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一.藤堂源次 鬼に出会す

今章.藤堂(とうどう)源次(げんじ) (おに)出会(でくわ)

 皆様方は、道に迷って途方に暮れたとき周囲がまるで異世界のように感じてしまったという事はあるだろうか? 

 この物語の主人公、藤堂源次も――昔田舎に住んでいた頃、悪友に誘われて山奥の駄菓子屋に行こうとした際に道を思い切り間違って、異世界のように静かな山道や知らない町を泣きながら迷い歩いた事がある。

 そして、藤堂は現在その当時のトラウマが盛大にフラッシュバックして涙目になりながら、全然知らない山道を呆然と彷徨い歩いていた。

「だ……誰か助けてくれえええぇぇぇ!」

 藤堂は渾身のSOSを天に向けて叫んだ。

 しかし天に神でも居ない以上、帰ってくるのは無情な静寂だけだった。

 藤堂は力なく茂みに天すら覆い隠された山道に座り込んだ。

「くそぉ……何でこんな事に、」

 藤堂は方向音痴などではない、むしろ田舎で迷ってからは逆に必死で方向感覚を鍛え上げた方だ。しかし人は迷うときには迷うものである。

 オカルト好きの友人への土産はないかと大江山奥にふとした拍子に迷い込んだ藤堂はかれこれ半日は歩いた。しかし健闘むなしく一向に森の出口は見えないままだ。

「死ぬ……これはマジで死んでしまう……」

 歩き疲れ空腹に襲われた藤堂は先ほどの叫びで体力を失ったのか呆然と空を見上げて放心し始めていた。

そんな時だった……


「食べますえ?」


 一瞬、その言葉が力つきた自分を食べようと画策している化け物か何かの声だと思えた。

 しかしその考えは、ポトリと藤堂の足下に落ちてきた柿の実によって間違いと証明された。

「たべますえ?」とは「食べますか?」という意味らしい。そこで諦めて身を投げ出した虎の前のブッダ的状態から生に執着する人間らしいものへと思考を取り戻した藤堂は獣じみた早さでその柿を頬張ると租借し、飲み込んだところで味覚が一歩遅れて去来して噎せてしまった。

「ぐ、げほっ……渋!」

 そう、その柿はまだ渋柿だったのだ。

「にはは、焦って食べたらあかんよー?」

 鈴のような軽い声で関西弁によく似た方言が藤堂の慌て振りを笑う。

 藤堂はむっと少しばかり苛立ちを覚えたが、実際のところ栄養的には助かった。

 藤堂は命の恩人の声に振り返り礼を言う。

「ぐっ、柿ありがとうな。マジで助かったよ。だけど持ち歩くならせめて天日干しした柿をだな……」

 文句を言いながら振り返った藤堂は、言葉を失った。

 柿の樹の下に立つその少女の髪には色がなかった。無色という言葉がどこまでも似合う白い髪だった。その少女の人形のような丸い瞳は、宝石のような紫色だった。その長い白髪を五枚花弁の花のような髪飾りで飾り、その華奢で白い肌を上質そうな黒い布地の着物で包んだ少女。それはまるで日本人形の職人が冗談半分で作った、現実にはあり得ない領域に届く程の美しさを極める事にコンセプトをおいた人形のような……

そんな現実離れした神秘性を帯びた少女だった。

「あれ……きみ、私が見えとるんですか?」

 神秘的な外見はともかく、背格好からどうみても年下の少女にきみと呼ばれた事に疑問を覚えつつ、藤堂は言い返した。

「見えないと思ってて話しかけてたのかよ?」

 その少女はどうやら自分が見えていないと思っていたようだ。しかし少女の外見はこれ程かという程に目立つ、何より黒と紫の衣装にその白髪という組み合わせは森の中ではどこにいても保護色の間逆をいくに違いない。

「あ……アハハ、おもしろい人やなぁ君は♪」

 そういう少女はどこか嬉しそうだった。そして笑いながらその場を離れようとする少女は、茂みに入り込んでいきながら藤堂に言った。

「この辺はもう町に近くなった(…)さかい、また同じ方へ歩いていけばもう帰れますえ」

 すこし不思議な言葉が混ざったような気もしたが、それも彼女の特異な方言なのだろうと思った藤堂は少女に手を振った。

「どうも有り難うな」

 少女も茂みの中から手を振って答える。

「いえいえ――そうそう、変な祠見つけても絶対に入っちゃ駄目ですえー、おっかない鬼さんに食べられてまうからなー!」

 そういいながら少女の声はどんどん遠くなっていった。

「……鬼?」


 ◆


「へえぇそんな子がねぇ……そりゃ源次、またその女の子に会えるフラグじゃないか?」

「会えるなら会ってみたいね、でもな親父フラグとかいうのやめろ」

 夕食の席で感心したように酒をあおりつつ言ったのは藤堂平治、藤堂源次の父であり奈良で呉服屋を営みつつ副業で主に男性用アドベンチャーゲーム……所謂ギャルゲーのシナリオライターをしている趣味の人である。

「源次ったら大江山の鬼に化かされたんじゃないの? この辺にそんな子なんかいないわよぉ」

 がつがつ食べる源次の茶碗にお代わりのご飯を注ぐ妙齢の女性は藤堂紅葉、藤堂源次の母親である。藤堂家の呉服屋は母の家系で継がれたもので、父は神社からの婿養子である。

 こんな父親でも大江山で立派な神職に就けていたのだから世の中おかしいものである。   

どうみても結婚を好い機会に破門された感じではあるが。

 ちなみに家族全員京都生まれの京都育ち、息子である藤堂源次だけが東京の全寮制の学校に通っており夏休みの間だけ京都に帰省しているのだ。

 そして懐かしの近所の森に入りあのざまである。

「大江山の鬼……ねぇ、どうみても女の子だったぜ?」


 大江山の鬼……即ち、天下最強の三大妖怪と謡われる妖怪の一つ、大江山の酒呑童子の事だ。

 女好きで大の酒呑み、一説には鬼をかたった盗賊の頭領という説もある。

都の豪族を殺しては美人美女を誘拐し、当時の権力者から討伐指令を授かった源頼光(みなもとのよりみつ)率いる四天王たちによってだまし討ちにあい毒酒で酔ったところで首を切られたのだとか。

 神社の出である父の話によれば、大江山には未だ酒呑童子の怨念が残っているらしく、藤堂のように森で半日カ間だけ神隠しにあったり、化かされたり等の奇妙な事件もざらにあったそうだ。


「いいや、神社に住んでた俺にしてみれば一般に出回ってるイメージと実際のイメージってのは結構違うもんだ。なんせその時代から千二百年もたってる訳だからな、怨念云々ってのだってほかには噂くらいしか回ってないだろう?」

