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ツッコミはある日突然に  作者: ついしょ
第一章 ツッコミはある日突然に
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第6話 初デート! ~そして物語は動き出す~

 その遊園地は昔大企業の工場が建っていた土地を買い取って作ったらしい。『らしい』というのも聞いた話しだからだ。僕はその時まだ生まれていないからね。

 その企業は高度経済成長で急速に力を延ばしたがバブル崩壊の不景気に耐えられなかったとのこと。大企業の工場だったと言うこともありその土地は広大だ。

 一言で言うと広い。とても広いのだ。

 おそらく、いや、絶対に一日では遊びきれない。それは遊園地側も分かっているらしく、宿泊施設も充実している。


 電車を降りこれまた広いエントランスゲートへ向かう。本来ならば入場券を買うのだが、

「あれ 空君、チケットかわないと」

 そう。実は僕、チケットは前日にコンビニで買っておいた!

 もちろんおごりだ、男ならこの程度はしておかなければならないとアニメで見た気がする。

「いや、悠さん。チケットはもうあるんだ」

 首をかしげる悠さん、

「なんで?」

「いや、何と言うか。買ってあったと言うか……」

「ええ!? やるなぁ空君。で、いくらだった?」

 財布を構える悠さん、払う気は漫々なのだろうが、僕もおごる気満々だ。

「いや、いいんだ。気にしないで」

 なんて言えば格好がつくか分からないので、とりあえず意思表示。

 その後どうしても払いたいと悠さんが引かないため、昼食代を悠さんが払うということで落ち着いた。

 駅の改札のようなゲートを通り抜けて入場する、そこには別世界が広がっていた。

 中世ヨーロッパの街を再現したと思われるレンガ作りの建物、その中にはお土産が売っているようだ。

 また様々な動物を摸したかわいらしいキャラクターの着ぐるみが風船を配っている。

 中の人たいへんそうだなー、とか思ってしまうあたりが可愛いげのない僕だ。


「わー広いね♪ 何から乗ろうか?」

 悠さんが僕の少し前に来て聞いてきた。

そこで首のあたりにひらひらと紙がついている事に気が付く

「あ、悠さんこれ何?」とその紙をつかむ。

 タグだった。そこには僕には考えられないような値段が表記されていた。女物の服が高いとは知ってい た、しかしこれほどまでとは……。

「えっ! 嘘っ、そんな!」

 悠さんは急いで服を脱ぎカバンから取り出したハサミでタグを切った。

 女の子の鞄にはハサミが入っているのか。

「新しい服だったんだ」

 僕が尋ねる

「うー、このボクがタグを取り忘れるとは。一生の不覚」

 大袈裟だなぁ。

「昨日、学校からの帰りさ私、途中で電車降りたじゃない? 実は服を買いに行ってたんだ」

 うなだれる悠さん

「あー、なるほど。服選びを僕に見せたくなかったって感じ?」

「うん、今日着てくる服が分かっちゃってるってのはやだからね」

「可愛いよ。すごく似合ってる」

 僕は恥ずかしいのを堪えて言ってみた。あれ? そこまで恥ずかしくない! あれ!?

「えっ、あっ! えっ!? 可愛い!? そそそ、そんなことはわかってるよ! ボクは可愛いんだよ! それよりさ、ほら! 手を繋いでくだしぇい!」

 噛んだみたいだ。超照れながら噛んだようだ。悠さんは自分から風呂に入ってくるくせに他人からのほめ言葉に弱いようだ。ホント可愛い、このままいくと僕、オタクから抜け出しちゃうよ……。だってアニメのキャラよりも可愛いんだもん。

 オタ歴四年でまだまだ日は浅いが、四年間に見てきたアニメ、読んできたラノベやマンガ。そのどれにもこんな可愛い女の子は出てこなかった。

 今なら言える。悠さんは俺の嫁!

 あー、自分でも思うよこのリア充っぷり。爆発するね、絶対そのうち核爆発規模の爆発起こすね! みんなに迷惑がかからないように太平洋のど真ん中にでも行こうかな?

