表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

後押し

ある日曜日、俺は某大型ショッピングモールに来ていた。

いや、連れ出されたといったほうが適切だろうか・・・


「神野さん!早く来てください!荷物荷物!」

「まだ買うんですか!?」

「まだまだー!」

「ひええええ!」

俺の手には服、靴、食料品、CDなど様々なものがあった。

全て大家さんのものだ。

「次は何買うんですか・・・」

「時計です」

「時計ですか~・・・時計?」

「さ、いきますよ~♪」

「いやだーー!離してくれーーー!」

「ダメですよ~♪」

大家さんの顔は小悪魔の顔だった。

そして力が強い、とてつもなく強い。


そして俺が連れてこられたのはショッピングモール内にある時計屋だった。

「あ、お客さんだわ!みんなお客さんですよ!」

「チクタクチクタク!私を買ってくださいいいい!!」

「「「「「「私を買ってくださいいい!!」」」」」」

(おいおい・・・まじかよ・・・)

俺はあちこちから聞こえてくる時計の声に落胆した。

やはりここも飢えているようだ。

どの時計も買ってもらおうと全力でチクタクチクタク言わせたり、光ったり、鳩を出したりしている。

(どんだけ必死なんだよ!)

俺は心の中で突っ込んだ。

「どれにしよっかな~」

大家さんは普通に時計を選んでいる。

「大家さん、なるべく早く決めてください・・・」

「え~?そんなに早く決められもんじゃないんですよ~?」

大家さんは軽く唇を尖らせて反論してくる。

(やめろ!上目遣いで見るな!くっそ!可愛いなくっそ!)

大家さんは普通に見れば可愛い女の子、胸は少し薄いが・・・

「神野さん・・・?殴りますよ?」

「す、すみません!」

(この人はエスパーか!?)

とにかく、人を殴る癖がなければ可愛いのだ。

「そういえば、神野さんって腕時計持ってないですよね」

「え?そうですね」

俺は腕時計というものを一度も持ったことがない。

就職したとき買おうとも思ったのだが、携帯があればいいか!と思い断念。

会社の先輩にも買えと言われたが、ここまで買わないでいた。

別に、不便でも何でもないしな。

「持ってたほうがかっこいいですよ?買っちゃったらどうです?」

「う~ん、携帯あるしな~」

「う~む、じゃあ私が買ってあげますからつけてください!」

大家さんが少し考えたあと、手をパンと叩きいった。

「え!?大家さんが!?いいですよ!俺なんかにもったいない!」

「いいから買ってあげます!今日のお礼です!・・・それとも私の贈り物なんていらないですか・・・?」

大家さんは潤んだ目でこちらを見てくる。

こんなの断れるわけないよ。

「わかりました・・・」

「んふ♪」

「さっきの顔は何処へやら・・・」

大家さんは元の楽しそうな笑顔に戻っていた。

やだ!女の子って怖いわ!

