三節目
「おはよう桜井君。桜井君携帯の使い方はわかってるよね。いやわかってるはず、前はしっかり出れてたから。なのになんで昨日は出なかったの」
桜井というのは俺の名字だ。
「朝っぱらからうるさいな、一体お前が俺の何だっていうんだよ。家族でもなければ恋人でもない、血すらつながってない。なのになんでお前とそんなに密に連絡を取り合わなきゃいけないんだよ。もうずっと電話してきてる。一体お前は俺の何なんだ、答えてみろ」
「舎弟」
「そうだ。だったら兄貴分を振り回すのはやめろ、兄貴は一人になりたいんだ」
俺は空手、柔道の有段者でボクシングもかじっている。
クラスでパシリに使われていた石井は俺という存在何かを感じたらしい。ある日石井は唐突に俺弟子入りを申し込んで来た、俺はもちろんことはった、しかしそれで奴のなにかに火が付いてしまったみたいで、その後何十回も頼み込まれた。俺も意地になって断り続けた。しかしある日、俺の携帯に一本の電話がかかってきた。
「もしもし桜井君。僕です、石井です、前々から言ってるんだけど、弟子入りさせてください。お願いします」
そのときのことはよく覚えている、ものすごくドキドキした。なんでコイツは俺の番号を知っているのだろう。俺は不甲斐なくもそのとき恐怖を胸のどこか隅のほうで抱いた。
このままいったら俺のプライバシーすべてをコイツに調べられる。そう思った俺は仕方なく承諾した。
「しかしな石井、弟子はなんとなくナンセンスだ」
「えっ、じゃあ何にすれば」
「お前は今から俺の舎弟だ」
というわけで石井は俺の舎弟になった。
帰り道、他校の生徒に喧嘩を売られた。売られた喧嘩は買う主義なので、俺は例外なくここでも喧嘩を買った。
「お前が西高の桜井か」
西高は俺の通う高校、コイツらは多分南高だと思う、制服からして。
「そうだけど、なにか」
「この前うちの奴らが世話になったみたいで、お礼がしたくてうずうずしてたんだよ」
そんな覚えはない。だがら記憶が飛んでしまうのがいやなんだ。
「石井、少し離れてろ。流れ弾くるかも知れないぞ」
俺は十メートルくらい後ろを着いてきていた石井に言った。
敵は合計四人。まず一人が俺の顔面にフック気味のパンチを繰り出してきた。俺は素早くしゃがみ、そいつの足を足で払った。見事に一回転して地面を頭を打ち付けて気を失った。
二人目はストレートを出してきた。俺はクロスカウンターで応戦した。俺の拳がそいつのこめかみにジャストミートしたとたん、泡を吹いて地面に倒れ込んだ。
もう一人は逃げ出した。賢明な判断だ。
そして最後にリーダー格の奴。だけどどうみてもリーダーには見えない、弱そう。
小動物の雄叫びのような声をあげてそいつは走りかかってきた。表情からは恐怖は感じられる。ご愁傷さま。
俺はがら空きの顔面に右ストレートを打ち込んだ。鈍い音とともにそいつは手で鼻をおさえてしゃがみこんだ。手からは血が漏れている。俺の拳にも奴の鼻血が。奴は血をみると、白目を剥いてその場で気を失った。血の付いた拳をそいつの服で拭き取ると、俺はまた何ごともなかったかのように歩き出した。




