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朝 行動開始

「オレが魔王だ。」

俺は息を呑む。

この男が魔王?

何でこんな所に。

あー、そうか桐崎は俺が連れて帰ると言ったことにたいして呆れてたのか。

しまった。桐崎はこのことを見越してー

「なんてね、冗談だ。少年、実はねオレはゲームを嗜んでてね。そこで魔王って語っているだけさ。」

全身から気が抜ける。

なんだありきたりな話じゃないか。

「まっ、なんだ。少年、最近は危ないからね。男だからって油断しないほうがいいよ。」

魔王、と名乗った男は踵を返しそれでは、と片手を挙げて坂道を登っていく。


―――。

俺はベッドに潜り込む。

今日は本当に色々なことがあった。

俺はこれからどうなるのだろう。


また、この夢か。

焼ける建物。

吐きそうになるほどの死の気配。

それにどうしてか体のほとんどは落っことしたように感覚がない。


「む。」

俺は体をゆっくりと起こす。

時刻は朝の6時10分。

目覚まし時計が鳴る20分前。

…二度寝をするにしても残り20分ではまともな睡眠は取れまい。

「くそ、中途半端な時間に起きちまった。」

俺は布団の中で悪態をつくと

起きて美奈姉さんの手伝いをすることにした。

階段を降りていくと

「騒がしいな。」

一階ではなにやら話し声。

俺はリビングのドアを開ける。

そこには

いつもと変らぬ朝食の風景。

そこに異物が進入していた。

異物は自然に二人分しかない朝飯をパクパクと食っている。

その異物の名を桐崎十色。

美奈姉さんはそんな異物を歓迎しているのか玉子焼きを食べさせている最中だった。

「あ、おはよう英介。」

美奈姉さんは俺に気づいたのかそんな挨拶。

「ぐっど・もーにんぐ。木崎さん。」

なんて大急ぎで玉子焼きを飲み込み返してくる異物、桐崎十色。

俺はため息をつくと

「美奈姉さん。一つ聞いていいか?」

「ん〜。答えられることだったら、何でも〜。」

俺は出来るだけ冷静に話すことにする

「じゃあ聞くぞ。何で桐崎が俺の家にいるんだ。」

「ええっと、それはね〜。」


美奈姉さんの話を要約するとこうだ。

何でも朝5時くらいに美奈姉さんが店のシャッターを開ける時に店の前で桐崎が倒れてたらしい。

話を聞けば「お腹がすいて力が出ない」とか言ったそうで

美奈姉さんは大きな丸いあんパンの頭部を持ち、顔がついた赤い服を着て、茶色いマントを羽織るヒーローのような良心で桐崎の朝ごはんを作ったという話である。

ちなみに後先考えなかった救出のため俺の朝ごはんはないらしい。

俺はトーストにバターを塗る。

今日の朝飯はトースト一枚である。

「う〜。ごめん反省してるよ。お昼重箱にしといたから。」

「怒ってない。それに重箱にしたら俺も食べれない。」

すると美奈姉さんは

「ならよし、桐崎さんと一緒に学校に行ってらっしゃい。」

あれ?怒ってたの俺だよな。

「木崎さん早く行きましょう。」

と玄関から桐崎の声。

っていうかお前が俺の朝飯食ったんだろうが。


桐崎と教室に入る。

するとサッカー部員、猪狩いかり じゅんが驚いた顔をして出迎えてくれた。

「…木崎、お前まで。彼女が出来たのか。」

呆然とした猪狩の声。

俺は机に荷物を置くととりあえず反論しとく。

「彼女じゃねぇ、今日たまたま一緒に朝飯食っただけだ。」

「む、そりゃ世間の基準では彼女っていうんだ。」

…その基準は世間ではなくお前だろ。


昼休み。

俺と猪狩は中庭で昼食をとることにした。

「木崎、お前の弁当いやにでかかねえか?」

・・・たしかに。

今日の俺の弁当は重箱という一人で食べるのには規格外の大きさだ。

さすがに食べきれないよなこれは。

ーと。

ゆらゆらと幽霊みたいな足取りで桐崎がこっちにやってくる。

いつも以上に陰鬱な表情。

「大きい弁当っすね。」

「あ〜、うん。」

とりあえず返事くらいはしておく。

ふと昨日ことを思い出す。

たしかコイツ小柄な体のわりにパクパクと俺の弁当食ってたよな。

コイツならこの化け物のような弁当もあるいは。


