真っ黒な世界にだって春は来る
大通りを少しそれた路地裏から、肉と肉がぶつかる音と悲鳴と笑い声が漏れてきている。
「勘弁してくれ、もうやめてくれ」
「ハッハッハ、くたばれ、くたばりやがれ」
足音と息を激しく吸ったり吐いたりする音が、遠くからだんだんこちらに近付いて来る。
「おまわりさん、こっちです。はやくっ」
「はいっ」
「ちっ警察かっ、邪魔しやがって」
「あれっ、たしかにいたはずなのに」
「何もないですね」
「すみません、お騒がせさせてしまって、勘違いだっちみたいです。すみません」
「いいんですよ、事件がないにこしたことはないんですから」
警察なんかちょろいもんだ。んっ、この発作は、今日はここまでか。
「あっあああああ、うぅうっ、うわぁーーー」
なんだかまたなんかやってしまったみたいだ。服がえらく汚れてしまった。腕にはなにか鋭いものが刺さった傷があり、そこからはまだ血が滲んでいる。ガラスの破片かな、ビール瓶かも。
腕にまかれた時計をみると、短針は十一をさしていた。母さんに帰ると約束した時間からもう二時間もたっている。母さんがいる日に約束までして家を出たのが間違いだったな。母さんになんて言い訳しよう。
こっそりとドアを押し家にあがった。靴を静かに脱ぎ、足音をたてないように廊下を歩き始めた。いろいろ言い訳を考えた結構、気付かれないようにするという結論にいたった。案の定母さんはもう寝ていた、テーブルに手紙をおいて。
「ご飯は冷蔵庫に入ってるから」
家族とは思えないほどの短さ、家族だからかな。俺は冷蔵庫をあけると、中にはコンビニ弁当が入っていた。驚きはしない、日常だ。弁当を取り出すと、弁当を空けサラダだけ取りだし、レンジにいれた。シャキシャキのキャベツの千切りまで温められてしなしなになられてはたまらない。




