第20話 要塞陥落後のそれぞれ
★オーガの女将軍ナリアルの場合
ナリアルは馬を駆って、魔王マルファのもとへと急いでいた。
戦局はわずかの間に激変してしまった。
魔王に忠誠を誓う者として、このことをすぐでにも伝えねばならない。
ただ、魔王の城までの道のりは長い。途中、どうしたって雑念も入ってきてしまう。
脳裏にちらつくのは一貫して紳士的な態度をとっていた、あの剣士のことだ。
ゴーウェンといったか。
自分の命を生かしてくれたところまでは理解もできる。敵将をわざと生かして利用するというのは兵法からしても、そこまで奇抜なことではない。
しかし、それで捕らえられた自分をわざわざに助けに来るなどというのは、もう策や法の概念を逸脱している。
あれではまるで、本当に助けたいから助けたとでも言うしかないではないか。
「あまりにも非常識すぎる……。どうして敵の命をそこまで大切にする……?」
わけがわからず、馬上でナリアルは首を振る。
もっと、わけがわからないのは、自分がずっとそんな男のことを考えてしまうことだ。
「くそ、いったい何なのだ!」
オーガの女騎士は若くしてその任をまっとうし続けていたから、色恋の免疫など一切ない。
これではまるで自分があの男を好いているようではないか……!
自分の気持ちを振り払うように、ナリアルはさらに馬の速度をあげた。
◇ ◇ ◇
★詰問使の場合
その頃、王国の森のひとつに一匹のドレイクが飛来してきた。
ドレイクはとくに人を襲うでもなく、木の実や獣の肉などを食べて、淡々と隠者のように暮らしていたという。
しかし、時折、森を通りかかる人間に人語で話しかけ、羊皮紙を求めたという。
そして、紙に超越的な存在と出会ったことに関しての記述を延々と書き綴っていくことになる。
自分の体験を具体的に書き記していくことだけが、彼にとって自己を保つ最良の方法であったらしいのだ。
これはその後『超越者との出会いについて』という本としてまとめられ、王国の大学の神学科や哲学科に強い影響を与えることになった。
◇ ◇ ◇
★ゴーウェンの場合
無事に将軍を助けた翌日、俺は目覚めた時も抱きつかれていた。
「あの、もう起きたんだけど」
もうヴィナーヤカが横にいるのは日常なので驚かない。
「今日は特別ですわ。ほら、わたくし、大活躍したじゃありませんか。だから、もっとゴーウェンさん分を補充するんですわ」
そりゃ、つぶすつもりのなかった要塞をつぶしたからな。
もう、ナリアルが魔王に報告しようがしまいが、魔王軍で大問題になることは間違いない。
「いや、でも、ひっつかれたままじゃ食事もできないし、いろいろ困るんだけど……」
「じゃあ、わたくしを食べますか?」
「いや、それ、比喩表現であって食事の代わりにはならないから……」
「そろそろ本当にわたくしと交わってもよろしいんですのよ?」
朝から言う台詞じゃないよな、これ……。
「普通の人間では絶対に味わえないような快楽を作れますわよ?」
ややこしいので聞かなかったことにしよう。
多分、それに慣れるとSAN値が減るというか、帰ってこれなくなる。
それに、そろそろ起こしにきてもらえるだろうし。
勢いよく俺の部屋の扉が開いた。
「はいはい、朝よ、もう起きてきなさ――ああ、またそんなことしてる!」
シュリが定期的に巡回に来てくれるので、一線を超える心配はない。
「ほら、ヴィナーヤカさんも離れてください! 朝ですから! ハグの時間は終了です!」
「嫌ですわ! 昨日たっぷり働いたから今日は休日なんですわ!」
「休日だとしても起きるぐらいはするはずです!」
シュリがヴィナーヤカを引っ張る。
うん、もっとやってくれと心の中で応援する。
「わたくしは呼び出した人をものすごく幸せにして破滅させるところまでで一セットなんですから!」
なんか、怖くなること、さらっと言ったな……。
「たとえばわたくしを召喚した平清盛なんてそうでしたでしょう? 人間として得られる最高の権力とともに転落も味わう、この両方があってこその人生なんですから! だから、まずはもっと最高に甘やかすんですわ!」
「わざわざ転落させなくていいですし、甘やかしすぎなくてもいいです! 中ぐらいがいいってお釈迦様もおっしゃってるじゃないですか!」
結局、十分後にようやく俺はベッドから解放された。
次回から魔王マルファ編になります。
幼女魔王、しっかり活躍させたいです。




