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異世界魔王の耳に念仏唱えたら俺の嫁になった  作者: 森田季節


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第17話 女騎士救出作戦1

「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ!」


 韋駄天スカンダのマントラを唱えると、俺は森を抜けて、野を駆けていく。


 これは端的に言うと、自分を時速400キロで走る新幹線(むしろリニアだろうか?)に変える魔法だ。


 速いのはいいが、難点もある。障害物にぶつかると即死の恐れがあるのだ。


 まあ、森みたいなところを除けば、原野が広がっているので、そんなにリスクはない。日本みたいにやたらとゴミゴミしてて山の多い国土じゃなくてよかった。


 いつのまにか雪景色に変わっている。

 王国の北は雪が溶けるのが極端に遅く、あるいは永久凍土になっていたりして、昔から人間はほとんど住んでいなかったという。


 つまり、魔王側の領土だったってわけだ。


 その要塞の一つに俺は向かっている。


 やがて目的地に近づいてきたので、俺は足をゆるめた。かなり手前で減速しないと止まれない。


 止まった途端、急激な疲労がやってきたが……。


「足が棒みたいになってる……。関節が明らかにおかしい……」

 要塞の近くの松林で俺休息する、というか、単純に倒れている……。


 そこにシュリとヴィナーヤカが姿を現した。神格側の意思で自由に出たり消えたりすることが可能らしい。


「だらしないわね。修行が足りてない証拠よ」


「そんなこと言ったって、修行半年でこちらの世界に来ちゃったんだからしょうがないだろ……」


「あら、野外で抱擁いたしますの? いわゆる野外プレイですの?」


 ヴィナーヤカがすぐに抱きついてきた。本当に抱きつくの好きだな! あと、言葉のチョイスがまずい!


「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ……」


 薬師如来バイシャジヤのマントラで体力を全回復させた。


◇ ◇ ◇


 その十五分後。


 俺たちはヘランダ要塞内部に潜入していた。


 どうやら、まだ誰にも気づかれていないらしい。


 いかにそんなことをやってのけたのか。種もしかけもないと言うとウソになってしまうが、そんなたいしたことはやっていない。


 またマントラだ。


 摩利支天まりしてんマリキのマントラを使った。


 ちなみに、オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ。


 日本ではあまり単独で祀られているのを見ないかもしれないが、このマリキは戦国時代などはたいそう武士に信仰された。


 というのも、この神格は完全に姿を消すことができると言われていたからだ。


 相手に見えない――裏をかくのにこれほどいい方法はない。


 よくバトル漫画で見えない敵を気配を察知して戦うだなんてことをやるが、そんなことができるのは、それこそバトル漫画に出てくるような猛者だけだ。ステルス機能の敵に勝つなんてほぼ不可能だろう。


 このマントラはまさにそういうステルス状態を作り出す。

 それだけじゃなく、足音すらも消してしまう。


 なお、マントラの効果を受けている俺たち三人の間ではちゃんと姿は見えている。微妙に透けて見えるけど。


 それで要塞の見張りの交替時間にまんまと内部に侵入したというわけだ。 


「誰にも見えないってことは、ここで裸になってもわからないということですわよね」


「変なこと言うな!」


 なお、声は相手に聞こえるので、あまりしょうもないことは言わないでほしい。


 要塞というだけあって、城門の奥もいくつもの建物が並んでいる。


 塀の前で何か食べているオークやゴブリンはおそらく休憩時間の兵士なんだろう。


「おそらく、大阪城の半分ぐらいの広さだな」


「それって、どれぐらいの広さですの?」


「単位はヘクタールでいいですか?」


 いや、シュリ、数字で具体的に言っても伝わらんだろ。


 さて、これがRPGだと、俺はすべての部屋をくまなく捜索するタイプなのだが(アイテムを見つけられる可能性がある)、実際に捜索するとなると、あまりにも無駄が多すぎる。


「シュリ、ナリアルが捕らえられているとしたら、どこだろう?」


「憶測で答えるしかないけど、定石は地下牢じゃないの? 上層階に牢を作るなんてことはしないはずよ。だって、建物内に攻め入られた時、籠城側は上で守るもの」


 たしかに大事な空間をいちいち牢には割かないか。


「で、どんな建物に地下牢があるかって話だけど、大きい棟でしょうね。そういうところは貯蔵庫や井戸も兼ねて、地下にスペースを作ってることが想像できる」


「妥当だな。じゃあ、大きいところから侵入するか」


 ひとつひとつの建物の前には見張りが突っ立っているだけなので、姿の見えない俺たちは余裕で侵入した。


 おそらく、わざわざ俺たちに書状で伝えた奴は侵入されてることすら気づいてないだろうな。


 あとで赤っ恥かかせてやる。


 そして、地下への階段を二層ほど下ると――


 ナリアルが捕らえられている牢にたどりついた。


 立たされた状態で両手足を縛られている。

 なんとなく、敵の性癖がわかりそうな仕様だ。


 かなり疲弊しているようではあるが、目はうつろながらも開いている。

 殺されてはいないらしい。間に合った。


 その向かい側には机で羊皮紙を広げているドラゴン――にしては小さいな。これはドレイクって種族か。


「ナリアル将軍、手を組んだ人間について何か語ってくれれば情状酌量の余地もあるが」


 血も涙もない酷吏みたいな声だった。

 そもそもドレイクの手で何か文字が書けるのかと思ったら、魔法でペンを操作していた。

 それなりに上級の魔族だな。


「何度尋ねても同じです。私は本当に人間などと手を結んではいない……。すべてこちらの判断で……」


 疲れた声でナリアルが答えた。


「ふうむ、そうか。では、あなたが人間に洗脳を受けたとでも考えるべきかな。あなたの魔力耐性はそれほどではない。信じられないような強大な敵を見つけたと騙されることもありうる」


「だから、騙されたのではない。バディア殿、あれは真実だ……」


「仮に洗脳だったとしても、騙されたのだとしても、突然兵を撤退させる無様なことをしでかした将軍に戻る場所などないがな。魔王様の威厳を傷つけただけでも、充分に極刑に値する。魔王様に代わって、お前を処刑する」


 バディアというドレイクはそう解釈した。


 やっぱり俺たちのこと、信じてもらえてないな。


「まあ、どちらにしろ、あなたが戦った人間のところには、あなたの処刑を告げる一報を送った。魔王軍を押し留める計画が失敗したことを悔しがっていることだろう」


 たしかに、簡単に押し留めることには至ってないな。


「将軍を助けたかったら、要塞まで来いと書いてやったが、もしこれで本当に来てもらえたら、将軍は果報者であるな」


 それが来ちゃってるんだよなあ、これが。


「もっとも、手を結んでもおらぬのなら、連中が来てくれることなど絶対にないが!」


 それが手を結んでもいないのに、来ちゃってるんだよなあ。


 よーし、それじゃ、このドレイクの顔を真っ青にしてやろうか。


神格紹介

★摩利支天マリキ

もともと陽炎を神格化したものだなどと言われていて、そのせいかステルス機能を持っていると考えられていました。

作中では、まさにそういう能力のマントラとして使いました。

本文にも書きましたが戦国時代に武士にかなり信仰されました。

あまり祀っている有名寺院などはないですが、東京だと上野のアメ横のあたりに摩利支天信仰のお寺があります。


次回更新は明日昼12時30分頃の予定です。

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