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異世界魔王の耳に念仏唱えたら俺の嫁になった  作者: 森田季節


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第16話 ナリアル救出へ

 ――ヴィナーヤカに裸で抱きつかれた翌日。


「やっと、熱が下がったな……」


 ベッドから起き上がると、俺は大きく伸びをした。

 明らかに昨晩より体が軽い。


 なかなか長期間にわたって寝ついていたなと思う。もしかすると、異世界から来たのでこの世界のウイルスに耐性がなかったのかもしれない。


「やっと、治ったのね。丈夫じゃないわね」

「あら、もう治っちゃったんですの? つまんないですわ」


 どっちもたいがいひどいことを女性陣から言われた。


「体調もよくなったし、久しぶりに町にでも出るかな。ここずっと森の中にいただけだったし」


「ああ、それなんだけど、その前に優先しないといけないことがあるかもね」


 シュリがなんだか厳しい顔をしている。だいたい、にこやかに笑ったりはしてないのだが、今日はとくに表情が重い気がした。


「昨日、出かける時に魔王軍の使者に出会ってね。こんな書状を渡されたわ」


 シュリから羊皮紙を受け取る。そこにはこんなことが書いてあった。


 魔族の言葉じゃなくて、現代王国文字で書かれているということは、こちらに読ませるのが前提ってことだな。


~~~

ナリアル将軍の協力者である人間へ

貴様らがまんまと騙したナリアル将軍は、この書状を渡した五日後をもって反逆者として処刑する。もし、将軍を助けたければ北方のヘランダ要塞まで来られたし。

なお、将軍は魔王様への謁見はかなっていない。将軍は魔法で誤魔化せても同じ手が二度は効かないと知れ。

魔王軍詰問使 バディア

~~~


 文面は短いからすぐに読み終えた。


「将軍に言っておけば一定の効果があると踏んだんだけど、そう上手くはいかなかったみたいだな。なんらかの単独行動を咎められて、魔王から先に変なのが派遣されちゃったらしい」


「それで、どうするの?」


 シュリは単刀直入に聞いてきた。


「これは魔王軍の中での問題よ。こいつらが殺しあおうと、大きな流れは変わらないわ」


 たしかに、これは人質ですらない。

 こっちは女将軍と結託したことなどないのだから。


「しかも、ヘランダ要塞って馬を飛ばしても二日はかかるわ。私たち神格は実体がないからそこに移動することもできなくもないけど、あんたはそういうわけにもいかないでしょ」


「うん。テレポーテーションの魔法はどっかのRPGみたいに行ったことのあるところしか行けない。多分、具体的に記憶でイメージできないからなんだろうけど」


「あと、わざわざこれを送ってくるってことは、罠よ。罠っていうか、ナリアルって将軍が人間側に寝返ったとでも思ってるんじゃない?」


 そりゃ、俺たちの存在なんて信じてもらえないよな。

 俺はともかく、シュリやヴィナーヤカのステータスを見た瞬間、戦意喪失するんじゃないか。


「以上、つらつらと話したけど、どうする?」


「行く」


 悩む要素はなかった。


「知ってる顔が殺されるってわかっててじっとしてるのも嫌だし、あとなにより――これを書いた奴がムカつく」


 おそらくドヤ顔で書いてるんだろうけど、それを考えただけでイライラする。


 勝手にこっちのことをウソだと決めつけてるんだろうけど、ガチだからな。


「まんまと向こうの誘いに乗って、鼻を明かしてやる」


「じゃ、旅に出る支度はしといてね」


 シュリは間を置かずに言った。

 こいつ、俺が断ることなんて最初から考えてなかったな。


 俺は正義の味方を気取るつもりなんてない。

 ただ、俺の周囲には神格がいるのだ。

 ということは善行と思えるものはできるだけ実行していかないといけない。


 俺たちの力なら確実に救える命があるなら、救うべきだ。


「馬で二日なら、スカンダの真言を使えば、すぐですわね」


「持久力はわからないけど、速度だけならそんなものだと思う」


 むしろ要塞に忍びこむ方法を考えておかないとな。

 要塞を力押しで全滅させたら、ますます向こうは意固地になるだろう。ここはピンポイントで、この詰問使をぶちのめしつつ、とんでもない存在がいるって教えてやるか。


 何かないかなと脳内の神格索引を開く。

 虚空蔵菩薩の力のおかげで一度でも目にした言葉は辞書的に脳内から引っ張りだせる。あの弘法大師空海もおそらく使っていただろう異能だ。


 ああ、完璧なのがあった。


◇ ◇ ◇


★一方、その頃のヘランダ要塞


 ナリアルは自分が捕らえられているのに気づいた。


 魔法で大幅に強度の上がっている鎖で両手足を動けなくされている。


 おそらく自分はこのまま殺されるのだろう。

 剣士たるもの、死は覚悟して生きているからそれは怖くはない。


 ただ、魔王に一言も話をすることもかないそうにないのが心残りだった。


 ナリアルは現在の魔王マルファの近衛兵として出発した。


 その頃は、マルファは魔王の数多くの子供の一人でしかなかった。

 後に、先代魔王の死による後継者争いが起こる。

 近衛騎士のナリアルはずっと彼女のそばにいた。

 敵の奇襲を受け、辛くも脱出したことだって、一度や二度ではなかった。


 やがて、後継者争いに勝利したマルファはナリアルを若輩の身ながら将軍の一人に指名した。誇りを重んじる剣士にとって、これ以上ないほどの褒美だった。


「よいか。次の敵は人間が支配するドルディアナ王国じゃ。ここも併合してわらわは最強の魔王になるぞ」


 威勢よく魔王マルファはそう語ってくれたものだ。


「まだ我々魔族の世界は統一が成ったばかり。つい先日まで戦争をしておったから、力を持て余した傭兵たちも多い。そのはけ口を用意するためにも人間の世界に攻めこむのはちょうどよい。そうしておるうちに、わらわは強い国家を作る」


 マルファは隠し立て一つせず、ナリアルにすべてを話そうとした。

 むしろ、マルファにとってナリアルは心を許せる唯一の存在だったかもしれない。


「じゃが、わらわがまた昔のように危機に陥ったら、その時はナリアルよ、お前がまた守ってくれ」


 そう、魔王マルファは言ってくれた。


 しかし、魔王の元に危機を伝えに行く前に、問題行動を咎められた。


 こんなことなら軍を退かせる前に単身、戻るべきだったか。

 だが、それはありえない。

 軍を見捨てるなどということは将軍として絶対に出来ない。


「だが、今は何を思っても遅いな……」


 前線に異常が見られた時に詰問使が送られるのは常識的なことだ。

 そして自分の言葉が詰問使にとって世迷言に聞こえたのもまた事実。


 詰問使は魔王代行権を持っている。

 このまま、処刑されることになるはずだ。


 マルファがいればすぐに処刑するなどということはないはずだが、魔王が直々に前線まで出向くことはありえない。


 それでも、もし可能なら――


 もう一度、魔王に会いたい。 

 会って、すべてを打ち明けたい。


 それが近衛兵の責務なのだから。


 ナリアルは近衛兵として死にたいのだ。

次回は夜7時頃の更新予定です。次回は女騎士を仏教の力で助けに行きます。

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