あなたがマントラを使える理由もわかった気がする」

 なんだ、ベタ褒めかよ。また俺、熱出るんじゃないだろうな。


「お前が動けなくなってるとわかって、あわてて飛び出したけど、誰も傷つかなくてよかった」

「ああ、やっぱ、そういう認識だったんだ」

「へ?」


「私、あの槍で動けなくなったりなんてしてないよ」


「…………待て。今、なんて言った?」


「だって、あの槍はこの世界の神を殺すためのものよ。違う世界の存在である私たちにはなにも効かないわよ。刺せば痛いかもしれないけど、動きを止めるだなんて特殊能力的なものは無関係。もちろん、ステータス悪化の効果すらナシ」


「でも、お前、じっとしてなかった?」

「そりゃ、動けなくなるって言われた途端、挑発で踊ったりしないでしょ。むしろ、動けなくなってるって信じてる敵を迎撃したほうがいいし」

 え、じゃあ、俺の命の懸け損ってこと?


「本当にピンチだったら加勢しようと思いましたけれど、けっこうゴーウェンさんだけでもどうにかなりましたわね」


 ヴィナーヤカは結局戦闘中から今の今までずっとのほほんとしていた。


 すいません、そこは見守らずにもっと早く加勢してください……。

次回タイトルどおり、魔王が嫁になります!

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