 悠さんの手を握る。その手はとても白く柔らかくすべすべしていてシルクのような肌触り。どっかのCMみたいだが、本当に。

 歩いているとコーヒーカップが空いていたので乗る事にした。

『本当に回るコーヒーカップ』と看板に書かれている。回らないコーヒーカップなんてないだろうが、嘘も本当もありゃしない。

「わー、久しぶりだなー、コーヒーカップなんて十七年ぶりだよ」

「悠さん今何歳?」

「女の子に歳を聞くの? 十七歳だけど♪」

 若い女の子に歳を聞いてはいけない意味がわからない。

「悠さんそれ初めてって言うんじゃないの? 久しぶりじゃないし」

「そうとも言います! いや、そうとしか言わない!」

「僕の突っ込みを奪わないで!」

 ブザーが鳴りカップが回り始める。

 初めてということなので僕は回さないで悠さんに主導権をゆだねる。

 すると悠さんはものすごい勢いで中央にある円盤を回し始めた。

「ちょ! おうぇ、待うぇっ、回し過ぎょうぇ」

「あはははははははははははは♪」

 狂ったように回す悠さん。ぐるぐるとそりゃもうぐるぐると!

 胸の奥からこみ上げてくるこの熱いものは何だろう? 恋ではない、その場合込み上げてくるのは熱い想いだ。

 そこで気づいた。『本当に回るコーヒーカップ』の『本当に回る』の部分の意味に。

 普通の遊園地の場合あんまり回し過ぎると途中ロックがかかり回転速度が少し落ちる仕組みになっている。だがここは違うようだ、回せば回すだけ回る、本当に回るのだ。

 僕が限界に達する。まずい! 初めてのデートで吐くわけには!

 だが悠さんの手はとどまるところを知らない。もうぐるんぐるんと回す。

「ダメだ! 吐いちゃだめだ!」と天使が僕に言う。 悪魔は「吐いちまえよ、吐けば楽になるぜ?」と言う、続けて悪魔「カツ丼食うかい?」。刑事ドラマか!

 どのくらいの時間がたったかは分からない、僕にとっては数時間、実際は三分も回っていなかったのだろう。三年分は回った気がするけど。

 僕は耐えた、カツ丼の誘惑、いや違った。悪魔の誘惑に打ち勝ったのだ!

 カップから降りるとふらふらになりながらトイレへ駆け込んだ。そのあとは想像にお任せする。

外で待っていた悠さん。にこにこしている。

「いやぁ、楽しかったね♪ でもこんなに回ると気持ち悪くなっちゃうね」

 ちっとも気持ち悪そうじゃない悠さんだ。

「もう一回乗ろうよ、人並んでないよ?」

 当り前だ、こんなコーヒーカップに乗るのは初めて来た人だけだろう。僕はもう乗らないと誓った。誓ったのだが。

「すっごい楽しかったよね♪ だからボクもう一回乗りたいな♪」

 デレ期到来の予感、もともとデレてはいたが超デレに昇格か?

 僕も男だ、女の子が乗りたいと言ったら乗る。例えこの身が朽ち果てようとも、願いがかなうならば本望だ。

 というわけで、テイクツー。行っとく?

 ブザーが鳴ってからその後の五分間、僕の記憶はない。気づくとそこには悠さんがいて、笑っていてくれた。それが僕の五分間の記憶と引き換えに手に入れられたものなら安いものだ。

「じゃあ次はジェットコースター乗ろうよ!」

 コーヒーカップで体力を使い果たした僕だがジェットコースターなら大丈夫だ。

「よーし! テンション上げて行くぞ!」

 僕は吐き気をテンションでごまかす。

「おー!」

 悠さんもそれに続く。

 さすがにジェットコースターには列ができていた。係員の持っている看板には二十分待ちと表示されている。日曜日にしては空いている方なんじゃないかな? 最後尾に並ぶると悠さんが思い出したように言った。

「そういえばさ昨日、その……部屋に美佳ちゃん連れて服脱ごうとしてたけど何してたの?」

 そういえば僕の不注意で、あくまで僕の不注意で、着替えをみられそうになってしまったのだった。美佳に服を見てもらうのが目的だったんだけど……。

「ええと、その……」

「なるほど! 妹との禁断の愛か♪」

 周りの人が一斉にこちらを向いた。なんてこと大声で言い出すんだ、わざとやってんだろ。僕はまだ何も言っていない!

