新たなる力
この部屋に住み始めて2年、俺には変な能力がついた。
「私をもらってください~」
「私をーだれかー」
この声は結婚のできない女性の叫びではない。
「だれかこのあわれな冷蔵庫を買ってくださいまし~」
「このレンジめを買ってくださいー」
・・・えっと、簡単に言うと家具です。
今俺がいるのは家の近くの電気屋。
そろそろ、大きな冷蔵庫を買おうと思いやってきたのだが、なぜか家具たちの声が聞こえる。
前までは部屋にいない限り声は聞こえなかったはず。
しかし、今はしっかり聞こえる。
てか、なんでみんな悲しそうなんだよ!こんなの買う気失せるわ!
仕方なく話しかけてみることにした。
周りに細心の注意をしながら。
「おい、なんでお前そんな悲しそうなんだ?」
近くの冷蔵庫に話しかける。
一応ここに来た目的だからな。
「え?私の声が聞こえるのですか?」
「聞こえたくはなかったんだがな・・・で?」
「はい・・・私は1年前に発売された冷蔵庫なのですが、ここに来てから何故か売れなくて・・・ついに最新式が出てしまって完全に売れ残ってしまったんです」
なるほど、確かにこいつは旧式で、目立たないところに陳列されていた。
目立つ場所には最新式の冷蔵庫が並んでいた。
声を聞く限り、こいつらよりもよっぽど活気があった。
「ほかのやつもそんな感じか」
「はい、そうです」
周りを見回してみると、旧式の物がたくさん置かれていた。
ここは旧式の物を陳列する場所のようだ。
「このままだとどうなるんだ?」
「多分、廃棄処分でしょう。ここまで置かれていたのが奇跡のようなものです」
「確かに一年もここにいたんだからな、普通なら廃棄処分されるよな」
「はい・・・」
人間の姿ではないのに何故か落ち込んでいる顔が浮かぶ、これもあいつらと過ごした2年のおかげ・・・いや、あいつらのせいなのだろうか。
ふと、あいつらの顔が浮かぶ。
あいつらが廃棄処分・・・とても考えたくはなかった。
俺は店員を呼んでいた。
「はい、なんでしょうお客様」
「この冷蔵庫をくれ」
「「え?」」
店員と冷蔵庫が同時に驚きの声をあげる。
「お客様?あちらに最新式のものがありますが?」
店員は最新式の方を勧めてくる。
それもそうだろう、わざわざ旧式を買う客などいないだろう。
「いや、こっちの冷蔵庫でいい」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
「こいつは旧式だろう?すこしは安くしてくれるかな?」
「そ、それはもちろんでございます」
店側も処分に困っていたのだろう、値引き交渉にもすんなり応じてくれた。
「お兄さん・・・」
「勘違いすんな、ただいいと思ったから買うだけだ」
「は、はい!」
こいつは今日から俺の家族になった。
「初めまして、礼(れい)と申します」
家に届いた旧式の冷蔵庫、礼はみんなの前で挨拶をする。
もちろん、人の姿でだ。
部屋に着いた瞬間は驚いていたが、今はもうなれたらしい。
身長は高いほうだ、黒髪ロングの髪は美しい。
ルックスも文句なしだろう。
もし、街中で歩いていれば一度は振り返ってしまうだろう。
「ザブですわ」
「フートです」
ザブやフートをはじめとする俺の家族は自己紹介をしていく。
「お兄さん、私を買っていただきありがとうございます」
「別にいいさ、冷蔵庫を買いに行ったらそこにお前がいただけだ」
「お兄さんは私の恩人です」
「やめてくれ、お前はこれから俺の、俺たちの家族だ。こいつらとも、俺とも仲良くしてくれ」
「は、はい!」
礼は目に涙を浮かべながら頭を下げる。
その後、俺は声のことを詳しく聞きに大家さんのところへ来ていた。
「う~ん、部屋の外でも家具の声が聞こえる・・・か」
「はい、これまではそんなことなかったはずなんですが・・・」
「今もここの家具の声も聞こえるの?」
「はい・・・」
「おうおう!兄ちゃん!ご主人をたぶらかそうったってそうはいかねえぜ!」
「やめなさいなあんた!今は大事なお話中でしょ!」
「にーちゃん元気かー?」
「風ブーン!」
「というふうな感じです」
「うちの家具がすみません・・・」
「いえ、うちの奴らよりまだましです」
「苦労してるのね・・・」
「まあ、家族相手ですから苦じゃないです」
さっきから地味に風送ってくる扇風機くん?地味に寒いんだけど、まだそんな時期じゃないからね?
