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 振り向いてもあの化物はもう見えなかった。どうやら逃げ切れたらしい。

 気が付くとまた森の奥深くまで来てしまっていた。

 小川からはずいぶん離れてしまったらしいがそんなことはどうでもよかった。あの化物から逃げ切ることができた、それだけで十分ではないか。

 

 それにしてもあんな不気味極まりない化け物がいるとは。

 どうやらここは本当に異世界のようだ。

 あんなものがいるとわかった以上、一刻も早くこの森を出なければならない。

 しかし小川の方へ戻るとまたあの化物に出くわしてしまう恐れがある。

 今回は逃げ切れたとはいえ、次もうまくいくとは限らない。

 しかしよく逃げ切れたものだ。


 なにか武器を探さなくては。

 足元にある小石をいくつか拾ってポケットに詰める。

 すぐそばに1メートルほどの木の棒が落ちていた。それなりに丈夫そうである。素手よりはるかにマシだろう。


 ふとここが異世界だということを思い出した。

 もしかしたらこの世界に来た時に特殊な能力を身につけたのかも知れない。

 ためしに隣にあった岩に手刀をしてみる。すると岩がまるでバターのように切れた、ということはもちろんなく私の手が赤く腫れただけだった。

 その場でジャンプしてみたが特に高く飛べるということはない。

 全力で走ると50メートルも走らないうちに脇腹が痛くなった。


 まだだ。異世界といえば魔法だ。ファンタジーやメルヘンの世界では魔法が使えるのだ。私もその類いのものが使えるかもしれない。


目を閉じて全神経を手のひらに集中させる。血液の流れを意識し、大きく息を吸って、ゆっくりとはく。心臓の鼓動が聞こえる。私はほとばしる稲妻をイメージしながら右手を勢いよく前につきだした。


当然なにも起こらなかった。


その後も手の形を変えてみたり、呪文を詠唱してみたり、棒を振り回しながら技の名前を叫んで見たりしたがなにも起こらなかった。

 ふと我に帰り、私はいい年して何をやっているのかと考えた。死にたくなった。

 棒は気に入ったので持っていくことにした。エクスカリボウと命名する。


その後しばらく歩くと再び小川に出た。先程の化け物があたりにいないか見渡す。

 どうやら近くにはいないようだ。

 再び小川に沿って下る。先程の件もあるため半ば駆け足で移動した。

 ときおり立ち止まって周囲を見渡しながら進む。

 そうこうする空が赤くなってきた。

 辺りの景色は代わり映えしない。今日中に森を抜けるのは不可能なようだ。


 巨大な木を見つけた。

 ほかの木も相当大きいがそれは飛びぬけて大きい。

 根元にそれに見合うだけの大きなうろがあった。

 人一人なら楽に入れそうである。野ざらしよりはるかにましだろう。

 さっきまで夕方だったが、急速に暗くなり始めている。

 明りがないというのはこうも心細いものなのか。今までは市街に住んでいただけに夜でも外は明るかった。

 本物の暗闇というものを初めて体感する。一寸先は本当になにも見えない。とても出歩ける状況ではなかった。

 私は暗闇から逃げるようにうろの中に転がり込んだ。

 

 不意にあの化け物の顔が浮かんだ。

 全身に鳥肌がたち、背中を冷や汗がつたった。少しでも恐怖を紛らわそうと暗闇にむかって大声で叫んだが、帰ってくるのは静寂だけだった。

 唯一の武器であるエクスカリボウを強く抱き占める。

 怪物のこと、前いた世界のこと、この世界のこと、これからのこと、さまざまな不安があらわれては頭をかき乱していく。


 吐き気を感じてうろから出てえづいたが、出てくるのは胃液だけだった。

 こっちに来てから水しか飲んでいないことに気がつく。

 とりあえず明日は食料を探そう。このままでは飢え死にしてしまう。

 川に魚がいたのをとるか。

 探せば食べられる木の実もあるだろう。

 いろいろ考えることはあるが、まずは生き延びなければ話にならない。

 無駄な体力を使わないためにも一刻も早く眠らなくては。 具体的になにをするかの指針を決めると気持ちも落ち着いてきた。うろにもどって目をつぶる。


 音が聞こえた。

 

 頭の中が恐怖一色で塗りつぶされた。

 その音はかすかであるが一定のリズムで聞こえてくる。

 風の吹く音でも水の流れる音でもない。まさかあいつが追ってきたのか。

 だんだんと音が大きくなってくる。何かが歩いている音だとはっきり分かった。

 棒を握りしめ、出口の前で構える。

 「それ」が私に気づかずに通り過ぎるように願った。

 目に涙がにじむ。自分の心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえる。

 祈りもむなしく、足音は目の前で止まった。


 闇よりも黒い二つの球体が目の前に浮かんだ。

 無我夢中でそれに棒を突き立てた。そのまま棒を押し込んで手を離す。

 何かが倒れる気配がした。私はそのまま意識を失った。

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