第八話
「ねぇ狼さん……あっ!」
歩き始めてからそんなに時間は経っていなかったが、ふたりはいつの間にか山の麓へと辿り着いていた。
「ここまで来ればもう一人で帰れるだろう? 俺たちが一緒に居るところを他の人間に見られたら面倒なことになる。お前は早く帰るんだ」
そう言うと狼は鼻先でくいっと街の方を指した。当たり前といえば当たり前だが、あまりにもあっけないお別れを突き付けられ、メイセはその場から動きたくなかった。
「狼さん、せっかくともだちになれたのに、もうおわかれなの…?」
メイセはしゃがみ込み、足元に居る狼にギュッと抱き着いた。
「俺達は居るべき場所が違うんだ。お前は街で、俺はこの森で生きるべき存在だ。だけどお前が俺の事を忘れずにいたら、またいつか必ず会える」
「ほんとう…?」
「ああ。俺達狼男は人間の姿と狼の姿、両方の素質を備えている。俺は訳あって今は狼の姿でしかいられないが、お前が望むなら人間の姿を得てみせる。そうすれば、大人になったとき俺達はまた会うことが出来るだろう」
狼のおだやかな語り掛けを受け、メイセも納得して何度もうなずいた。
「ぜったいやくそくだよ、おとなになったらぜったい会いに来てね」
そう言って、メイセは狼の鼻先に優しくキスをした。メイセがじっと狼の瞳を見つめていると、お返しとばかりに狼もメイセの唇にキスをしてぺろぺろと顔を舐めた。
「ほら、早く行け」
メイセはしぶしぶ立ち上がり、名残惜しそうに何度も狼の方を気にしながらも街へと帰っていった。狼も軽く尻尾を振って答え、
「じゃあな」
と小さな声で呟くと、一鳴き遠吠えをして足早に森へと帰っていった。