「まあ、声のことはこっちでも調べて見るから」
「ありがとうございます」
大家さんには本当に感謝してもしきれない。
だから未だに敬語が抜けない。
「そういえば、デートのことですけど、次の日曜日にお願いしますね♪」
「はい、わかりました・・・」
忘れてなかったか・・・
俺は大家さんの部屋を後にした。
今日は平日、会社だ。
俺は新入社員の指導係を押し付けられた。
「先輩?顔色悪いですけど、どうしたんですか?」
「ああ、朝ゴタゴタしてな・・・少しな」
「気をつけてくださいね」
「ああ」
こいつは今年入社してきた新人、川田(かわだ)。
真面目でこうして俺の心配もしてくれる。
仕事もそれなりに出来る方だから将来有望だ。
「ゴタゴタって大変ですね」
「まあな」
俺の身に何があったかというと。
それは今日の朝のことだ。
俺はいつもどおり朝6時に目覚めた。
起きようとして布団を剥がそうとしたら、
ふにょん
なにか柔らかいものを掴んだ。
「あぁん・・・」
ついでに変な声も聞こえた。
「フート、なんでお前はいつも俺が起きるときは人になってるんだ」
「えっと・・・何故かです」
「そうか、何故かならしょうがないな」
しょうがないのか?まあ、本人がそういうんだ、しょうがないのだろう。
「はい・・・あのご主人様?そろそろ手を離していただけますか?」
「ああ、すまん」
俺はフートの柔らかい山から手を離す。
すこし名残惜しかったな。
「そしてお前は早くどいてくれないか?」
「えっと、ずっとこのままで・・・」
「遅刻するから!グッとくるセリフだけど!一瞬落ちそうになったけど!会社に遅刻するから!」
「ほんとにダメですか・・・?」
目を潤ませるな!体をくっつけるな!息を吹きかけるな!
やばい!あいつが起きる!
「う~ん?朝からうるさいですわね・・・あああああああ!フートさん!なにしてらっしゃるのです!?抜けがけは反則ですわ!」
「既に人化されていらっしゃったああああ!」
それからは語らなくてもわかるだろう?
最終的に家具が大騒ぎ、大家さんがパジャマで殴り込んでくるまで続いた。
今日の大家さんのパジャマ姿はピンクの水玉だった、可愛かったな。
という風なことがあったのでテンションは著しく低い。
同時に家具という言葉を聞きたくない。
「先輩!お得意様の家具店にいきましょう!」
ピキッ
「お前がいけ!このやろおおお!」
「ええええ!?俺なんか悪いことしました!?」
すまん川田、恨むならあいつらを恨め。
その後、川田一人に行かせたため課長にすごく怒られた。
全部あいつらのせいだ。
「104号室、家具パワー。手に入れなければ・・・」
「ジョア・・・あの者は着実に集めているようだ。しかも家具パワーのことは何も知らないらしい。今はどこでも家具の声を聞くことができるくらいまで貯めているようだ」
「アンナ・・・あの者・・・神野誠は早急に排除」
「わかった」
「我らに・・・我ら家具に・・・」
「「光あれ」」
ふたりの女性は盃を合わせる。
彼女らの名前はジョア・テレとアンナ・クラ。
彼女たちもまた家具である。
そしてここは、家具の世界。
その名も、
ファーニチャーガーデン
英語だ、直訳すると、
家具の庭
続く
どうもりょうさんです!新たなる力をお送りしました!
コメディかと思ったらバトルものか!?
どうなんだ俺!
はい、まだわかりません。
どう転ぶかはこれからです。
さて、今回出てきたジョアとアンナですが次回は出ません!
次回は大家さんとのデート回です!
お楽しみに!
それではまたお会い致しましょう!
作者の別作品「農業高校は毎日が戦争だぜ」もよろしくお願いします!
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