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勇者、その名は

「?」

驚きは男と俺のもの。

日本刀があっさりと俺に向けて落ちてくるはずだった。

だというのに今、突然の乱入者によってその刀は止められていた。

夜風に流れる腰まである黒髪。黒いコートを着ていて体は小柄。

「はっ、嬢ちゃん!また会ったな!」

男は切り結んだままニタリ、と笑う。

男の攻撃を受け止め、今も男とナイフで切り結んでいるのは―

後姿でも分かる。

男の日本刀を受け止めていたのは桐崎十色だった。

男は桐崎と切り結ぶのをやめると

後ろに跳躍する。その距離10m。

それは昨日の焼き増しだった

俺は桐崎の表情を見る。

学校での陰鬱な雰囲気はどこへ行ったのか今の桐崎は凛とした表情で男を睨みすえる。

「嬢ちゃん、まさかコイツが生きてたのはお前の仕業か?」

男は桐崎を睨む。

「まぁ、そうなりますかね。」

と桐崎も男を睨みすえたまま淡々と言う。

「なるほど、そこの兄ちゃんはオレを釣るための餌ってわけか。まったく人が悪いぜ嬢ちゃんも。一思いに殺してやるってのも人情だと思うけどな!」

言うが早いか男の体が沈む。

振るわれる腕は鞭のよう。

それは野球のアンダースローのフォームに似ていた。

ただしその手は滑空するのではなく、完全に地面についている。

石が飛んでくるのが風を切る音で分かった。

闇夜に光る火花。

それが桐崎が石を叩き落す音だと気づくのに数秒かかった。

その数秒の間に男は地面の砂利を拾う。

男の手には砂利が六個ほど。

それを男は真上に放り投げる。

砂利は真上に放り投げられた後、一斉に角度を変え桐崎を襲う。

翻るコート。

回避不可能な攻撃を桐崎は

桐崎はコートを脱ぎ、それを盾のようにして石の雨を防ぎきる。

それを見た男が面白そうに

「はっ!そりゃどこのブランドのコートだ!?」

男は後ろに後退しつつも石を拾い、投げる。

桐崎が簡単に追って来れないようにだろう。

だが。

男の投げる石はことごとく桐崎に叩き落される。

なのに桐崎はナイフしか持っていないくせに男を追わない。

戦いには間合いというものが存在する。

いくら秀でた剣士でも一方的に銃で撃たれ続ければ無論、剣士は敗北する。

故に桐崎の武装はナイフが一本。つまりは剣士であり、

一方の男は桐崎との接近戦を嫌うのを見れば接近戦では桐崎に分があるということ。

つまり男は桐崎と戦う時点で石を投げることで勝利する銃である。

しかしそれでも逆が存在する。

いくら狙撃に秀でた狙撃手であろうと距離をつめられ刀で切りかかられれば勝負はつく。

故に桐崎が勝利するには距離をつめ一息のうちに切り伏せるのが定石。

男も不審に思ったのか後退をやめる。

飛び道具のない桐崎は不利だ。

なのに桐崎は笑っている。

桐崎は自分の背中に手を伸ばす。

するとそこには一振りのナイフ。

妙な形をしているナイフだ。

それは金属製の柄に鍔の部分に何かオレンジの突起がついている。

男はそれを見て

「は、二刀流か。」

それを聞いた桐崎は

右手に持ったナイフを照準を合わせる様にナイフを男に向ける。

おおよそ、格闘戦ではありえない構え、むしろあれは接近戦というよりも拳銃を構えているようにも見える。

桐崎はそのナイフの鍔についたオレンジ色の突起を押す。

すると

ひゅん、と何か風を切る音。

「がっあ…。」

男のうめき声。

見れば男の右腕にナイフの刃だけが刺さっていた。

「てめえぇ!卑怯だぞ!飛び出しナイフなんて使うなんざ!」

痛みをこらえるためか男の喚き声は大きい。

ゆっくりと桐崎は男に近づくと

「いいじゃないすっか。別にこの戦いにルールなんて基本的にないんですから。あ、それにこのナイフはスペツナズ・ナイフって呼ばれてます。」

「くっそ、このガキ。」

桐崎の軽口にすらまともに反論できないほど男は追い詰められているということか。

男は忌々しげに桐崎を見る。

