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 入口から差し込む木漏れ日で目が覚めた。

 あわてて飛び起きて壁に頭をぶつける。

 握りしめていたはずの棒が見つからない。

 出口を見ると、何やら白いものが目に入った。

 おそるおそるうろから出て「それ」を確認する。

 

 「それ」は大の字になって倒れていた。

 目には深々と棒が突き刺さっている。

 巨大な頭に長い腕、突き出た腹に短い足。

 薄いピンクだった体は血の気が引いて白っぽくなっていたが、昨日遭遇した化け物に違いなかった。

 見れば見るほどグロテスクな姿をしている。その奇怪な体躯は生物として間違ったもののような気がした。


 ふと今日の目的を思い出す。食料調達。もしかしてこいつは食べられるのだろうか。

 「それ」の死体を一瞥する。頭に昔みた映画のエイリアンが思い出される。たとえ三ツ星レストランのシェフが料理したとしても、こいつを食べようとは思わないだろう。

 残った片方の目がこっちを見ているような気がして少し身じろぐ。


 そういえば、こいつはどうやって私の居場所を突き止めたのだろう。

 振り切ったと思ったが、実はつけられていたのだろうか。

 しかしいくら鈍い私でもこんなものにつけられていたら気づく自信がある。そこまで鈍感ではないはずだ。

 化け物の体格を見る限り、私より素早く動けるようにも見えない。

 あの時点では完全に逃げ切れていたはずだ。なぜ私がいた場所がわかったのか。


 化け物を再度確認する。

 顔についているのは目だけだ。ほかのパーツはは見当たらない。

 目はかなり大きくていかにも視力が良さそうだが、あの暗闇の中では役に立たないだろう。

 昨日私はこいつに見つかるようなことをしただろうか。

 そこまで考えて昨日大声で叫んだことを思い出した。あれのせいだろうか。一見こいつには耳がないように見えるが。

 光が化け物にあたり、薄い皮膚から内臓が透けてみ見えた。それと同時に合点がいった。

 中身が透けるほどに薄い皮膚は鼓膜の役割を果たしているのだろう。いわば、こいつは全身が耳なのだ。


 仮にこの化け物が複数体いるとして、これ以上接触するのは避けたい。

 今回はたまたま仕留めることに成功したが、いかんせん正体が全くわからない。

 もしかしらこの長い腕で絞め殺そうとしてくるかもしれないし、毒を吐いてくるのかもしれない。

 なによりこの人型ハダカデバネズミのような生物に遭遇するのは精神衛生上よろしくない。

 極力大きな音を立てるべきではないだろう。


 化け物の目にささった棒を引き抜くとべっとりと赤い血が付いていた。

 思わず脇へ放り投げる。名前までつけて若干愛着もわいていたが、さすがに持っていこうとは思わなかった。

 さらばエクスカリボウ。短い間だがよくぞ私を守ってくれた。

 すぐそばによく似た棒があったのでそれを持っていくことにする。ソウルキャリボウと名付けたそれを肩に担ぐと、私は食料調達にむかった。


 大木を中心に森の中を探索すると、熟した木の実が成っている木が見つかった。

 一粒は小粒のブドウくらいの大きさだろうか。赤い実を一つもいで口に含む。少しえぐみがあったが甘酸っぱい。毒はなさそうである。

 空腹だったこともあってむさぼるようにして食べた。

 しばらく後、地面には吐き捨てた種の小山が出来上がっていた。

 別のところでは野イチゴがなっているのも見つけた。

 キノコもいたるところに生えていたが、これに関してはスルーする。

 素人が手を出していいものではない。病院も何もないこの状況で毒キノコにでもあたれば詰みである。


 突然右腕に痛みが走った。

 見ると服の袖が破れている。木の枝か何かに引っかけたのだろうか。服の端には血がにじんでいる。

 傷口から細菌でも入ったら一大事だ。あわてて確認するが傷は見当たらなかった。引っ掻いただけだったか。

 血に見えた赤い染みは野イチゴの汁かなにかだろう。


 木のうろまで調達した木の実を運び、小川のほうへむかった。

 魚が泳いでいるのが水面からはっきり見える。

 どうやってとってくれようか。糸も針もないのでは釣りもしようがない。

 ダメでもともと、川に入って素手で捕まえてやろうか。これだけ泳いでいるのだ。一匹くらい私に捕まるくらいどんくさいヤツがいるだろう。

 私は服のすそをまくり、ざぶざぶと川の中に入って行った。