「じゃあどれがいいですか?」

「そうですね・・・」

俺は店内を見回す、そして一つの腕時計を見つけた。

なぜかその腕時計は一言も言葉を発しない。

「・・・なあ」

俺はひとまず話しかけてみることにした。

それを見た大家さんは何かを察したらしく、さりげなく周りを警戒してくれた。

さすが大家さんだ。

「なあ、お前」

「!?わ、私ですか・・・?」

腕時計はか細い消え去りそうな声を発した。

「ああ、お前だ。お前はなんで言葉を発しない?」

「・・・恥ずかしくて・・・こんなんじゃ、誰にも買ってもらえないのは分かっているんですが、どうしても声が出せなくて・・・」

「そうか、でもお前の声は他の人間には聞こえない。だから、大きな声を出してみろ、お前は大きな声を出さないことで自分の評価を下げている」

この腕時計は、もともとの素材はいいし、そこそこいい時計であると言える。

なのに値段は低い。

値札には元の値段が書き換えられ安くなっている。

値段は家具にとって自分の評価である。

俺は、自分で自分の評価を下げているこの時計をなんとかしたくなった。

「声をですか?」

「そうだ、お前には何故かキラキラとした雰囲気がない。黒く、暗い雰囲気が漂っている。その原因は自分を主張しないお前のせいだ。だからまずは声を出せ」

「・・・それで、私は輝けるのでしょうか」

「ああ」

俺は最近になってまた新しい能力が身についた。

家具の周りにオーラのようなモヤモヤしたものが見える。

大体、家具屋に置かれている物はキラキラとしたものを漂わせている。

しかし、時々この腕時計のように暗い雰囲気を持っているものがあった。

少し間を取ってもう一度家具屋に赴くと、そこにその家具はなかった。

たぶん、廃棄処分されてしまったのだろう。

「さあ、声を出すんだ」

「・・・でも」

「お前ならできる、自信を持て」

こいつもここに来た当初は売れたいという意思を持っていたはずだ、しかし今こいつはそれを諦めかけている。

それをわかっている俺だからこそ、こいつを助けなければいけないと思った。

このままでは廃棄処分となるとわかっているこいつを、見逃すわけにはいかなかったのだ。

「・・・すぅー」

腕時計は息を吸い込む。

そして、

「私を!かってくださあああああああああいいいいいい!」

大きな声で叫んだ。

その声が響いた瞬間、店内の時計たちは言葉を失くした。

そして、

「今のお前は輝いているよ」

「え?」

腕時計の持つ雰囲気が黒いものから光り輝く雰囲気へと変わった。

大家さんは何かを感じ取ったのだろう、こっちを向いた。

「大家さん、この時計でいいですか?」

「え、あ、うん。いい時計ですね!値段も・・・え!?安い!」

この時計の材質、品質にしては破格の安さだった。

「ありがとうございます、すみません!」

俺は店員を呼んだ。

「どうされましたか?」

「この時計をください」

「はい、かしこまりました。それではあちらであわせ・・・!?」

店員は時計を手に取り値札を見ると、驚愕した顔を見せた。

それもそうだろう、品質のいいこの時計が破格の値段で売られているのだから。

「どうしました?」

俺は少々意地悪かと思ったが聞いてみた。

「い、い、いえ!なんでも!それではあちらでお合わせいたします・・・」

「お願いします」

店員の語調は徐々に尻すぼみになっていった。

腕時計の方は、「ありがとうございます、ありがとうございます」と連呼していた。


「ありがとうございました大家さん」

俺と大家さんは帰路についていた。

もちろん沢山の荷物を抱えて・・・

「ううん、いいですけど。神野さん何をしたんですか?」

「別に何もしてませんよ、少し後押しをしただけです」

時計のことを聞いているのだろう、嘘は言っていない。

「後押しですか・・・」

「はい、そうですよ」

俺は腕に巻き付いている腕時計を見て言った。

「えへへ♪ありがとうございます、ご主人様♪」

腕時計は俺の視線に気づき礼を述べてきた。

「やっぱ、神野さんは面白いですね♪・・・えい!」

「うお!?倒れます!倒れますって大家さん!」

大家さんは俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

(うおおお!胸が当たる!あた・・・?あた・・・らない?いや当たってるのか?)

「ふん!」

「うぎゃあああ!」

思いっきり殴られました。

いてえっす。


そして、俺は104号室へと帰ってきた。

すると、


ぼふん!


俺の腕から煙が上がった瞬間、俺の腕に重みが走る。

「うお!」

「きゃっ!」

一人の女の子の声がした。

俺は瞬間的に女の子を抱き抱えた。

「き、君は・・・」

「く、黒(くろ)と申します・・・初めましてご主人様」

俺の腕に抱かれた女の子は、背丈はそれほど高くないが程々に育っている胸、腰まで伸びた水色の髪は綺麗だった。

少したれた目は可愛らしく感じられた。

「よ、よろしく。黒」

俺はひとまず挨拶をした。


ぼふん


ぼふん


ぼふん


あー・・・やっぱこうなるよね・・・

部屋のいたるところから煙が上がり、様々な声がこだまする。

「ご主人様!また新しい女ですの!?」

「私には飽きましたか・・・?」

「ご主人様!ボクも抱っこ!!」

「お前ら少しは黙れええええええ!!!!」

俺の怒声と家具たちの怒声が部屋に響き渡った。

もちろん、このあと大家さんにみっちり怒られました。

とほほ・・・



ここは、家具の世界。

その名を【ファーニチャーガーデン】。

そのファーニチャーガーデンを取り仕切るのが、ジョア・テレとアンナ・クラだ。

「ジョア、神野誠は雰囲気察知まで取得したようだ」

アンナがジョアに言う。

「・・・」

「ジョア?」

「・・・」

「ジョア!」

「ふお!・・・アンナ?どうしたの?」

「ジョア、寝てたのね」

「・・・そんなことはない、寝てなどいないのだ」

ジョアは目をこすりながら答える。

「ジョア、観念しなさい」

アンナはきつい視線を送る。

「うぅ・・・寝てた」

「もう・・・ちゃんとしてちょうだい」

「わかった・・・で、なに?」

ジョアは切り替えが早いらしい。

「神野誠が雰囲気察知を身につけたようよ。早すぎるわ」

「・・・接近開始」

「わかったわ。それじゃあ、まずはクラークを向かわせるわ」

「ん、わかった。我ら家具に・・・」

「「光あれ」」


「クラーク」

「はっ」

アンナのもとに現れたのは眉目麗しい女性だった。

「神野誠に接近、機会があれば排除せよ」

「かしこまりました」

クラークは一瞬のうちにいなくなった。

クラーク・パソ、代表者二人を支えるファーニチャーガーデンのナンバー3。

「神野誠・・・どれほどのものか、それはこれから分かること・・・か」


続く

どうもりょうさんです!【後押し】をお送りしました!

今回は大家さんとのお話でしたが、やはりここでも家具が出てきます。

家具が出ない回はないんじゃないでしょうか!

そして、前回のあとがきでジョアとアンナは出ないと言いましたが、出ました・・・すみません!なんせその時の気分で書いておりますので・・・

あと更新がおくれてしまってすみません!次回はなるべく早くお送りしたいと思っております!

それではまた次回お会い致しましょう!


作者の別作品「農業高校は毎日が戦争だぜ」もよろしくお願いします!

3500PV、ユニーク1000人を超えましたみなさんのおかげです!ありがとうございました!


ブクマ、感想など頂ければ作者は泣いて喜びます

なにか、問題、ご要望があればメッセージなどいただければ嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