 いつも酒が入るとエロい話題やギャルゲの話題しかしない父が珍しく真面目に語りだした、藤堂はそう思った事を一寸先に後悔する事になる。

「つまりだな、大江山の鬼が百合でエロエロな女の子だったとしても問題はない、むしろ俺はそれを強く信じるね!」

「あんたには一生そんなのと縁は無いわ!」

 そんな事を堂々という父の頭を、藤堂とその母はどついた。

 見事に息の合ったツープラトン攻撃に脳天を揺さぶられた父は頭を抱えて昏倒した。

「しかし伝説と違うところねぇ……」

 よくよく考えれば藤堂からみてあの少女はそういわれても信じきれてしまう程の神秘性を持っていた。

それが鬼とかならともかく少なくとも神様やお化けの類と言われたならまだ素直に信じていただろう。

 逆にそういったものならば怨念が籠っているなんて言われている大江山をうろつくはずもないか……藤堂はそう自分の事を棚に上げて思いながら味噌汁に口を付けた。


『そうそう、変な祠見つけても絶対に入っちゃ駄目ですえー、おっかない鬼さんに食べられてまうからなー……』


「祠……か」


 行くな と言われていくのは愚か者の所行である、それは藤堂も承知のことだろう。

父のような妄想も藤堂にとってはどうでもいい、しかしせっかくの夏休みだ。好奇心に負けても仕方のないことだろう。

 藤堂は命の恩人である少女の言葉にあえて逆らう罪悪感をそうやって押さえ込むと薄く笑って味噌汁を飲み干すのだった。


 ◆


 夜の町に堅い金属同士が叩きつけあうようなけたたましい音が鳴り響く。

 それでも誰も起きはしない、それはまるで幻であるかのように一般家屋を通り抜ける。

 一言で表現するならば、明晰夢。

夢を見ている時、これが夢だと自覚していると壁を自らの意思で抜けたり人間にはあり得ない程の膂力で跳びはねたり走ったりといったことが出来るようになる事があるだろう。

 まるでそれらは、明晰夢の主のようにあらゆるものを通り抜けては飛び、そして互いにのみ激突した。

 それは、昼間に藤堂を助けた少女だった。

 もう一体、巨大な陰が少女に覆い被さるように襲いかかるが、少女は着物を翻しながら手に持った長すぎる長刀でその陰を切り裂いた。

 しかし、散り去った陰は再び集約して元の形を取ると再び少女に向き直った。

「あーもう、いい加減しつっこいなぁ」

 少女は辟易したように言うと、長刀を横に構え刀身に指を添える。

「『夜芸速(やぎはや)十拳剣(とつかのつるぎ)此れ火産霊(ほむすび)と成り』」

特別な意味を持つ言葉と共に刀身を指でなぞる、すると長刀の刀身に神代文字と幾何学模様が組み合わさったような奇妙な文様が奔り、一瞬の後に刀身が赤い炎に包まれた。

否、炎のようであるが、炎でないものだ。空気を焦がすにおいもさせず、ただ『破壊する』という意志を具現化したような概念の放つ光である。

「今夜はそろそろ……いい加減にしぃや!!」

 少女は叫ぶと刀を一直線に降りおろした。衝撃波が二人の間に生じ、火の粉が舞い、地面が割れる。

 その余波もすべてが幻だったように消えていつものような平静な住宅街に戻っていった。  

それでも煙は切りつけられた陰の上半身をかくし、少女は勝利を確信した笑みを浮かべた。しかし――

「なっ……!?」

 少女の振りおろした炎の長刀は、陰の太くはっきりとした腕に捕まれて受け止められていた。

 しかし少女をそれ以上に驚かせたのは、煙がはれて消え去った後に見えた影の上半身だった。

 それは化け物のようにぎらぎらと光る眼で少女を睨みつける、しかし長刀を掴むたくましい腕に反してその体は華奢であり雪のように白い肌をしていた。

燃えるように赤い髪とその目を除けば、その姿はまさしく今相対する少女そのものだった。

「私に……? まさか、私の姿を誰かが……!」

 少女が昼間に出会ったあの青年を思い出しながら油断した隙に近づいてきた陰に後ろから羽交い締めにされて拘束される。

「うぁ! まさか、今までずっと抵抗してきたんに……同化しとる……!?」

 ギリリと少女の腕を掴みあげる陰は、その表現通り少女の『陰』とでもいうべき存在だった。

 その陰に浸食されてきているような言いようもないおぞましさと不安で、少女の顔に初めて不安の色がみえる。

「い、いやや……ひ、ひゃわぁ!?」

 少女が陰に振り向こうとすると、それまでの真剣な声を忘れさせるような場違いな悲鳴があがる。

 少女の無きに等しい胸を、陰の華奢な方の腕が掴んでいたのである。

「ちょっ……やめ、何やって……ひぃっ、こそばいって、にゃあぁっ」

 その手つきは怪しく、しかしそれまでの愚鈍で一直線な動きではなく、あくまで少女を虐めるためのものだと言うことが一目で理解できるものであった。

「ふぁ……なん、で」

 そして少女が赤く上気した顔で陰の顔を見ると……

 その陰は『百合でエロエロ』という妄想をしていた誰かのようにいやらしい笑みで少女をみていた。

 少女の恐怖にゆがんだ顔が一瞬で苛ついた顔になり、少女は誰かにつっこみを入れるように叫んだ。

「ちょ……誰がどんなイメージしとるんやああぁ!!」

 少女はそう叫ぶと、陰の腕をふりほどいて陰の全身を見事な剣舞でみじん切りにした。

 哀れ陰は細切れの欠片となって霧散していった。

「ぜぇ、ぜぇ、ハァ……まったくもう……でも、あの子がそんな想像しとったんかなぁ、私で」

 少女は昼間に出会った青年を思い出す。

 顔はそれほど悪いというわけでもない、しかし相手が何であれそう言う想像をされるというのは気恥ずかしいものである。

ましてやそれが本当に久しぶりに、言葉を交わした誰かというのであれば印象も濃い分余計に気恥ずかしくなるのは当然の事だった。

 ぼっ! と少女の顔が赤くなった。

「うぅん、ちょお恥ずかしいなぁっ!」

 少女は顔を真っ赤にしてごまかすようにそう叫ぶと、人並みはずれた跳躍で家屋を飛び越えて山へと消えていった。


 ◆


 次の日の朝、藤堂は不思議な夢から目を覚まして起きあがった。

「……親父の妄想癖でも伝染ったんだろうか」

 いろいろとあり得ない夢である。

 着物を着た女の子が夜の町を飛び回りながら鬼と戦っていた夢である。

 ゲームやアニメじゃあるまいし、女の子が重い着物であんな大きな刀を振り回すなんてとうてい無茶な所行だ。

 ましてや炎の剣なんて必殺技にしても想像力に乏しすぎるだろう。

 そして、少女の白い肌をなで回す女性化した鬼の腕……

「えぇい、何を考えている藤堂源次」

 藤堂は眉間を指で押さえて自分に叱責した。

 自分の妄想の世界はさておいて、源次は早速着替え、鞄を背負って部屋を後にした。


 一度迷った森にもう一度踏み入る、ということは普通はやらない。

 しかし藤堂は今度こそ迷わないと言う自信を持っていた。森に入ったのは昨日出た出口から、そこから少女に会った場所の範囲を捜索すればいいのである。

 そう、少女の言を信じるならばその位置から帰る道の内に祠があると言うことなのだ。

「しっかし、夏休みというのはどうしてこうテンションをあげるもんなんかね」

 藤堂が一人そう呟く、しかしその貌には些かならぬ好奇心で自然に笑みが浮かんでいる。

藤堂は変わりものと言われるが、それでも普通に男の子なのだ。

茂みをかき分けると、意外にあっさりとそれは見つかった。

「こんなの、この辺にあったっけ?」

 祠と言うより、洞窟に近い。そう形容して余りある、石造りで入り口の大きな祠がそこにはあった。昔の豪族を奉った石舞台古墳等があるだろう、それをより大きくしたような無骨な巨石建造物だった。