「違うから! 自分の妹とそういう関係になるのはアニメや漫画の中だけだから!」

「じゃあなにやってたのさ」

 これはあれだろうか? ジェラシーってやつかな?

 妹とまずい関係だと思われるのはごめんなので本当のことを話す。僕だって隠していたかったんだけど。

「実は僕も家帰ってから服を買いに行ってさ、その服を美佳に見てもらってたんだ」

「あーなるほど、ボクと同じってわけですか! いやぁ良かったよ、もし空君が妹に手を出していた場合、ボクはどういうリアクションをとればいいのか分からなかったからね♪」

 僕だってどういうリアクションを取ればいいかわからないし。

「そうか! 美佳ちゃんがお嫁さんになって、ボクが妹になれば……」

「いや、もういい。この話は終わり」

 不服そうな悠さんだが頷く。あれ、まてよ。悠さんが妹? 何と言うシチュエーション、それはそれでいいかも……。

「そうだ、空君。服すごい似合ってるよ、かっこいい♪」

 さっきの仕返しだと言わんばかりに、あまりのまぶしさに失明するんじゃないかと思われるような笑顔を浮かべ僕に言った。

「そ、そう。ありがとう」

 照れずにはいられない。

 そこで僕達に順番が回ってくる。悠さんが先に座り僕も乗り込んだ。

 レバーが腰の位置まで下がり係員が「行ってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれる。

 悠さんは「行ってきまーす♪」とノリノリだ。乗り物が発信すると悠さんが話しかけてくる。

「ドキドキするよねー、ほら、ジェットコースターなんて久しぶりだし、それに大好きな空君が隣だしね♪」

「おぼふぇふわぇるみょ!」

 自分でもなんて言ったかわからないことを口に出した、もう一度同じことを言ってくれと言われても無理だな。悠さんはさっきのことまだ根に持っているんだろうか、今のは破壊力が大きすぎる。

 このジェットコースターは『ナイトロッククライマー』という名前で、夜に絶壁を上っていることを思わせる作りになっていて、出発して数十秒で落ちる。しかもほぼ垂直に。パンフレットには七十五度と書いてあったが大丈夫なのだろうか。

 その後は洞窟を探検する感じで最後にもう一度八十度の垂直落下が待ち受けている。

「さぁ空君もうすぐ落ちるよぉ!」

「そうだねぇってうぉおお! 高い高い!」

 思った以上に高かった、落下距離が長かった。血が脳へ持っていかれ、頭が痛くなる。悠さんは僕の右手を掴み上へ持ち上げられ、僕は左手で手すりを全力で掴む。

「うわぁああああああああーーーーーーーー!」

「きゃっほぉーーーーーーい! わふぅーーーーーーー」

 危ない危ない、意識を持っていかれるところだった。悠さんはと言うと。

「いやぁーホントすっきりするねー♪ 景色もきれいだったし」

 景色なんて見ている暇は僕にはなかったよ。女の子はこういう絶叫マシーンに強いようだ。

 それからは右へ左へ揺られ、揺られ。隣に座っている可愛い女の子は僕に体をくっつけてくる、果たしてこれがわざとなのかそうでないのかは分からないが、控えめな胸が僕の二の腕に当たるのだ。もうぷにぷにと。

「やっほぉーーーい! きっもちいー!」

 これは僕の歓喜である、恐怖一割、快楽九割って感じだ。

 そして最後の垂直落下へ、僕は大変惜しいことをした。もっとその感触を味わっていたかった。またも僕の記憶に欠落が生まれたのだ、本日二度目。

 最後の落下時僕は胸の感触に気を取られていて、悠さんが腕を上げた瞬間、あごに衝撃が走った。そこからの記憶はなく、次に目を覚ましたのはジェットコースターを降りる寸前だった。

