第2話 ステータス測定
気づくと、俺は大きな神殿らしき建物の中にいた。
鎖と結んでいたバンドだけが腰に残っている。
周囲には今さっき目覚めたような人間がたくさんいる。俺と同じ目に遭ったらしい。
現代人ぽい服の奴もいれば、もっとSFチックなメタリックな服の奴も、ファンタジー世界の村人みたいな姿のもいる。
もしかして、俺のほかはコスプレ会場から連れてこられたのだろうか。それにしては、服装がリアルに感じられる。
ホビットぽい奴の服なんて土で汚れてるけど、コスプレなら汚しまではしないだろう。
あと、特徴的なことと言えば、足下に巨大な魔法陣(俺を吸収したゲートに似ている)が描いてあること。しかも、それがピカピカ発光していた。
どうも冗談ではないらしい。
と、奥にあった高さ三メートルはありそうな巨大な扉が開いた。
入ってきたのは魔導士のようなローブを着た男だ。四十歳ぐらいだろうか。
「ようこそ、三十名の勇者候補たちよ!」
抱擁でもするみたいに、両手を広げて、魔導士は言った。
えっ? 今、勇者候補って言わなかった?
そのあと、俺たちは王のところまで連れていかれて、王から直々に説明を受けた。さっきの神殿からはすぐに着いた。あの部屋は王国最大の魔法用の施設で、悪用を避けるために城の敷地内にあったらしい。
王いわく――
「突然、呼び出してしまって、申し訳ない。だが、我々にはこうするしかなかったのじゃ……。ドルディアナ王国は魔王軍の侵攻を受けておってな……」
――ということであるらしい。
「無論、我が国の冒険者たちも魔王軍に対抗しようとはしておる。しかし、数が足りん。そこで召喚魔法で異世界からすぐれた力を持つ者を呼び出し、勇者として戦ってもらっておるのじゃ」
ああ、よくあるやつだ。
「そなたたち三十名は皆、勇者としての適正を持っておるはずじゃ。そういう者だけを王国の筆頭魔導士アライルが召喚魔法で呼び出しておるはずじゃからの」
さっきの魔導士も相当偉い人だったらしい。
「ここからは少し専門的な話になりますので、この私、アライルが説明いたしましょう」
アライルの話を要約すると、こうなる。
この世界のすぐれた魔導士などの一部は、人間の能力を数値化して見ることができるという。これもよくあるやつだ。
そして、一般人をだいたいLv1とすると、この国の冒険者はビギナーがLv5、中級でLv15、上級でもLv30以上はほとんどいないという。
なのに、異世界から来た勇者候補はいきなりLv15という中級冒険者程度の実力を持っていることが多いそうだ。
スポーツ強豪校が優秀な成績の子供をスカウトしてくるようなもので、育てる時の効率がはるかによいということだろう。
ただ、勝手にこっちの国に引っ張り込まれたわけなので、当然苦情もある。
「あの、私は、自分の国に帰りたいですけど、それはできるんですか……?」
十七歳ぐらいの娘が聞いた。服装からして、武道のようなものをやっていたらしい。まあ、無論出てくる疑問だよな。
「残念ですが、元の国に戻る魔法は極めて難解でして……危険も多いため、私も扱えておりません……」
つまり、「戻るのは無理です」ということだ。
一部の勇者候補から文句が出たが、俺としてはどうでもいいかと思いながら聞いていた。
元の世界に戻っても、厳しくて実りのない修行の日々だしな。それなら、勇者という立場でちやほやされるほうがまだ楽しみがある。
魔王軍と戦うとしたら危険はあるだろうが、俺たちがいなければ王国が存亡の危機に立たされる(はずだ)から、そう悪い待遇にはできないだろう。
「強制はできませんが、勇者として戦ってくださった方にはそれなりの報酬を出します。最前線に出るのが嫌だというのであれば、町の警備などでもよろしいですので……」
やはり、出すものは出すということらしい。
戻ることが(相手の言ってることを事実とすれば)無理である以上、渋っていた連中もそれでひとまず黙ったらしい。
「まずは皆さんにどれぐらいの力があるのか、私のサーチ・アビリティの魔法で確認いたします」
たしかにまだステータスもわかってなかったからな。
「それから練習用のダンジョンに案内いたしますので、そこで戦闘に慣れていただいたうえで、こちらが派遣先を提案いたします」
研修を受けたうえで各支店に飛べってことだな。まあ、異世界といってもシステム自体は日本の企業と大差ないな。その企業に全部落ちたんだけどね……。
「では、順番に並んでください。サーチ・アビリティの魔法をかけていきます」
俺たちは誰に言われたでもなく、譲り合って一列になった。前のほうでは、「あなたはどういった世界から?」「俺は氷ばかりの寒いとこです」みたいな話をしている。
どうやらこの世界に飛ばされてきた時点で言語は自動的に通じるようになっているらしい。おそらく、魔法陣のゲートをくぐった時になんらかの影響を受けるようになってたのだろう。
しかし、人数を数えていた魔導士アライルが、あれ? という顔になった。
「おかしいな……三十人のはずなのに、三十一人いるぞ……。まあ、多くて困ることはないか」
たしかに勇者候補が多くても問題はないだろう。
そして、ステータス測定がはじまった。
こんな声が聞こえてくる。
「おお! 最初からLv23! これは期待できます!」
「Lv12ですか。ここからさらに伸びていくわけですから悲観されることはないです」
「Lv17。召喚された勇者の平均よりも上ですね」
順調に検査は進んでいく。なかには、最初異世界に飛ばされたことを渋っていたくせに、自分のLvが高いとわかると、急にテンションを上げている奴もいる。現金なものだ。
そして、俺の番になった。
魔導士アライルがぶつぶつと何か唱えながら、俺の頭に杖をかざす。
すると、杖がほのかに発光する。
これで全部がそうだとわかったわけではないが、ここの世界の魔法は呪文詠唱で効果を発揮するタイプらしい。
俺の眼前にウィンドウみたいなものがポップアップされる。俺にもステータスは見えるらしい。
さて、どんなものかな。
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ゴーウェン
Lv1
職 業:未定
体 力:8
魔 力:6
攻撃力:7
防御力:6
素早さ:7
知 力:9
技 能:なし
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ゴーウェンていうのは、俺の僧侶名の「豪円」のことだろうな。カタカナのほうがファンタジーぽい。
それはいいとしてだ。
…………あれ?
これ、なんか、ものすごく弱くない?
「……あれ? 一般人レベルだと? そんなバカな? 勇者はどんなにLvが低くても8程度はあるはず……」
魔導士アライルもテンパってる。
やっぱり、ザコだよ! これ、どうするんだよ!
横にいた王様もぽかんとしていた。
「町のゴロツキですらLv3ぐらいはあるというのに……。なんで、こんな事故が起きておるのじゃ……」
そんなの、こっちが聞きたいよ……。
アライルが、意味がわかったという顔になる。
「そうか、三十一人いるのがおかしいと思ったが、一人、一般人が紛れこんでいたのか」
勇者でもないのかよ、俺……。
第3話は本日夜11時の更新予定です。