俺と家具
俺がこの部屋に引っ越してきたのは2年前、23歳の時だった。
その時の俺は念願の一人暮らしで浮かれていた。
このあと、そんな浮ついた気持ちはぶち壊されるわけだが。
「ふぅ~やっと引越し作業も落ち着いたな~」
俺は引越し作業を一段落させ、近くにあった座布団へと腰を下ろした。
この座布団は実家に居た時から使っているもので、なかなか愛着があった。
「あはぁん・・・」
そしてこの瞬間、長年連れ添ってきた座布団への愛着は崩れ去った。
「・・・ふん!」
一度尻を上げて思いっきり座布団に座る。
「あはぁん!いい!もっと!!もっとぉおお!!」
「座布団ありがとう、君のことは明日くらいまでは覚えておいてやるよ」
俺はおもむろに近くにあった裁縫道具を手にした。
長年連れ添ってきた座布団だ、最後くらいは綺麗にわたと布に分けてやろう。
「え?ご主人様?その手に持つハサミと針は何ですの?」
「さようなら座布団」
「ちょ!ちょっとお待ちになってくださいまし!!!」
ぼふん
「な!?」
座布団から煙が上がりあたりを覆う。
「ご主人様!それはいけません!冗談抜きで私死んでしまいますわ!」
「お、お、お、お前誰だよ・・・」
そこには座布団があったはずなのに、金髪ドリルの女が立っていた。
「私は座布団ですわよ?いつもあなた様の尻に敷かれていた座布団です」
「ええええええええええ!!??」
「驚くのも無理もありませんわね、私のこの姿を見るのは初めてですものね」
「い、い、いや!驚くってもんじゃないって!なんで座布団が女に!?」
「ご主人様が知らないだけで、家具は全てこのような姿を持っているのですよ?」
「な、なんだってぇえええええ!!??」
衝撃だった、てか衝撃ってもんじゃなかった。
「じゃ、じゃあ!そこの布団は!?」
「もちろん、持っていますわ」
「うそだろおおおお!?」
「ホントです、フートさん?」
ぼふん
「う、嘘だろ・・・」
「初めましてご主人様、布団のフートと申します」
「私は座布団のザブですわ」
今度は布団が現れやがった・・・
布団のあった場所にたっていたのは、爆乳お姉さんだった。
「でも!家具がその姿を持っていたとして!なんで今まではその姿を見せなかったんだよ!」
「最もな質問ですわ、私たちは普段この姿になることはできません。しかし、この部屋に入った途端喋れるようになり、この姿にもなれるようになりました」
「じゃあなにか?この部屋には不思議な力でもあるというのか!」
「その通りでございます」
「う、嘘だろ・・・」
「ほんとでございます」
俺は頭を抱えた。
「この部屋には何か不思議な力が集まっています、私たちはそれに反応してこの姿になれました」
「フートって言ったっけ?あんたも長い付き合いだよな、あんたもずっと俺を見てたっていうことだよな?」
「ええ、ご主人様が私の上でしていたことも全て・・・」
「やめてくれええええええええええええ!!!」
俺の行為が!全てこの人に見られてた・・・
「なかなか、大胆でしたわね」
「ザブといったか・・・お前もまさか・・・」
「私はいつもフートさんのそばに置かれていましたからバッチリと」
「ああああああああああああ!!!そうだったああああああ!!」
俺はなんてことをしてしまったんだ・・・
俺は頭を抱えて畳の上をゴロゴロした。
「それよりご主人様」
ザブが俺を呼ぶ。
「なんだよ・・・」
「今日はもうご主人様のお尻でいじめてはくれないのですか?もっと・・・もっと私をいじめてください!はぁはぁ!」
「ひぃぃ!フート!まさかこいつ!」
「重度のドM体質です」
「やっぱりいいいいいいいいい!?ホントは最初に声聞いた時からそうかなって思ってましたああああああああああ!」
「ご主人様ああああ!!!」
「ぎゃあああああああ!裁縫道具うううう!!」
ぼふん
「ご主人様に近寄るんじゃねええええええ!!」
「ごぶべらふぅ!!」
今度は裁縫道具が女の子に、ボーイッシュな感じだが背も小さく可愛いところもありそうだ。
ザブは裁縫道具らしき女の子に腹パンを食らった。
「その汚い手でご主人様に触ろうとするな!この変態ドM座布団!」
「ハリさん!いきなりお腹を殴るなんてひどいですわよ!」
「あんたがご主人様に触ろうとするからでしょ!」
「いいじゃないですの!私はずっと自分からご主人様に自分から触れたかった!幼少期からずっと私を大切にしてくださったご主人様に、ずっとお慕いしていたご主人様に触れたいんですのよ!」
ザブの目からは涙がこぼれていた。
思えばこいつは俺が小さい頃からずっとそばにいた、受験勉強や就職の勉強の時もこいつに座っていた。
多分、ここにある家具の中でも一番付き合いが長い。
「ザブ、悪かった。思えば一番お前が長い付き合いだったな、ひどいこと言ってすまない」
「ご主人様・・・」
俺はザブの頭を撫でてやる。
「ザブ・・・」
「ご主人様・・・ぎょしゅじんさま・・・」
ん?ぎょしゅじんさま・・・?