 神社仏閣、まして古墳などの知識がない藤堂でもそれがかろうじて祠だとわかったのは、そこにご丁寧にも日本の神秘的スポットの証である注連縄(しめなわ)が張ってあったからだ。

注連縄は、日本において古くから神の行動範囲と人間の行動範囲を明確に隔てる事に用いられるという。つまり、この祠は神を祀る神殿のような役割の物なのだろう。

「こんなあからさまにあったなら、そりゃ注意しなきゃ入っちまうよな」

 そう言いながらも注連縄をくぐり入るのがこの男、藤堂源次である。

「お邪魔しますよ……と」

そう言って藤堂が祠に足を踏み入れた瞬間だった。

バツッ、と音を立てて注連縄が頭上から落ちてきた。

「うおっ!? 何だ!?」

 慌てて落ちてきた注連縄を振り落とす、そしてその注連縄は両端から不自然に断ち切れていた。

「今、何で落ちてきたんだ……これ?」

 ゾッ、と嫌な寒気が背筋を撫でる。

 行きはよいよい帰りは怖いと言うが、行きの時点で恐ろしくなってきた。しかし、

「……んな事で、簡単に……引かせられると思うな、よ!」

 固まる足を前に出し、藤堂はそのまま一歩踏み入れる。

 カコン、カコン、カコン、カコン、コン――

足音だけが祠の奥へとエコーする、どうやら予想以上に深いらしい。

「……っし、何も出ないな」

 あまりに頼りない確認の方法だが、一歩ごとにそれが偶然であれ忠告であれ悪戯であれ変なことが起きるわけではないようだ。

ならば見に行くくらい何でもないはず、藤堂はそう踏んでまた一歩一歩と歩みを進めていった。

 藤堂は、どちらかと言えばオカルトを信仰こそしていないが、肯定だけはしている人間である。知り合いにオカルトが大好きな友人がいることもその要因の一つなのだろうが藤堂にしてみれば、ただそう言ったものがいるのならこの日常も楽しいと思えるからだ。

 藤堂は念のため、剣道部で使う木刀を鞄から引き抜いて歩を進めた。


 ◆


 ―――静寂。

 耳鳴りがするほどの静寂の中に、その屋敷はあった。

 常夜のような暗い灰色の世界にたたずむその屋敷の存在はシュールな組み合わせとも言えた。

 その屋敷の中もまたシュールこの上ない様相である、その屋敷は壁も、地面も、天井も、どこもかしこも太い竹のような形と色のパイプラインが張り巡らされ、時折機械の駆動音を鳴らしては蒸気を噴かしている。

 その最奥に簾で囲われた空間のある板の間が唐突にあり、黒く四角い何かがその中央に鎮座していた。

その内側はまるで黒い水槽のような漆黒の壁で覆われ中も見えない状態となっている。

 するとその壁に光る黄色い文字が縦書きで表示された。漢字に近しくも神代文字に近いような文字で、その意味を知る人間にそれはこう読めるものだった。

『大江結界房第一表層解除、第一級戦犯酒天童子自我解離封印――第一行程解除開始』

 そしてその文字が消えると同時に、今度は赤い文字でこう表示された。


『酒天童子、脱獄の畏れ有り』


 尺八を立て続けに大量に鳴らしたような警報が誰もいない屋敷に鳴り響いた。


 ◆


 その一方で、少女は岩の上に仰向けに寝転がっていた。

「……はー、本屋さんも今日は新作入っとらへんかったなぁ。しかし、あれも力一杯弾(はじ)いたから今日は平和なもんやなぁ」

 少女はのんびりと日向ぼっこを楽しんでいた。

 昨夜の戦いでしつこく少女に襲いかかってきていた陰も、しばらくは現れないと言うことなのだろう。

「……ん?」

 少女はハッと顔を上げるとすぐに祠の方向を向いた。

 肌に感じる感覚がいつもと違うことを感じる、まるで空気が清浄になったような……機密された密室から外へと久しぶりに解放されたかのような感覚を、少女はその身に感じていた。

「まさか、誰かが封印を……何で!?」

 誰も応える人間はいない、しかし少女はまだ独り言を呟きながら立ち上がった。

「……あかん、私はまだ此処に居るんに!」

 少女は慌てた様子で岩から飛び上がるとかき消えるように姿を消した。それを追うように赤黒い霧がその場に集まってくると、ギュッと硬質の球体になるまで固まり祠へと滑るように飛んでいった。


 ◆


「よっ……と」

 藤堂は石造りの急な坂を下りて、祠の奥へ進んでいく。

 入り口の近くこそ無造作に巨石を積み重ねたような危なっかしい造りになっている。

しかし中に入っていくごとにその造りは整頓されていき、今藤堂の居る深度にいたっては煉瓦造りのようにきっちりと四角く整頓された地下通路となっていた。

「何なんだこれ、本当に祠か?」

 藤堂は疑問に思いつつも突き進んでいく。

 それまでの古めかしく神秘的な雰囲気か進むごとに近代的な雰囲気となっていくからだろう、藤堂の緊張もいつしか薄れていっていた。

 やがて黒塗りの壁のようなものが道を塞いでいる行き止まりに行き着いた。

「これは……いい加減怪しくなってきたなぁ。どっかの地下鉄に繋がってるのか?」

 この黒塗りの壁がまた胡散臭さを助長していた。

 磨きあげたばかりの色付きガラスのように光を反射し光沢を放っているそれに藤堂が触れようとしたときだった。

「とおりゃんせ」

 鈴のような声と共にその壁ははじめから無かったかのように消滅した。

「……何だ、今の?」

 明らかに異常な事態を前にして藤堂の思考がフリーズした。

「き、気のせいだよな? ……流石にそろそろ引き返した方が」

 そう言って振り返ろうとした時だった。

「振り向いたらあかん! 走るんや!」

少女の声とともに、藤堂の首が強制的に引き戻された。

そしてそのまま、いわれるがままに走り出した。

「う、うわああああぁぁぁぁぁぁ!」

藤堂は訳も分からずどんどん祠の最奥に向かい全速力で走っていく、もともと運動神経

のいい藤堂の視界は瞬く間に通り過ぎていき……やがてガクンと足を踏み外す。その下は緩

やかでも地の底まで続くかのような長い階段が延々と下へ続いていた。

 藤堂はそのまま重力に従って落ちていく浮遊間のなかでどうにか受け身の体制を取った

「だああああぁぁぁぁぁ!?」

「にっははははは」

藤堂の悲鳴と少女の笑い声が混ぜ合わさった状態で転がり落ちていく。

そして転がり落ちていった先でようやく平坦な広間に出たのか、ごろごろと床で数回転した後に体が開いて藤堂は回転地獄から解放された。

「いだだだ……うっぷ、何だよこれは……」

 やがてめまいが溶けていき部屋の全貌が見えるようになってくると藤堂は言葉を失った。 明るい、洞窟にも似た長い長い洞窟の最奥だと言うのに。そしてその光源は地面を流れ

る液体だった。まるで発光することが当然かのように光っている液体の流れる元には――

「昨日の……女の子?」

 それは、裸の少女だった。

それは、少女の入った透明な岩の蕾だった。

他の部分だけは岩なのに、何故か少女の姿をくっきりと見せるように透けている岩の蕾は、花弁の先に当たる部位からずっと高い天井へと延びているチューブでつながれており、見ようによってはそれはSF映画の救命ポッドや冷凍睡眠装置か何かのようにも見えた。

