プロローグ 3
ーー蒸気が晴れた先に居たのは、『カイル』だった。
……恐らく。
ーーside クイド
蒸気の先に居たのは、カイルーーではなくて。
なんだかとっっっても、見覚えのある顔をした、七歳程の男の子だった。
「……ん?」
「……ぇ?」
「……はぁあ!?」
ちなみに、上からヴェン、男の子、俺の順だ。
男の子の声は、声変わり前なのか、少々高めの声だった。
……。
読者の皆様、衝撃的なお知らせです。
ついに。
バカイルはショタ化してしまったようです。
…………。
「「………はぁぁぁあ!?」」
思わずヴェンと絶叫した俺は悪くない(、と思いたい)。
「ちょ、カイル嘘だろ!」
「…まさか、あのキノコのせいか?」
俺達に詰め寄られたカイルは、のんびりと首をかしげた。
……嫌な予感がする。
「ーーえっと…。どちら様でしょうか?」
カイルが、あのバカイルが、
敬 語 を 使っ た だ と !?
妙に丁寧なカイル(仮)の仕草に、鳥肌が立つ。
俺達を知らないようなそぶりすら、大した問題じゃないような気がしてくる。
……マジで一体何があった、カイル……!
しばらく後。
カイルがショタ化した(のだろう、)男の子に話しを聞いたところーー
Q.名前は?
A.カイルともうします。
Q.年齢は?
A.7さいです。
Q.…俺達が誰か分かるか?
A.………もうしわけありませんが、分かりません。
「…記憶まで七歳の頃に戻っているのか?」
「ってことは、男の子は『カイル』であって『カイル』ではない、と?」
「…あぁ。その可能性は高い。」
Q.あー、俺達には、お前とおんなじ名前の奴が仲間に
居るんだが、お前のことをなんて呼べばいい?
A.では、『イール』と。トワもそう呼んでいますし。
Q.…『トワ』、とは?
A.『トルレワ』。僕のせんぞくメイドだよ。
Q.専属メイド!?
A.はい。4年ほど前からですけど。
「はぁー……。まさかあのバカイルが、お坊っちゃんだったとは、な…。」
…あれ?いまの方が子どもじゃね?
もしかして、退化した…?
そんな事が一瞬浮かんでくるぐらい、俺達の知るバカイルと、目の前に居る『イール』の態度に差があった。
ん…?待てよ…。
「ーーなぁ、ヴェン。」
「…ああ。」
奇しくも、ヴェンも、同じ事に思い当たったらしい。
俺達の背に、冷たい汗が流れる。
きっと、今の俺達の心の声は同じだろう。
『何その危ないキノコ!
食わなくて良かったよ、本当に…!』
時間を戻すってどんなキノコだよ!
記憶まで戻るとか!
手品師の『興行者』もびっくりだよ!
つかそんなキノコ、聞いたことねぇから…!
もし俺達も、あのキノコを食べていたら…。
そう想像するだけで、ザッと顔が青ざめるのが分かった。
ーー絶対にろくな事になんねぇ…。
恐らく今回は、一週間も寝込むことは無いだろう。
が、代わりに闇ギルドに粛正されるだろうが。
俺が黙りこくっている内に、ヴェンはイールと話し合っていたらしい。
「…ここは『スレイラ』の街だ。俺達は冒険者。三人のパーティーで、探求者をしている。」
「へぇー。あ、お二人の名前は?」
「…俺はヴェン。」
「…そう言えば言っていなかったな。
俺はリーダーのクイド。
…もうひとり、馬鹿やってここには居ないが、カイルという男もいる。」
「…15年ほど未来のお前のことだ。」
さらっと暴露したヴェンに、俺は固まった。
「…ちょっ、それ本人に言っちゃう!?」
慌てた俺だが、案外イールは図太かったらしい。
「あぁ、なるほど。」
「イールも、そんなに簡単に納得するのか!?」
予想以上にあっさりした答えのイールに、逆に焦った。
そんなツッコミの激しい俺に、イールは態度を変えることなく、冷静に告げる。
「だって、この部屋は見たことないですし、お二人のたいどからして『ゆうかい』ではないと思いますから。」
「……へぇ。案外しっかり考えてるんだな。…本当に七歳か?」
七歳とは思えない程、頭の回転が早い。
バカイルは、人の様子にやたらと敏感なのだが。
この様子だと、少なくともイールの頃には既に身につけていたようだ。
「僕はしょうしんしょうめい、7さいです。それに…。」
「…それに?」
一旦言葉を句切ってもったいぶるイールに、ヴェンが先を促す。
途端にいい笑顔になったイールの笑顔は、驚くほど、今のバカイルと変わっていなかった。
「お仲間の、カイルさんの事を言うときのお二人。」
「「…?」」
「僕を見て、すっごく『なまあたたかいめ』をするんですもん。」
「「…………。」」
「そのめが、僕がイタズラした時のトワのめに、そっくりだったので。」
沈黙。
「え、そっち!?俺達はアイツの保護者か!?」
「…というか、どんなイタズラだ…。」
「え?たいした事じゃありませんよ?
にわの木にのぼってえだから三回転ジャンプしたり、近くの道場に道場やぶりしに行ったり、『家出します。さがさないで下さい。』って書いた置き手紙を置いてとなりまちまで旅したりーー」
「「…あぁ、お前カイルだわ。」」
イール曰く『大した事ない悪戯』。
その内容は、とても『大した事ない』などとは言えないもので。
どんな人かは知らないが、トワさんには心底同情した。
幼くてもコイツは 問題児。さぞ苦労したのだろう。
…きっとどこを探しても、他には居ないぞ。家出して隣街まで旅する七歳児。
「……。先ずは着替えるか、イール。」
「ぇ?あ…。…お願いします。」
何時戻るかわからないカイル(今はイールか。)の体。
キノコを食べて、体と記憶が七歳児に戻ってしまった為に。
今のイールは、ブカブカの服に埋もれている状態なのだ。
…そんなに都合良く、服まで縮んだりしないか。
かといって、宿の俺達の部屋に子供用の服がある訳もなく。
当然、イールに合う服もないので、陽が暮れかけている街に、急いで買いに行く事になった。
…服を買いに行った先で、イールが一着も服を持っていなかった為に一悶着あったのは、言うまでもないだろう。
…誘拐犯に間違われて、自警団に通報されかけるとは思わなかったが。
「この子を離しなさい!この犯罪者!」
「だから誤解だってば!」
「…はぁ……。」
それから。
カイルが元の体に戻るまで、俺達が振り回され続けたのは、最早お約束だ。
この話でプロローグは終了です。
これ以降は不定期更新になります。