戦いの始まり
私は人間を憎んでいる。もっと言うと、ファーニチャーガーデンに住んでいる家具は全員人間を憎んでいる。人間の誰もが憎悪の対象だった。それは壊れることのないもの。そうよ、壊れるはずがない。
「壊れるはず・・・」
「アンナ?」
「・・・」
そうよ、あんな男に壊されるはず・・・
「アンナ~」
でも・・・。初めて女の子って言われた。
私の胸が少し痛んだ。
「・・・アンナ?ジョアのこと嫌いになった?」
「・・・!?ジョ、ジョア!?いつの間に!?」
「さっきから居た・・・」
「そ、そうなの?ごめんなさい、気付かなかったわ」
私の前に立つ赤髪の少女。少し頬を膨らませているが可愛く感じられる。
この子こそ、ファーニチャーガーデンのもう一人の代表者。ジョア・テレ。
「神野誠のこと考えてた?」
「そ、そ、そんなわけ無いでしょ!」
ジョアの言葉に顔が熱くなるのがわかった。そうよ、そんなわけがない。
「・・・そう?それより、準備できた?」
「ええ、完了したわ」
「健闘を祈る」
「ええ」
あいつは捕縛対象。今度は逃がさない。
私は拳を握って決意を固めた。
「ご主人様~!」
「ハリ」
「はいな!」
「ぐぼへぁ!」
俺の後ろで大きなどさっという音がしたが気のせいだろう。
俺は現在、仕事の残りを片付けている。高卒で入社したこの会社もそろそろ中堅と呼ばれてくる時期だ。にも関わらず新人並みの仕事の多さ、しかも雑用みたいなの。高卒なめてんのかこのやろう。まあ、大卒が普通の世の中だ。なめられるのも仕方がないといえば仕方がない。
「ご主人様♪ザブ倒した!」
「よしよし。偉いぞハリ」
「えへへ」
ハリの頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
うん、純真無垢で可愛いな。それに比べて後ろで伸びている奴ときたら・・・
「うへへ・・・。ご主人様・・・ふへへ」
こいつはホントどうなんだ・・・。こういうのはほっとくのが一番だ。うん、そうしよう。
「ねえねえご主人様。何してるの?」
ハリは俺の膝の上に座り、俺を見上げながら問う。なんかいい匂いがする。
「ん?お仕事だよ」
「どんなことしてるの?」
「会社の広報ホームページの作成」
「こうほうほーむぺーじ?」
ハリは首をかしげながら聞いてくる。
「そうだよ。会社の宣伝をするための記事を作ってるんだよ」
「そうなんだ!なんか凄そうだね!」
「はは、そうだな」
目をキラキラさせながら俺を見てくるが、絶対よくわかっていない。そんな顔をしている。
俺が現在作っているのは会社のホームページ。大体のデザインやレイアウト、書く事などは決まっている。パソコンの横にそれが書かれた紙がある。広報部の部長から預かったものだ。てかなんで俺がやってんだろ。他の部署の奴に頼むとかおかしいんじゃないの!?と俺は思う。
一応理由はあるのだ。うちの広報部には部長一人しかいない。何故か入社しても全員辞めていくのだという。概ね部長のせいなのだが。その部長に何故か気に入られてしまったのが俺。それはまたの機会に説明するとして・・・。そのような理由から圧倒的に人手が足りない。だから、何故か部長に気に入られた俺に白羽の矢が立ったのだ。
「はぁ・・・」
思わずため息が出てしまう。
「ご主人様疲れてるの?ハリが肩揉んであげる!」
「お?ありがとな」
「ちょーっとまったですわ!」
そこに横入りしてくるのは金髪くるくるドM女。
「どうしたんだザブ・・・」
「ご主人様!お疲れならば私を枕にしてお眠りください!」
「一応聞こう、なぜだ」
一応な・・・一応。
「ご主人様の疲れを取るためですわ!」
「・・・ほんとは?」
「ご主人様の頭が私のあんなところやこんなところに!ああ・・・考えただけでああああん!」
「ハリィィィィ!」
「はいなー!」
「ぐぼぁ!」
クネクネと体を踊らせるザブの腹にハリ渾身の右ストレートがくい込む。ザブノックアウト!