「ほんとに……何なんだこれ?」

 昨日藤堂の命を助けた少女、白髪をその身を満たす液体に漂わせながら目をつぶって眠っている。

それが亡骸だと思えなかったのはその少女の姿が余りにも瑞々しく、その肌から強い生命力を感じているからだ。

そして、少女の口から気泡がごぽりとくぐもった音を立てて岩の蕾の上……チューブでつながれた先へと上っていったからである。

「これ……生きてる、のか?」

「これとはお言葉やなぁ?」

「うわっ!?」

 藤堂はその呟きと同時に話しかけてきた後ろの少女に驚いて振り向いた。

 そして藤堂は矛盾に気付く。

「あれ……あんた此処に、こっちの裸の子は……え!?」

 藤堂は後ろに立つ和服の少女と目の前に浮かぶ裸の少女を交互に見る。同じ白い髪、白い肌、どちらも他人と呼ぶにはあまりにも似通いすぎていた。

「あんまり見ぃへんでくれるかな、そっちの私を。ちょお恥ずかしいさかい」

「す、すまん」

 藤堂は慌てて少女にいわれるままに、和服の方の少女へと振り返る。

そして一呼吸置くと少女に尋ねた。

「いったい何なんだあんた、さっきは姿もなく声だけだったし……こっちの子とは瓜二つだし」

 藤堂の問いに少女は顎に手をおいて、言葉を探すようにうーんと唸った。

「そりゃあ私は……その体から抜け出た《霊素素子》(アストラル)、まぁ幽霊みたいなもんやからなぁ」

 少女の言葉に藤堂は耳を疑った。目の前に確かに存在し、足だってあるその少女が自分を幽霊と名乗ったのだから当然のことである。

「幽霊って、冗談だろ? だって足だってあるしこうして……!」

 そう言って少女の手に触れようとした藤堂は気付いた。

 少女の手に触れることができないのだ。

まるで少女の姿だけがそこにあり、幻のように藤堂の手をすり抜けている。

「どっちか言いますと、生き霊と言った方がええんかな……こんなんでも」

 和服の少女は自虐のようにそう言うと、自身が幽霊であることを証明するかのように半透明に薄くなってすぐ後ろの岩の壁を藤堂に見せた。

「本当に、幽霊? あんた、そこの女の子……いったい何者なんだ?」

 藤堂の問いに、少女はもとの不透明に戻って意外そうに目を丸くした。

「怖くなったりせぇへんの? 人間はふつうお化けとかに恐怖を覚えるもんやと思うけど……」

「お化け信じてないからな、此処にいるけど。話も通じるし、美人だし、それほど不気味でもないな?」

 藤堂の言葉に少女はほんの少し顔を赤くした。

「……あ、いやそれが正直な感想だけど口説いてるわけじゃないからな?」

「……にゃう、そんな風に言われたんはここ千年で初めてやさかいちょお照れますえ~♪」

 ますます恥かしそうに身悶えする少女。

そして少女は一息おくと藤堂に向き直って腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。

「ふっふっふ、そんな君に何者かと問われれば名乗ることもやぶさかではありませんえ」

 そして片足を前に出して歌舞伎もののような大見得を切るポーズで少女は名乗りを上げた。

「私こそかの大江山に封じられた伝説の鬼、酒呑童子の(あざな)を持つ百鬼魍魎の元大本締め

――伊吹謡胡(いぶきようこ)や!」

 千年ぶりの名乗りを上げて、渾身のドヤ顔をうかべる少女――謡胡。

彼女の名乗りをよそに藤堂はいつの間にか振り返っておりもう一人の裸の謡胡をじっくり見ていた。

「控えめなんだなー体格とか、あぁ『童子』の元って子供みたいな顔とかその辺って意味だったっけ?」

「にゃあぁぁああっ!? そっちじろじろ見ぃひんでお願いやからぁ!」

 じっくりと岩の蕾の中を漂う謡胡を眺める藤堂の裾に、謡胡は半泣きの状態で藤堂の裾にしがみついて観察を辞めるように懇願した。

「はー、はーっ、あんた鬼畜やわぁ……もうお嫁にいかれへんよぉ」

 よよよと女の子座りをして嘆く謡胡に藤堂はしゃがんで訪ねる。

「それで? 何で俺を此処に呼ぶような事したんだ? 取って食うためか?」

「そんなこと出来へんよ色んな意味で! 今私は幽霊やし元から鬼言うても人間に近い種族やねんで、そもそも認識阻害の結界がかかっとる筈の此処が見つかるはずないと思うて冗談言ったんやから」

 くすん、と涙目で見上げる謡胡に藤堂は一瞬ドキッとする。

「でも、貴方が結界を破ってくれたさかい私は肉体の元に帰ってこれた……これで、ようやく元に戻れる」

 そう言って謡胡は振り向き、何処からか長い長い日本刀を抜いた。

「その刀……!」

 藤堂が夢で見たとおりの刀に驚いていると、いつの間にか藤堂が転がってきた階段の上に赤黒い球体が浮かんでいることに気が付いた。

「話の続きは後やな。此処は私の霊素が隅々までしみこんだ私の聖域や……せやから私もあれも君には見えるし、戦闘の余波も現実に影響してまう。せやから君はちょお隠れとって?」

「ちょっと待てよ、戦闘って……あれは何なんだよ」

 藤堂が問うと、赤黒い球体がバキッ! めきょっ、ぐちゃむぢゅ……と、硬質な無機物が砕ける音からみずみずしい有機物がつぶれる音へと徐々に音を変えながら形を変えていく。

 その様子を見ながら謡胡は悲しそうな顔で言った。

「あれは他の人から見た私や。他の人が知る私や。《霊素素子》の世界では自己のイメージと他者が自己へ持つイメージの二つが強い力を持ってまう……」

 謡胡がそう言うと赤黒い物体はすでに形を変え終えていた。

「引き剥がされて長く身体を幽閉された私は、私という存在を知る人間がいなくなって伝説だけのものになってから、私の肉体を奪おうとする『私へのイメージ』と戦い続けてきた……」

