問答と開幕
「問います、謡胡」
「応えよう、頼光……約束は違えぬ」
この世のすべての歴史は、教科書通りとは限らない。
人は当時の人間でもない限り自らの生まれる前、あるいは古代の人間が何を思い、何を日常として、何のために生きてきたのか……思いを馳せることはできてもそれを本質的に知ることはできない。
「貴方は何故、鬼となった?」
「約束を違えぬが為に、妾の誉れ故に」
知ることは即ち、そこに足を踏み入れることであり垣根を越えることだ。
未知の領域に足を踏み入れることにあなたは果たして好奇心と恐怖、どちらの感情を覚えるだろうか?
「貴方は何故、迷わなかった?」
「約束を違えぬが為に、たとえこの魂も漂白されども」
行きは良くとも帰りは怖い、しかし怖いながらもまかり通る意志があるのならこの道を進んでもかまわないと。
「なれば何故……」
長い孤独の中で死を迎えた一人の少女と
「此処までにしてくれ頼光、約束は違えたくない」
長い憎しみに焦がされ続けた一人の少女と
「……っ、まつろわぬ朝敵を、此処に討ち取る」
そして――
偶然か必然か二人のがごの巻き起こす怪異に巻き込まれてしまった一人の不幸な青年。
これは彼らが真実を求める奇々怪々な物語。
異聞酒呑童子絵巻 伊吹謡胡の百奇夜行
畏れながらも開幕でございます。