「じゃあハリ頼む」
「任せて!」
落ち着いたところで改めてハリに肩揉みを頼む。
「うんしょ!うんしょ!ご主人様どうかな?気持ちいい?」
「ああ、すごく気持ちいいよ」
「えへへ♪よかった!」
絶妙な力加減で押さえられる肩から気持ちよさがじわーっと広がる。
ハリ治療のようなものがあるだけあって、ハリのマッサージはとても気持ちがいい。将来は一緒にマッサージ屋でも作るか。そうなると俺の嫁はハリか!こいつは面倒見がいいし、将来必ず美人になるからな!いい嫁になるぞ!・・・あれ?家具って成長するの?いや・・・このままなら逆にいいのか?合法ロリバンザアアアイ!・・・俺はロリコンじゃない。少し気持ちが高ぶってしまった。
「ご主人様どうしたの?鼻息が荒いよ?」
「いや、なんでもないよ。ハリのマッサージがうまいからちょっとね」
「えへへ」
褒められて嬉しいのか、ハリは顔を赤らめる。
マッサージがうまいってなんか卑猥だよな。・・・そうでもないか。
「ご主人様の鼻息が荒い!?私を!私を踏んでくださいましぃぃぃ!」
「ハリ・・・」
「はーい!」
「ぐぼへぁどへぁ!」
ザブの腹・・・以下略
なんでこいつは懲りないんだ。
「はぁ・・・。フート」
「ここに」
部屋の奥の方から煙が上がり、綺麗な女性が現れる。
「ザブを寝かせておいてくれ」
「了解いたしました」
フートはおもむろにザブへとジャンプした。すると再度煙が上がり、ザブの上には一枚の布団が乗っていた。
フートに入るとすぐ寝れるんだよな。さすがフート。
「よし。ハリありがとう、気持ちよかったよ。お仕事に戻るからハリも寝なさい」
「わかった!おやすみご主人様!」
「おやすみ」
元気よく返事をしたハリは煙を上げ、裁縫道具箱に戻っていった。
時刻は夜の十一時。ハリは普通ならもう寝る時間だろう。こんな時間まで騒いでしまって隣の部屋の千堂じいさんには悪いことをしてしまっている。
俺も仕事はここらへんにしておこう。大体は寝静まった頃だしな。それに来客がきたらしいしな。
「ザブ、フート」
「「ここにおります」」
そこにはザブとフートが人間の姿で正座していた。
「俺がいればお前らは外に出られるんだよな?」
「はい。ご主人様がいらっしゃれば」
ザブが俺の問いに答える。先程のおちゃらけた態度はそこにはない。
「家具パワー・・・か。枯渇することは?」
「まずありえないでしょう。ご主人様は常に家具パワーを生成されていますし、これまでに溜め込んだ家具パワーがありますから」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
「「はい」」
俺は二人を連れて外へ出る。家具を連れて出るのはこれが初めてだ。
ザブとフートの話によれば、俺の持つ家具パワーを分け与えることによって、人間化を外でも持続できるとのことだ。これならば来るべき戦いにも対応できるだろう。それが共生派の代表者、ザブとフートが出した結論である。その来るべき戦いの第一波がそこまで近づいていた。
俺は意を決して部屋の扉を開ける。
「やあ」
そこにはできればまだ会いたくなかった少女がいた。
「久しぶり・・・でもないね。元気かい?神野誠」
「ああ。お陰様でね」
「ならよかった。・・・ザブ、フートも元気そうだね」
「「アンナ・・・」」
ザブとフートの二人とアンナの視線が交錯する。ザブとフート、アンナの放つ殺気は強くなっていく。
「今日は何をしに来たんですの?」
「ザブ。そんなの決まってるじゃないか。君達のご主人様を奪いに来たんだよ」
アンナは飄々と話すが、殺気は収まることを知らない。
「そうやすやすと渡すとでも?」
「思ってないね~。そのときは力を持って奪ってみせるよ」
「こっちは二人ですのよ?」
「関係ないね」
自信たっぷりといった表情でこちらをみるアンナ。その瞳に見つめられるだけで背筋が伸びてしまう。
「いいでしょう。受けて立ちましょう」
「はは。それでこそザブだ。じゃあ始めようか」
「ええ」
三人が手を天にかざす。そして叫ぶ。
「「「結界!」」」
何も変わった様子はない。しかし、このアパートから、いやこの世界から俺達以外の人の気配が失われた。
「これで思う存分戦えるね」
「後悔させてあげますわ」
「ご主人様は渡しません」
ザブとフートは俺は後ろへと下げる。そしてここに、壊滅派と共生派のいわば戦争の幕が切って落とされた。
続く
どうもりょうさんでございます!久しぶりのこちらの更新となりました!
いやはや、更新遅れて申し訳ございませんでした!最近はもう一方の小説の方にかかりっきりでしたので更新できない状況でした。
今回は時間が空いたのでこちらの更新をさせていただきました。いかがでしたでしょうか?こちらの小説の更新頻度はあまり高くはありませんが、気長に待っていただけると嬉しいです!
さて、本編では共生派と壊滅派との戦争の第一波の幕が切って落とされました。これからどうなっていくかは次回以降をお楽しみに!
それではまた次回お会い致しましょう!
作者の別作品「農業高校は毎日が戦争だぜ」もよろしくお願いします!
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