「鬼……?」

「そう、巨大で邪悪な鬼の王。この街の人々の持つ酒呑童子へのイメージが作った……所謂《悪霊》があれや」

 赤黒い鬼の巨体に、その胸に埋め込まれるようにして同じく赤黒い髪の謡胡のような女性の体がこちらを睨んでいやらしい笑みを浮かべた。

「うぇ、まだあのイメージあったんや……」

 謡胡が辟易した顔でその女性体を見る。藤堂も夢で見たその姿に顔を赤くするが……

昨日あった事、会話、そして揺胡の言葉……その情報が綺麗に合わさって、何故あのようなパーツが鬼についたのか原因がすぐにわかった。


『つまりだな、酒呑童子が百合でエロエロな女の子だったとしても問題はない、むしろ俺はそれを強く信じるね! 』


 そう言っていた父の言葉を思い出したのだ。

「しかしあのイメージ、君のやよね? あんな風に私んこと見てたん?」

「親父の仕業だあああああ!」



その一方で、父は編集担当と一緒にカフェで新作のギャルゲーの方針会議をしていた。

「というわけで、新作のヒロインは百合百合でエロエロなナイスバディーの鬼姫様って事にしようと思うんですがどうでしょうかね?」

「良いですねぇ良いですねぇ夢が広がります……しかし、いったいどう言うところからこんなアイデアが浮かぶんですか?」

「あぁ、昨日息子がね……」


 ◆


 ――急に赤黒い髪の謡胡の胸が膨らんだ。

「……な? さっきじっくり見た俺にあんな想像はとてもできないだろ?」

 藤堂は謡胡の控えめな胸をすでにじっくりと見ていた。

 しかし、その事実が必ずしも謡胡にとって良い情報とは限らない。むしろ謡胡は目尻に涙をためて顔を真っ赤にしていた。

「前言撤回! 後で頭から食べたりますえ!」

【がああああああああ!! ! 】

 白い謡胡の悲鳴に近い怒声を合図に、赤黒い謡胡の巨体が謡胡に襲いかかった。

どちらも霊的な存在だからか、藤堂は驚きこそしても物理的な圧力は感じなかった。

成る程確かに、藤堂にとってそれは限りなくリアルに近しい立体映像のようにも見えた。

「よっ!」

 謡胡は迫り来る巨体を難なくかわすと一閃、刀で深く腕を刺された巨体は爆発して霧散した。

「うおっ!?」

 実際に眼前で起きると、余波がないとはいえ迫り来る霧に藤堂は構えてしまう。

 謡胡にしてみればこんな攻撃は既に慣れきったものだった。

その動きをかわし、ただ攻撃性を持たせた霊素を含む武器を持てば触れれば赤黒い塊は謡胡に触れることもできないのだ。

「すげぇ……」

「まぁこれくらいできへんかったら千年近くも《擬死》なんてできませんえ♪」

 勝利を確信した白い謡胡が赤黒い巨体に刀を向ける……

「…………っっっ!?」

――ビクン! と白い謡胡の身体が跳ねる。まるで見えない場所から攻撃を受けたかのように、そのまま力なくその場に座り込んでしまった。

「ぁ……くっ!?」

 白い謡胡が岩の蕾を見る、そこには赤黒い巨体から分離した赤黒い謡胡が岩の蕾に腕を沈み込ませていた。

「そんな、あいつ結界の透過キーもっとったんか……ひぐっ!」

 藤堂にはわかり得ないことだっただろう、岩の蕾の周囲には謡胡には触れることのできない結界が張られていたのだ。

肉体を求める赤黒い謡胡はまるで餌への道に案内されたようなものである。

そんな赤黒い謡胡だけが岩の蕾に触れることができ、白い謡胡だけ触れられない。

それは謡胡を白い謡胡として外に出さないために蕾に仕掛けられた罠だったのだ。

「あぅ……やめ、ひ、あああああああ!!」

 赤黒い謡胡が岩の蕾にどんどん深く腕を差し込んでいくと、白い謡胡は苦悶の声を上げた。

身体を内側からまさぐられるような悪寒に白い謡胡の身体が跳ねる。

「……と、藤堂さん!」

 白い謡胡は悲鳴のように藤堂を呼ぶ。

「な、何だよ!」

 白い謡胡がただ事ではないことが目に見てわかっているために、藤堂も木刀をもってしどろもどろしているが、そもそも触ることができない《霊素素子》に木刀でどうこうできるはずがない。

「あれ……ぐぅ、あの擬死独房を壊し……てぇっ」

「っし、あの岩の蕾だな!」

 ガクガクと震えながら白い謡胡は掠れるような声で藤堂に懇願した。

藤堂はその願いを聞くと、岩の蕾を見て木刀を正眼に構える。

そして一呼吸おくと振りあげて渾身の気魄と共に振り下ろした。

「…………っめぇえん!」

爆発する様な叫び。

 そしてバギャ! と言う音と共に、岩の蕾ではなく藤堂の持つ木刀が砕け散った。

――しかし、その行為には確かに意味があった。

『擬死再生独房に物理的な破壊行為を確認。自我漂白シークエンスを中断、緊急に酒呑童子を解放します』

 ガコン! と、謡胡の身体を包む岩の蕾に亀裂が走った。

 そして間をおかずにその蕾を包む岩がそれにへばりついた赤黒い謡胡と共にはじけ飛んだ。

「ありがと……ぉ、藤堂さん……」

 そう言いきった白い謡胡は力つきたように地面に倒れると、光の球体となって稲妻のような早さで蕾へと吸い込まれていった。

 そして白い蕾は高速再生された本物の花弁のように華開いた。

 その中から再生を喜ぶように、一糸纏わぬ白い謡胡の肉体が両手を天に伸ばして目をゆっくりと開いていく。

「なゆたもの漂白、幾千の孤独を越えて、今こそ妾は約定を果たした……私は今ここに……」

 そう呟きながら両手を翻した謡胡の身体に、空気中から延びる色鮮やかな赤と金の糸が舞い飛んで和服の体を成していった。

「いざや聞け鬼共よ、いざや聞けがご共よ! 大蛇に連なる王の帰還に祝杯を挙げよ!」

 呟き終えた謡胡の声に従うように、空気が、地面を流れる液体が、洞窟の全体が叫ぶように大きく震えた。

[がああああああああああ! ]