「…なぁ、猪狩。」

「なんだよ?」

「俺は配役を完全に間違えたことを感じている。」

「たしかに。だが知らんぞ、アレを解き放ったのはお前の責任だ。よってお前に食堂を利用するだけの金は与えん。」

「救いを求めた俺が馬鹿だった。」

そう、桐崎は俺の弁当に手をつけるや否や、そのほとんどを食い尽くしていったのだ。

お陰で俺の弁当は壊滅。結果俺が食べれたのは奈良漬だけであった。

…重箱弁当と桐崎。

果たしてそのどっちが化け物だったのか。


腹の虫が暴れまわる。

俺は荷物を鞄に詰め込む。

くそう。猛烈に腹が減った。

結局電車通学ではない俺に食堂を利用できる金はなく、水道の水で腹を膨らませて空腹をしのいでいた。

原因こと桐崎十色は午後の授業は俺の後ろでぐっすりと寝ていた。

しかもこんな日に限って掃除当番に割り当てられた。

お陰で教室には誰もいない。

「くそう、それもこれも桐崎のせいだ。」

「あの、わたしがどうかしましたか?」

突然後ろから声がする。

「うわ。」

振り返ればそこには桐崎がいた。

「うわっ。ってなんすか失礼な。」

「あー、すまん。単に背後をとられたのに驚いてるだけだ。別に他意はない。」

「そすか。」

「っていうか、何の用だ。」

「用ってほどでもないすけど、これからの戦い。わたしと貴方はどう行動するか方針を決めようと思いまして。」

…昨日のあれか。

「で、どうします?わたしの作戦としては、木崎さん。貴方を囮に使ってそれをわたしが叩く。そのために貴方とわたしはこれから町を歩き回る。」

「俺が囮?」

「そうっす。たぶんまだ貴方がわたしの味方になっていることは誰も知らないはずです、それに。」

「どしたよ?」

桐崎は言葉を切ると少し顔を赤くして

「いえ、何だか同年代の男子が囮ってバトルラブコメみたいだなーって思って。」

「お前な、ほんとにやる気あるんだろうな。」

すると桐崎ははぁ、とため息をつくと

「それは木崎さんも同じですよ。どうして昨日、一人で帰ったんですか。」

ぐ、痛いとこ突かれた。

「まあいいです。それより木崎さん、さっきの方針どうですか?」

・・・それは俺が囮になる、ということ。

それはとてつもなく危険な話だ。

でも、俺は昨日の公園で桐崎の仲間になるって決めたから。

仲間を信じないヤツは仲間じゃない、そう思うから俺はこの危険な提案にのる。

「わかった。」

桐崎は凛とした表情に変る。

「行くぞ、木崎。」


―――。

いつもと変らない町。

今は夕暮れ時の四宮のオフィス街。

なのにどうしてかそれが不気味に思えてくる。

「桐崎。」

俺は隣に歩く桐崎に呼びかける。

「なんすか?」

「いや、まだ誰もかからないみたいだから。一旦ここらで止めにしねえか?」

そう、さっきから俺と桐崎はこの四宮を2時間歩き回ったが成果はなし。

すると桐崎はそうですね、と小さく頷く。

「で、どこかで休む場所とか考えてるんですか?」

残念だが金は持ってないからどこかのファーストフード店に行くわけにもいけないし。

休むのに適した場所は公園みたいな場所がいいな。

ここから近いのは四宮教会だ。

「すまん金持ってないから、休むのは四宮教会に行こう。」


「木崎さん。」

「何だよ。」

「計画ミスですよね。」

「…。」

「やっぱりファーストフード店の方が良かったんじゃないんですか?あ、ついでに奢ってさい。」

「いやだ。」

結局、四宮教会は開いていなかった。

つまり今俺たちは四宮教会前の前で何をするでもなくただボウと立っているわけであり。

――と。

「あれ?木崎さんじゃないですか。」

声のしたほうを見れば市原さんが立っていた。

「誰すか?」

と桐崎。

「ああ、この人は市原 夕。なんでもここの管理を任されているとか。」

ぺこり、と市原さんは律儀にお辞儀をして俺と桐崎を交互に見て俺に耳打ちをする

「木崎さん、あちらの方はもしかして彼女さんだったりします?」

俺はきっぱりと

「いいえ、断じて違います。」

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