プロローグ 1
遅くなりましたが、連載開始します。
これで三本同時連載……!
よって不定期更新になります。
ご意見感想や誤字脱字等、どんどん送ってください、お待ちしています。
ーーそれは、ある日唐突に……
最初に異変に気付いたのは、新調した弓を背に掛けたクイド。
「あんの、バカイル…どこいった。」
感情を押し殺した、低い声。心なしか、微弱な殺気も漏れている。
ここは、商業の街「スレイラ」。
『帰らずの森』最寄りの村から、馬車でおよそ3日の範囲にある、この付近では最も商業の盛んな街だった。
彼らは依頼ではなく、あくまでも観光と装備の新調のために訪れた。
『帰らずの森』で探索した、僅か一週間足らずで、各々の使っていた獲物にガタが来てしまったのだ。
この街に長居する予定もなく、やるべきことは粗方済ませた為、後は宿に帰るだけ。
…そう、そのはずだった。
「…クイド、殺気を仕舞え。」
「あ?…あぁ、街中だったか。」
ここは街の大通りで、たくさんの客で賑わっていたはずなのだが。
先程のクイドの殺気で、周りの客は不穏な空気を感じたらしく、この一画のみが妙に静かになっていた。
殺気を仕舞ったクイドを一瞥したヴェンは、静まり返った周囲を見て、ため息を吐いた。
彼らが静まり返った訳は、(当たり前だが)クイドの殺気にある。
もちろん、彼らだってある程度の殺気には耐性があるだろうが、所詮はその程度だ。
探求者の殺気には、その程度の耐性は意味を成さない。
探求者は、少なくとも一定以上の戦闘能力を持つことを課せられている。
それは何故か。
あまり知られてはいないが、『未探査地域』や『非生存域』である程度行動する為であると同時に、そしてそれ以上に、自らの身を守る為でもある。
探求者は、危険な反面、成功すれば実入りのいい仕事が中心だ。
そうなれば、その利益を奪おうとする者も出てくる。
…過去に、探求者と組んで『非生存域』を探索していた、解析者がいた。
それ自体はそれほど珍しいことではない。
が、その解析者は、ある事件を起こした。
『探求者殺害(ただし未遂。)』
なんと、その解析者は、組んでいた探求者に刃物を持って背後から襲いかかったのだ。
結果、襲われた探求者は一命をとりとめたが、片腕を二度と使うことができなくなってしまった。
片腕でやっていけるほど、探求者は甘くない。
探求者を引退することを余儀なくされた彼は、二度とこんな事が起こらないよう、探求者に自衛手段を持つように呼び掛けた。
莫大な富を持つこともある探求者達は、過去何度も狙われた経験があった。
その都度なんとか撃退していたものの、限界はある。
対人には疎かった 探求者達は、この事件を切っ掛けに、本格的に自衛手段を模索するようになった。
対人戦闘は、『非生存域』や 『未探査地域』に住む生物ーー狂獣とは勝手の違う戦い方だった。
幾年も掛けて探求者が辿り着いた護身術は、「殺気」だった。
狂獣との戦闘でも使われる、ある意味探求者にとって身近な「殺気」が一番効率が良かったのだ。
故に、探求者の殺気というのは、一種の攻撃なのだ。
探求者であるクイドの殺気によって、圧倒的な力の差を感じ取ってしまった周囲の客達。
彼らは、強者の気を損ねないよう、無意識的に口を閉じたのだ。
だからこそ、この奇妙なまでに静かな一画ができあがった。
「……ヴェン、カイルが何処に居るか探れるか?」
「…無理だな。他の場所ならともかく、ここは人が多すぎる。」
クイドの問いに即答したヴェンは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
同じような顔をしたクイドは、心底嫌そうに溜め息を吐いた。
この時、二人が思ったことは、ただひとつ。
即ちーー
ーー絶対あのバカイルは何かしでかす。
帰って来たらいっぺん〆る。
ーー同時刻。
「はぁっくしゅん!
…なんだ、今の。すっごい悪寒が…。風邪か?」
「……大丈夫か、坊主。」
「おう!平気だ!それより、おっちゃん。」
「わーってるよ。ほら、好きに使え。」
「お、サンキュー!」
「いいってことよ。まいどありー。」
ーーそして運命は廻り始めるーー