 赤黒い霧が収束して、大鬼、人間の女、魑魅魍魎、怪物、様々なイメージがない交ぜになった出来損ないの粘土細工のような姿となって、謡胡の肉体に手を伸ばす。

踏みならす地にはひびが入り、藤堂は今度こそ鬼に物体と同じこの世界に干渉するほどの力がこもった事を知った。

 花の中からそれを見下ろした謡胡は手のひらをそれに向けた。

「千年間、暇つぶしに付き合ってくれてありがとぉな……おやすみ」

 そう囁いた謡胡の瞳は、千年ぶりの涙に塗れていた。

 そして、朱色の閃光が赤黒い怪物の全身を包み、その存在を構成する霊素にプログラミングされた《根本》を消滅させた。

 閃光は止まらず、この世界への存在を主張するように床や壁を破壊していった。

「うわっうわわっ!」

 たまらなかったのは藤堂である。

ぎりぎりで閃光をよけた藤堂は慌てて余波で崩れ落ちてきた天井をよけて花弁の下へと逃げ延びた。

「……あ、やってもうた」

「なんだなんだ! また説明もなしに変なこと起きたら俺の頭がパンクするぞ!」

 ひらりと赤い和服をはためかせて花から飛び降りた謡胡は藤堂の眼前に着地すると申し訳なさそうな笑みを彼に向けた。

 藤堂もその笑みに不吉なものを感じていやな顔になる。

「久しぶりやったさかい張り切ってやりすぎてもうた、祠が崩れる前に逃げへんとなぁ。タハハ」

 がらがらと連鎖的に崩れ落ちてくる天井に藤堂の顔は青くなっていく。

「タハハじゃねぇえええぇぇぇ!」

 崩れ落ちる祠を二人は全速力で走った。


走って、走って、二人は漸く祠の外に飛び出した。

すると追いついた破壊の余波で、石舞台古墳のような祠の入口はぐしゃりと大きな音を立てて潰れ辺りに砂埃を撒き散らした。

「げっほ、げほ!」

「こほっ、こほこほっ……ぅぁ~久しぶりに目に砂入ってもた……」

同時にむせかえりながらも何処か嬉しそうに言う揺胡を見て、藤堂はため息をついた。

そして砂埃が晴れると、揺胡は両手を翻して思い切り息を吸って、はいた。

「あぁ、空気が美味しい……身体ってほんまええもんやぁ」

 揺胡は、しみじみとするようにそう言いながら泣いていた。

 そんな揺胡を見て、藤堂は満足した気持ちと共に何か不快な気持を持っていた。

 それは怒りだった、彼女が過去に何をやったのか……それが伝説のようなものなのかも今の藤堂には知る由もないことだろう。

しかしどんな事をやったにしても、こんな普通の女の子の肉体を一二〇〇年にも渡って幽閉した揚句、その心にだけずっと戦い続ける運命と誰にも理解されない、認知されない孤独を強要したものが居る……

 そんな漠然とした確かな事実に、藤堂は怒りを隠しきれず拳を握っていた。

 揺胡もそれに気付いたのか、ふっと笑みを浮かべてその拳を両手で覆った。

「ええんよ、これは私の《約束》の結果やねん……でも、ありがとう」

「……そうか」

 揺胡の言葉に安心したのか、藤堂も拳を緩めた。

「まぁ普通の女の子が洞窟潰す程のビームぶっ放したりしないよな?」

「ごめんなさい」

 藤堂の言葉に揺胡はその場に土下座して謝罪した。

「……ぷっ」

「……くく、ふふふ」

 そんなやりとりに心がほぐれたのか、二人は吹き出し笑い始めた。

「「あっはっはっはっはっは」」

 そして一通り笑い終えると、一息ついて揺胡は尋ねた。

「名前……」

「ん?」

「名前、教えて貰うてええ? 鬼は義理深いんですえ、でも恩返ししようにも名前知らへんかったら返すあてもあらへんやん?」

 そういう揺胡の瞳は宝石のように丸く、相変わらず紫に輝いていた。

 恐らく本気で恩を返す気なのだろう。

「いいって、恩返しなんて……」

「ほな、裸見られた慰謝料の請求先……」

「教えないでいいですか?」

 藤堂はため息をつくと揺胡の手を引いて言った。

「藤堂……藤堂源次だ。」


 ◆


 警報の鳴り響く屋敷では、それと同時にある変化があった。

 奥の間の黒い空間に今度は違う赤文字が表示された。

『酒呑童子 緊急擬死再生を確認』

 今度は緑色の文字で違う文字が表示された。

『プログラム第四十二項に従い、領主を擬死再生します。月裏領領主かぐや、おはようございます』

 竹のようなパイプラインがまるで祝砲のように大量の蒸気を噴かしながら、稼働を始めた。

 そして奥の間の中央のある黒い立方体が音もなく消失した。なに頭の力が働いているのか、未だ宙にあり落下しない簾の奥には人一人が入る竹のような物体があり、その中に佇む一人の女性がふぁ……と口元を優雅に隠しながら欠伸する。そう、この竹もまた謡胡の閉じこめられていた岩の蕾と似て非なる機能を持っていた。

 もっともこの竹は同じ擬死再生装置としては高級で、純粋に使用者の時間を止めて快適な状態で眠り続けるためのものだ。謡胡の捕らえられていた牢獄とはそこがもっとも違うところだった。

 竹の中の女性は優雅な動作で十二単を引きずりながらその竹から降り立つと、まるで自動ドアのように簾の一面が持ち上がった。

 簾の中の女性は、黒い髪を後ろで結び一部をウサギの耳のようにまとめた少し奇抜な髪型を持ちながら、それでもなお美しい絶世の和風美人とも表現すべき容姿をしていた。

「王の目覚めぞ、誰ぞ迎えに出ぬか」

 その女性の言葉に従うように、屋敷中に張り巡らされた竹のラインが開き、その中から奇怪な物体が飛び出してくる。

 それはウサギを人型にしてデフォルメしたようなロボットだった。

『月裏領領主様、ご機嫌麗しく。只今当代言語領域のチェック及び更新をなさいます』

 ウサギがそういうと中空に浮いた立体のコンソールをその杵のような指で操作し、女性の十二単がわずかな輝きを帯びる。

 女性は少しばかり目を閉じると、一通り書類に目を通したかのようにふむ、と頷いた。

「ん……それで、私が擬死再生を解かれたということはあの鬼が復活したということかしら?」

 それまで古めかしい喋り方だった女性は、現代的な話し方でウサギに訪ねた。

『然り』

 ウサギの答えに女性は顔をしかめる。

 自分が擬死再生を解かれるのはよほどのことがあってからと設定しておいたはずだからだ。しかしそれにしては屋敷の中は静かすぎる。ウサギ以外にだれも迎えに出ないことも不自然すぎるのだ。なぜならずっと擬死再生で眠っていたとしても、あくまで彼女が屋敷やその周囲における最高権力者であることに違いはないはずなのだから。