 結果は惨敗であった。

 正攻法、不意打ち、待ち伏せ、フェイント、張り手、投石、ソウルキャリボウによる攻撃、そのすべてを魚は楽々とかわし続けた。

 苔に足を滑らせ転び、全身ずぶぬれになったところで私が無念のギブアップ。

 しばらくは木の実が主食になりそうである。

 小川から帰る途中にまるで人が住んでいるような洞窟を発見。

 先住者がいないことを確認し、木のうろから意気揚々と引っ越した。


 洞窟の壁にはすでに二つの正の字がきざまれている。いまだに私は森にいた。

 相変わらず木の実が主食だが、こころなしか筋肉質になったような気がする。

 摂取した動物性たんぱく質はこの前みつけたトカゲのみだ。さすがに抵抗があったが、焼くと意外にも食べられた。

 ウサギを一度見かけたのだが、不覚にも逃がしてしまった。

 ウサギを見つけて、愛玩動物でなく食料だと認識するあたり、ここ一週間以上のサバイバル生活は私の心身に多大な変革をもたらしているようである。

 今日こそはどうにかして魚を捕まえてやろうと意気込んで川へ向かった。


 実は魚をとる算段はついていた。

 その手段に踏み切れなかった理由は、その方法が大きな音を出すからである。

 またあの化け物に見つかってはたまらない。

 しかし一週間もの間姿を見せないことから考えると、少なくともこの近辺にはいないのだろう。

 いつまでも怖がっているわけにはいかない。


 まずはそれなりの石をさがす。10キロぐらいのものが好ましい。

 目当ての物を見つけ、それを担ぎあげると、川から突き出している岩めがけて全力で投げつけた。

 激しい打撃音が響き、近くの木に止まっていた鳥たちがけたたましく鳴いて一斉に飛び去った。

 衝撃が水面に伝わり、大きな波紋を作る。

 すぐに数匹の魚が腹を上にして、まるで死んだように浮かび上がってきた。成功だ。


 石と石をぶつけて衝撃波を起こし、魚を気絶させる。

 この漁の仕方はガチンコといい、今は禁止されているらしい。

 漫画で仕入れた知識だが、うまくいくとは思わなった。

 思わずその場でガッツポーズをする。

 そうこうしているうちに、気絶から回復した魚たちが再び泳ぎ始めていた。気絶させただけで捕まえるのを忘れていた。

 自分のあまりの間抜けっぷりにあきれながら、再び石を持ち上げて頭上にかかげる。

 今度こそは捕まえてくれようぞ。


 苔に足を取られ、後ろに倒れる。

 二回目だ。前回と違うのは、私が石を持っていること。

 手から離れた石は重力に引かれて落下し、着地点にある私の右手を無慈悲に粉砕した。

 肉が裂け、骨が砕ける感触。それは電気信号に変換され、瞬時に私の脳髄に送信される。

 いまだかつて経験したことのない痛みに私は喉が裂けんばかりに叫んだ。

 流れ出た血が澄んだ川の水を赤く染めた。震える左手で石をどかす。


 右手は見るも無残な有様だった。

 真っ赤に染まった手のところどころに白い骨がのぞいている。

 中指と薬指はあらぬ方向に曲がり、小指に至っては根元からちぎれ飛んでいる。

 私はもはや右手は使えないことを悟ると同時に、これからの生活を想像し深く絶望した。

 しかし、そのあとに起こったことは私の理解の範疇をはるかに超えていた。


 ボキリボキリと耳障りな音を立てて、思い思いの方向を向いていた指が元の位置に戻る。

 ちぎれた小指の位置からバキバキと骨が伸びて、肉がその周りを包む。

 パックリと裂けていた皮膚はまるで吸いつくようにふさがり、二枚貝のように開いた爪は再び閉じる。

 数秒後、そこには血にまみれてはいたものの、すっかり元通りになった右手があった。


 今目の前で起こったことを、にわかに信じることはできなかった。

 川に手をつけると、確かに冷たい感覚があった。

 血を洗い流しまじまじと手を見つめる。傷もあざも見当たらない。

 握って、開くを五回ほど繰り返す。完全にいつも通りだ。


 白昼夢でも見ていたのだろうか。

 しかし横にある石についている血はまだ生乾きだ。

 川底をあさり、適当にとがった石をつかむ。手の甲にあてて、勢いよく引いた。

 鋭い痛みとともに赤い線が走る。にじみ出た血を指でぬぐったが、そこにあるはずの傷は見つからなかった。


 どうやら私は人間をやめていたようだ。


 

 


 

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