雨中
俺らはすぐさま公園を出て、雨の中を駆け出した。
そして、手ごろな建物を見つけて中に避難した。
「どうやらここは図書館らしいな」
「そうみたいだね、伸哉」
「雨がやむまではここに留まっていた方がよさそうね」
ここで俺は今の状況を整理してみることにした。
あのとき先生が、
――「いいですか、みなさん。家に帰るまでが修学旅行です。それではお気をつけて」
そういい終わった瞬間、数十秒眩暈が続いて……
気づいたときにはもう町中のありとあらゆるものが俺らに牙をむく世界になっていた。
ん?ということは、いま俺らがいる世界は元の世界と別ということか?
そんなわけが……いや、今まで『あんなもの』を見てきたんだ。
今さらここが別世界だとしても、俺はそんなに驚かない。
「どうしたの?何か考え事でもしてるの?」
上条さんに言われ、俺ははっと顔を上げる。
「どうした伸哉、さっきからずっと俯いたままだったぞ」
「いや、別になんでもないよ」
しかし今議論すべき点はそこではない。
どうやって家に帰るかということだ。
「閉館時間ですよー」
司書さんがそう言って俺らのもとに歩いてくる。
いつもは、60代くらいの白髪のおばさんが出てくるのだが、
週に1度、20代の茶髪の女性が出てくる。
「あ、すみません」
戸上がそう言い、二人とも出て行こうとする。
「すみません」
「なんですか?」
「ちょっとトイレ借ります」
用を済ませ、トイレの扉を開ける。
すると、何やら光が。どうやら資料室からのようだ。
俺は外で待つ二人のことを気にしながらも、ちょっとだけ中を覗いてみることにした。
ちらり。
中には誰もいない……いや、人が……人が倒れてる?
「大丈夫ですか!?」
扉を勢いよく開け、部屋に入る。
中で倒れていたのは、司書のおばさんだった。
白いはずの毛髪が、赤く染まっている。どうやら誰かに殴られたようだ。
ギィィィィィ――バタン。
突然扉が閉まる音がして、俺は恐る恐る振り返る。
「……見たわね?」
そういって、扉を閉めたのは、若い司書さんだった。