「それでここまで静かなのはどういうこと? 大臣たちはなにをしているの? 地上の審神者は? 酒呑童子レベルの国津神の復活を朝廷がここまで黙っているなんて……」

 そして女性はいやな予感を感じ、額に汗を垂らしてウサギに訪ねた。

「ていうか、あなたたち以外にほかの皆は……?」

 ウサギは女性を見上げると、無感情な声でありながら少しばかり言いにくそうに一泊おいて答えた。

『月裏領住人及び天津神の歴々は皆、地球上西歴1600年地球上での事業中断に伴い高天原本星へと帰還しました。天部、EG等の対抗勢力もほとんど地上へ永住しています』

 ウサギの言葉に、女性の目が点になった。

「な、なんですってええええぇぇぇ!?」

 女性の絶叫が屋敷中に響く、それは屋敷の存在する灰色の星--月に響くほどの絶叫だった。


 ◆


「はっはっは、まさか伝説の酒呑童子を……いやさ美少女うちにかくまってくるとは、うちの息子もよくやるもんだっはっは」

 ビールを飲みつつご機嫌に笑う父。

大江山の鬼を拾った、藤堂のその言も普通は信じられない話だろうが、幸い藤堂家はそういったところには寛容な家庭だった。

 同じようにオレンジジュースをくぴくぴと飲んでいる謡胡も同じように父と談笑している。

「いやぁ~藤堂さんの提案には私も驚かされましたえぇ。まさか鬼を名乗る女の子相手に一緒に住まへんかって、プロポーズされるとは思いもしませんでしたえ~」

 やんやんと身をくねらせる謡胡に藤堂がつっこんだ。

「ぶっ……プロポーズじゃないっての、行き場所がなさそうだなって思っただけでだなぁ」

 謡胡はいたずらっぽく笑って藤堂に詰め寄る。

「にひひ、それでも感謝しとるんよぉ。封印解いてくれたんは藤堂さんやし……でも裸も見られてもうたし、いざとなったらぁ♪」

「源次あんた!」

 謡胡の言葉に母がキッと藤堂を睨んだ。

しかし藤堂は腕を組んで堂々とした態度でそれに答えた。


「据え膳食わねば男の恥だ!」


 その見事な自信ある答えに呆気にとられた謡胡の横で父が涙ぐむ。

「それでこそ……それでこそ藤堂家の男だっ源次!」

 父は藤堂を涙ながらに賛辞する、しかし母まではやはりそうはいかなかった。

「それでプロポーズじゃないってどういうこったああぁぁ!」

「ぶええぇぇ!?」

 母のラリアットで藤堂が1メートル近く吹き飛んだ。

 しかし派手に吹き飛んだ割には受け身がしっかりとれていたらしく藤堂は何事もなかったかのように起きあがった。

「さて、うちに住むからにはそっちの事も色々話して欲しいんだがいいかな?」

 そこで父は謡胡に向き直って訪ねる。

 謡胡は突然の過激なつっこみに唖然としていたがびくりと父の方へ向き直る。

 確かに藤堂家は変わっているというか、色々な意味でおおらかな家系なのだろう。しかし聞くべきところは聞いておかなければならないのは確かだと、そう言う事である。

 謡胡はこほんと咳払いをすると、机の上に手を置いた。

「話すと長くなりますえ、いまは昔のお話ですさかい」

 謡胡がそう言うとオレンジジュースのコップに指をつけて、机の上にさっと紋様を描く。

すると淡く輝いた食卓の上に霧のような何かが生じる。

そして霧は夜空に近い紺色に染まって行くと、立体映像のように丸い時終え天の地球が姿を現した。

それも大分昔、日本列島が大陸と繋がっていた頃の姿である。

「さて、これより語るは荒唐無稽な昔話にございます。」

 友人が聞いたら喜びそうだな……藤堂はそう思いながら彼女の話に耳を傾けた。

 

 ◆

 

むかぁしむかし……人間と言う生き物がこの地球上に現れたばかりの頃でした。

 宇宙では数々の文明が栄え、そして消えて行きました。

 それぞれの惑星ではそれに見合った量の資源があり、それが枯渇すると戦争が起こります。でもどれだけ奪えど資源は消える、そして資源と共に文明も消える。

 そこで幾つもある文明の一つである『彼ら』は探しました、決して消えない資源を。

 それは幽世という次元に存在する《霊子》と名付けられました。

 それは生き物……特に、人間をはじめとした知的生命体のような心を持った生き物……あるいはこの宇宙や惑星といった大きな生き物の記憶や知識といった情報によって観測される粒子であり、情報と物体の両方に干渉し得るエネルギーでした。

 その資源を使って、『彼ら』の文明は栄えました。

 物体を霊子化すれば、光速の限界にとらわれない宇宙船を作る事が出来ました。

 霊子を物質化すれば作れない物はありませんでした。

 霊子を情報に乗せれば、絶対の法を文明に敷く事もできるようになりました。

 霊子の観測によって、難しいけれど《根の国(死後のせかい)》とも交流が可能となりました。

 しかし……霊子にも枯渇と言うものはありました。

 たしかに霊子は生き物が居る限り無限に湧き出る資源でした、しかし『彼ら』と『彼ら』の下に生きる生き物達だけでは足りなくなってきてしまったのです。

 そこで『彼ら』は、新しく知的生命体になりえる者たちが生じた惑星――地球に、安定した霊子を供給できるように環境を整える為の生体機械を埋め込んだのです。

 その名を(はち)端子型(たんしがた)惑星(わくせい)霊子(れいし)環境(かんきょう)循環(じゅんかん)生体(せいたい)機構(きこう)――通称《地母神:八岐大蛇(やまたのおろち)》。

 

――ジオラマ状の原型日本の中心から少しずれた土地、出雲の土地に八つの頭を持つ奇妙な巨大な機械が降りて来て、地中深く埋まって行った。――


《八岐大蛇》は生き物の心臓のように、地球上各地に渡った人間達から生じる霊素を循環させました。

霊子同士の干渉によって人類は一定のプロトコルを持った一律の文明を築き上げました。それはこの地球にとって『彼ら』こそが神に近しい存在となったと言う事です。

『彼ら』は天上の神、《天津(あまつ)(かみ)》と名乗り地球の文明に本格干渉を始めようとしました。

ですがそれは神からの視線で未熟な人類の住む地球を植民地化すると言うこと……即ち侵略行為とも言うべき行為でした。


――ジオラマの原型日本が今の形になり、その上空に大小様々な形の宇宙船が降りて来ようとする……しかし宇宙船は制止し、日本の上に人影が何人か立ちあがる――


しかし、ここで《天津神》の計画に狂いが生じたのです。

八岐大蛇は何時しか自我を持ち、人間と干渉する事で『地球由来の彼ら』を生みだしていたのです。

地球に生まれ、《天津神》の支配を良しとしなかった『地球由来の彼ら』は、自らを(くに)に由来する神、《国津神(くにつかみ)》と名乗り、《天津神》に反旗を翻したのです。

《天津神》と《国津神》は人類の歴史の裏……神話の世界で幾度となく争いを続けて来ました。

しかし戦況は《天津神》が優位でいつしか人類にとっては《天津神》こそ神、《国津神》に連なるものは妖怪と呼ばれるようになりました。

しかしそれまでバラバラで、それぞれが自分の領域を守護してきた《国津神》にリーダーが現れました。九尾の妖狐、大天狗、そして酒呑童子です。

それからは色々ありまして――酒呑童子は封印されましたが、九尾の妖狐と大天狗の奮闘によって《天津神》の勢力は地球から一定量の霊子資源を回収する事を条件に《国津神》と和解して、地球人類の文明との不可侵協定を結んだのでした……それが1600年ごろの話。



そのまま空へ引き返して行く宇宙船の映像で、ジオラマの映像は消え元の食卓に戻った。

そして机の上にオレンジジュースで描かれた紋様が役目を終えたようにジュッと蒸発した。

藤堂家の人々は呆然としながら、目の前の証拠とも言うべき映像に何も言う事が出来なかった。

やがて口を開いたのは、藤堂家の父である平治だった。

「……ふむ、つまり揺胡ちゃんは宇宙人の末裔って事か……宇宙人系鬼娘、良いかもしれない」

「そこ!? 突っ込むべき所色々あるだろ! 日本神話の神様が宇宙人で、妖怪が地球を守ってて、途中説明が適当だったり結局コイツは何で封印されてたのかとか色々気になるだろ! というかその属性どっかで訊いた事がある……!」