その様子を桐崎は冷淡に見るととたんに声色を変えて

「戯言は死んでから言え。このザコ。どうした、大道芸はもう出来ないのか?」

すると男は

「テメエ、今度会ったらぶっ殺してやる。」

成り立たない会話。男にとっては痛みをこらえるのが精一杯なのだろう。その声はどこか擦れていた。

それを見た桐崎はやはり冷淡な声で

「次?そんなものはないさ。ここでお前は死ぬんだからな。」

平然とあざ笑う。

桐崎はゆっくりと包丁を振りかぶる。

瞬間、男の体が黒い何かに連れ去られる。

「な!?」

これは桐崎にとっては予想外だったのだろう。

男は黒い何かに連れ去られる。

男と黒い何かが着地したのはブランコの近く。距離にして20m。

そこには蝙蝠こうもりを人のサイズまで巨大化させたような怪獣が立っていた。

それを見た桐崎は忌々しげに睨みつける。

男は怪獣を

「馬鹿が。遅いんだよ、お前は。」

すると怪獣はガラスを爪で引っかくような耳障りな声で

「すみません、ダンナ。でもまぁこうやって助け出していますし怒らないでくださいよ。」

そう言い終ると怪獣の身体がどろり、と液体のようにその身体を変化させる。

十秒もしないうちに蝙蝠はその身体を全て溶かし終える。

そこには蝙蝠の姿はなく、ぬるりとしたスライムのようなモノに変わっていた。

どろりとスライムは身体を男に向けて身体を動かすと男の身体を包み込む。

「―――。」

あまりの異常さに声も出ない。

五秒もしないうちに男は包み込まれる。

男を包み込んだスライムはまゆのようになっていた。

そしてゆっくりと繭は闇に溶けるように消えた。

桐崎は追うこともせず男達の逃げていった方向を睨みつけていた。

数秒間、桐崎は睨むのをやめすぐに俺の方に向き直ると

「木崎さん、少しお話があります。」


ずるずるずる。

「おい、桐崎。」

ずるずるずる。

「桐崎。」

ずるずるずるずる。

「桐崎、聞いてんのか!」

ごっくん。

「あ、すみません。わたし、猫舌なもんでして。」

話があると言われて今はブランコに座っている。

話をするのに何かお茶でも買おうと自販売機にいったのだが、こいつのチョイスはこともあろうにおしるこを選んでいた。

「悪かったよ、急かしたりして。で話ってなんなんだ?」

すると桐崎は急に凛とした表情に戻って

「魔王、というのを知っていますか?木崎さん。」

聞きなれない単語。

そんなのがさっきのとは関係あるように思えない。

「魔王?ゲームの話か?」

すると桐崎は

「ゲームといえるのかもしれない。ええそうですね、さっきの戦闘はそのゲーム一端です。」

桐崎はおしるこに口をつける。

「そのゲームに勝てば自分の願いを一つ叶えてもらうことが出来ます。」

言葉が出ない、願いを一つ叶える?

そんな話聞いたことがない。

それを察してか桐崎はふぅ、と溜息をつくと。

「別に信じてくれなくていいんです、勝手に話しますから。それでこのゲームには『装備』と呼ばれる、まぁ有体に言えば超能力のようなものを参加者は一人一人に与えられます。

その装備を使って参加者は自分が考えうる手段を使って、他の参加者を消す。それがこの戦いの大まかな説明です。」

俺は黙ってコーヒーを飲む。

自分の願いのために他人を消す、その選択は如何なるものか。その選択を選ぶための覚悟は−。

って、ちょっと待て

「桐崎、さっきの殺し合いの話が仮に本当だとする。でもそれと『魔王』って話が繋がらない。で『魔王』とこの戦いが何の関係があるんだ?」

すると桐崎はおしるこにまた口をつけると

「そうっすね。簡単に言うと参加者のあだ名です。他にあだ名がつけられているのは『竜王』もっとも二名の素性は何一つとして分かりませでしたが、そして。」

そこで言葉を切ると桐崎は

その代名詞を口にする。

いかな苦難にも屈せず、いかなる悪をも打ち砕き、弱きを助け強きを挫く。と伝えられるその名を。

「『勇者』、桐崎十色。」

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