第四話
「あれ~? 誰かと思ったら、ブリアンくんじゃない! 久しぶりだね、30年ぶりくらい?」
「黙れ、その名前はもう捨てた。そいつを放してこっちへ渡せ。メイセ、帰るぞ。」
目の前で狼男が手を差し出している。私は肩を震わせながら、精一杯大きな声でこう言った。
「わっ、私…あなたの所へは帰りません!何日かかってでも、自分の家に帰ります!」
怖くて前を向く事が出来ず、下を向きぐっと拳に力を込めた。身体の震えは止まらず、カチカチと自分の歯が音を立てている。
「そんなに俺の事が嫌いか」
メイセは問いに答える事が出来なかった。好きとか嫌いとか、まだそんな感情を持つような間柄では無いと思っていた。
「突然言われても分かりません…」
震えた声でそう言うのが精一杯のメイセ。それを見た狼男は、自分のズボンのポケットから何かを取り出し宙に向かって投げた。見事メイセの足元にぽとりと落ち、恐る恐る見てみるとそれは銀色の鍵であった。
「俺の家の近くにある山小屋の鍵だ。お前は暫くそこで生活しろ。何の手がかりも無く元居た場所に帰ろうとするのは無謀過ぎる、少し冷静になった方がいい。」
そう言うと狼男はふいっと踵を返し、自分の棲家の方へと戻って行った。何となく狼男の行方を見守り、姿が見えなくなった所で足元の鍵を拾い上げた。