「ぎょしゅじんさま・・・はぁはぁ・・・ぎょ主人様あああああ!もっと私をいじめてええええ!」
さっきの気持ち返して!?こいつやべえやつだ!
「はりぃぃぃぃぃぃ!!」
「はい!ご主人様!うらあああああああああ!!!」
「ごべらふぉばぁ!!」
ザブは吹っ飛んで行き、壁に激突。
ちょっと動かなくなりました。
「「「・・・・」」」
無言。
「あれ、どうすんの?」
「少しほっておきましょう、そのうち起きます」
「そうしよう!ご主人様」
「い、いいのか?」
「大丈夫です、あの子は頑丈ですから」
「そうだよ!ゴキブリよりしぶといよ!」
「さ、さいですか・・・」
「それよりご主人様!ボクはね!ハリっていうんだよ!針のハリ!よろしくね!」
ハリは満面の笑みで俺の腕を掴み話しかけてくれる。
「ああ、よろしく。まあ、お前とも結構長いけどな」
ハリとは小学校4年生の時に買ってからの付き合いだ。
「そうだね!えっと、じゃあ!これからもよろしくだね!」
「ああ、そうだな」
ハリは俺のあぐらの上に乗って来た。
うん、可愛いな。
その後、入れ替わるようにして次々と家具たちが人間の姿で現れる。
その全てが何故か女の子だった。
フートによると、男性もちゃんといるようで、俺の家具が偶然全て女の子だったらしい。
偶然もいいところだ。
「よし、確認させてくれ」
俺は皆に確認するように質問を投げかける。
「君たちは家具だな?」
「そうですわね、家具ですわ」
うわ・・・ほんとに起きてる・・・
「う、うん。えっと、じゃあ君たちはこの部屋に来てからその姿になれるようになったと」
「そうですね」
フートが答える。
「それはこの部屋に不思議な力があるからで、それに反応した」
「そうだね」
次はハリだ。
「君たちの他の家具もその姿を持っている?」
「「「「「「持っています」」」」」」
いや・・・全員で答えなくても・・・
「ふむ・・・わかった、ありえねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
俺は発狂した、いやだって普通ありえねえし!
「それがありえてしまうのですよ。実際起こっていることなのですから」
ザブが言う。
「この世界はファンタジーの世界か!」
「言うならば、この一室だけファンタジーの世界ですわね」
「何があったんだあああああああああああ!104号室!」
でも、実際起こってしまっているのだ。
認めないわけにもいかない。
「わかった、お前たちは俺の長年連れ添った家具なんだよな」
「「「「「「はい、その通りです」」」」」」
「なら、今までどおり暮らすだけだ。これからもよろしく頼むよ」
俺はひとまずこいつらを受け入れることから始めた。
「ご主人様・・・こちらこそですわ!」
「ええ」
「よろしく!ご主人様!」
「「「「「「よろしくお願いします!ご主人様!」」」」」」
これが、俺と家具たちとの出会いだ。
そして、この生活を続けてはや2年。
「ご主人様ぁ・・・今日は踏んでくださいましぃ・・・」
一番の付き合いのこいつは、変態のままだった。
まあでも、こいつらは俺の大切な家具だ。
いや、家族か。
だから俺今日もこう言う。
「針をもってこおおおおおおおおおいいいいいい!!!」
これはこれで、楽しい生活だぜ?
続く
どうもりょうさんです!俺と家具をお送りしました!
家具の人間姿との出会いを書かせていただきました。
こんなふうにドタバタやっていけたらと思います!
どこまで続くかはわかりませんが、末永く見守っていただけると嬉しいです!
それでは、短いですがあとがきとさせていただきます。
また次回お会い致しましょう!
作者の別作品「農業高校は毎日が戦争だぜ」もよろしくお願いします!
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