 藤堂が父の反応に怒涛の突っ込みを浴びせるが、途中で父の手に制止される。

「じゃあ訊くがな源次、お前が助けたこの子は揺胡ちゃんか? それとも、大江山の鬼か?」

 父の真剣な声色の問いに藤堂は言葉を詰まらせて、ふと揺胡を見る。

 揺胡も藤堂に目を合わせるが、気まずそうに目を逸らした。

 そして藤堂は察した、踏み入るべき領域ではないと言う事を。

「……わかったよ、詳しくは触れない。訊いた所でもう地球は平和なんだろ?」

「仲間からその時聞いた限りでは……なぁ? その仲間も、今はどうなったかは解らへんし……」

「でも暮らす所がなければ大変なのは人間も宇宙人も変わらんだろう?」

 自信の無さげな答えも笑って受け入れる父、彼だけでなく藤堂も母も揺胡に親愛の情を持って頷いた。

「ありがとぉございます……」

 藤堂は揺胡の頭にポンと手を置く。

「誰にだって、触れられたくない事の一つや二つあるもんだしな……」

「そうだそうだ、デリカシーの無い息子め」

 藤堂はお前が言うなと、父の頭に渾身の手刀を放つのだった。



かくして藤堂家に、鬼の居候が居座る事となった。

 揺胡は時々父のパソコンを借りる事があったが、特に問題事を起こす事も無く藤堂家の家事手伝いをこなしていた。

 そしてそれから数日としないうちに、藤堂は夏休みの終わりが近づくと共に東京へと帰ることとなった。

「ほな、長旅しっかりなぁ」

「また暫く寂しくなるねぇ」

「また冬休みに帰って来るって」

 一時の別れを惜しむ母に、藤堂は呆れたように返す。

 父も揺胡もそうだ、寂しいという気持ちは変わらないようだった。

「まぁしっかりやれよ、愚息」

「言わずもがなだよ馬鹿親父」

 父に対してはもはや罵倒しあっているが、これもまたこの親子なりのコミュニケーションであると言う事は、新入りの揺胡も良く解っていた。

 藤堂も揺胡を置いていく事は不安だったが、父も任せておけと自信のある笑顔で言っていたので、任せる事にしていた。

 揺胡が髪飾りの花弁の一本を引き抜くと、藤堂の胸ポケットに入れた。

「おまもりや、念のためなぁ?」

「お、おぉ。そう言う所はちゃんと昔の人なのな」

 気恥ずかしくなった藤堂は顔を赤らめながら頬を掻く。

 そうこうしている内に発車を知らすベルが鳴った。

「それじゃあ、またな」

藤堂がそう言って鞄を引くと、間に線を引くように新幹線の戸が閉まった。

そしてゆっくりと発進していく新幹線。

見送る家族の視線を受けながら、藤堂は予約をとった自分の席に座るのだった。

そうして、胸ポケットに入った花弁を取り出してみる。

正直にいえば、今でも目の前にあの娘がいなければ信じる事は出来なかったであろう夏休みの不思議な出来事は、これで一旦幕を下ろすのだと……

これからは日常の世界なのだと、ある種の安心感を持っていたのかもしれない。

しかし藤堂はその認識を、それから一週間もしないうちに改めることとなる。

この夏休みの怪異が始まりにすぎないと言う事を、藤堂は未だ知らなかったのだ。



一方で、十二単の女性の白い拳が屋敷の広い机を強く叩いた。

元々力の強くは無い華奢な拳なのだろう、しかし屋敷そのものが静寂の中にある為かその音は屋敷中に小さく響いた。

音に反応したウサギたちがプログラムに従って彼女の前に出ては

『大事ありませんか?』

 と声を投げかけて来る。

「大事ありませんっ……!」

 女性は苛立つ感情を隠すことなく答える。

 機械仕掛けとは言え高性能なウサギたちは、主の不機嫌を察したのかそれ以上何も聞かずに己の仕事をこなしに帰って行った。

 女性が見ているのは、机の上に立体映像として浮かんだ各種政治資料と一つの画像だった。

 資料には月裏領と呼ばれる屋敷の所有権を示す証明書、事業撤廃を示す契約書、《国津神》の同盟と結ばれた不可侵協定の各種資料に、注意事項と……自覚的にはその契約を結ぶ前の時代に居た女性の耳に痛いものばかりだった。

 そして、なにより女性を苛立たせるのは画像の方である。

 そこには、藤堂家で家事手伝いをしながら楽しそうに笑う揺胡の姿があった。

「私がこうなっている間に……あの女、良くも抜け抜けと……ッ!」

 歯ぎしりをしながら、女性は悔しさも隠そうとはしなかった。

 一人だけなのだから。

 しかし画像の中の揺胡は、現地人の家庭に囲まれて楽しそうにしていた。

 まるで対照的な二人の在り様が、女性の怒りをますます燃えあがらせた。

 しかし――フッ、と女性は平常時の冷静な様子に戻り、手元のスイッチを押して兎を一体呼び寄せた。

『何用でございましょうか?』

 女性は、怒りを微塵も感じさせないような――だからこそ、恐ろしい程に内側から燃え上がる怒りを感じさせる声でウサギに言った。

「降ります」

『……今一度申して下さい』

 ウサギは一瞬だけ理解が遅れて女性へ訊き返した。

「降ります! 不可侵協定!? はっ、あの惑星の猿共に気付けない方法で平定しろという事でしょう!?」

『領主様問題発言です、それにお言葉ながら不可侵協定は……』

 ウサギが不可侵協定の詳しい内容を言いだす前に、女性は我を通すように叫んだ。

「もう一度言います、降りる準備を今すぐしなさい! コード壱六-参七九壱、最優先事項です!」

『是、是、是、畏まりました。』

 女性が言い放ったのはウサギ達に対して強制的に命令を実行させるための最優先命令だった。

その為ウサギは幾つかプログラムが算出した不可侵協定との違反行為に強制的に賛成とされられ、言われるがままに女性が外に出る支度を始める為に走って行った。

その間にも思い返すようにエラーが出ているのだろう。

『是、是、是……』

 と、時折呟きながら走って行った。

 女性は立ちあがると十二単の胸元に指を這わせる。

 すると再び十二単が薄く光り、見る見るうちに女性が若返っていく。

『年齢設定を十七歳前後に再設定完了しました』

 藤堂と同じくらいの年齢になった女性は、髪を掻きわけて十二単の裳を解いてはかま姿で抜け出した。

「あの脱獄犯……絶対に許してやるものですか……!」

 女性……否、今は少女がバンと乱暴に襖を開ける。

 外一面に広がるのは灰色の荒野、そして点々と存在する同様の屋敷がそこに文明が存在した事を辛うじて知らしめる。

 しかしそれ以上に、余りにも暗い闇が空と大地を包んでいた。

 その屋敷は、地球からは見る事の出来ない場所――月の裏側に存在し結界によって視覚的に隠されたドーム都市に築かれていた。

「この月裏領領主、今は地球唯一の《天津神》――月詠(つくよみ)()()()が退治してくれますわ」


次章.伊吹(いぶき)揺胡(ようこ) (まな)()(きた)

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