「起きて起きて! もう降りないとだよ!」

 もう朝かー、美少女が僕を起こしてくれる。ここは二次元なのかなー。なんて思っていると。

「えいっ」

 一発頬にビンタを食らった。

「いって! 何! 何? 僕を起こしてくれた美少女は!?」

 きょろきょろしていると、その美少女は隣にいた。

「ああぅ、ごめん、でも、もう降りないと!」

 何とか降り場に着く前に気がついた僕。

「なんでジェットコースターで寝られるの?」

「お前が殴ったんだろぉがぁー!」

 僕も他のこと(主に胸)に夢中で気を抜いていたこともあったが、とどめはアッパーだ。ちょっときつめに突っ込んだっていいじゃない。

「おぉう、そうだったっけ? 済まない、済まない。じゃあお詫びに……」

 この展開、あれ? 一度経験したことがあるような。

「チュロスを買ってあげよう! ボクも食べたいしねー」

 チュロスとは棒状のドーナツみたいなものだ。味も色々で、この遊園地には、シナモン、キャラメル、ハニーの他に、抹茶なんて味もある。

 せっかくなのでお言葉に甘えることにする。実は結構ピンチなのだ、二人分の入園料に、洋服まで買っているので僕のお財布はかなり寂しい。リア充生活にはお金がかかることが分かったよ、オタク生活にもそれなりにかかるけど。

 そのあと僕たちが乗ったのははフリーフォール→メリーゴーランド→別のジェットコースター→コーヒーカップ(三度目)。

 三度目のコーヒーカップ。さすがの僕も悪魔の誘惑に負けた。美化して言うが、コマの端から水が噴き出している感じになった。僕も言いたくはなかったんだ、僕の口から液体化されたチュロスが噴出しても、それでも悠さんは手を止めなかったんだよ、僕もびっくりだ。もう乗らないって決めた。いくら可愛い女の子、いや悠さんが乗りたいと言っても、もう乗らない、泣いたって乗ってやらない。一人で乗ってください。

 係りの人に全力で謝り、あちらはにこりと許してくれたが、その笑顔は引きつっていた気がした。おそらく気のせいではないのだろう。

 僕の胃の中がすっきりしたところで、お昼の時間になった。

「さてと、そろそろお昼にしようか」

「もう乗らない、コーヒーカップなんてもういやだ、もう乗らないもう乗らない……」

「うう、悪かったよ、ほらさ、吐いてすっきりしたところでお昼に!」

「それフォローになってるのかな? でもまぁ確かにお腹減ったし、何食べる?」

「んーと、空君は何食べたい? ボクのおごりだから何でも言ってよ♪」

 遊園地に来て女の子に昼飯をおごってもらう男って……。

 でもこればかりは仕方がない、今回ばかりはともいうが、僕がチケット代を払う代わりに悠さんが昼代を払う。もちろん最初は僕が昼も払うつもりではいたのだが、悠さんがどうしても払いたいと言うためにこうなった。

「何でもいいよ、吐かなければ……」

 そこで悠さんが「あそこは?」と指をさした。言い終わって何かに気づいたように「あ」っと声を発した。僕は指で指された店を見る。

その店は看板の形がコーヒーカップだった。これは嫌がらせだろうかと思ったが、悠さんはそんな性格ではないのでそれはないだろう。

「う、ごめん。たまたま看板がコーヒーのカップだったってだけで……」

「大丈夫、大丈夫、気にしないで。ここにする?」

 悠さんはにこっと笑い頷いた。

 中は普通のレストランで四角いテーブルが等間隔で並べられていて、床に敷かれたマットが高級感を醸し出している。店員さんの制服も執事服だ。かっこいい。

席に案内され、メニューを見ていると、

「さぁ空君、何が食べたい? 頑張って作っちゃうよ!」

 何を言っているか、僕にはわからない。作っちゃうのは厨房にいるコックさんではないのだろうか、ここはセルフなレストランには見えないが。

「作るって何を?」

「食事だよ? ボク達のお昼ご飯♪」

「悠さんは作らないでしょ? わざと言ってるんだよね? ああ、ごめん。突っ込み待ちだったのか!」

 きょとんとしている悠さん。僕にも何が何だかさっぱりだ。

「え、『レストラン』って、食材と厨房を提供してくれるお店じゃないの?」

「悠さんはどこの国で生まれたの?」

「サン、いや。日本だけど?」

 サン? 『日』を英語で言ってしまったのだろうか? 

「レストランに来たのはどのくらいぶりなの?」

「えーとね、十七年と三カ月ぶりくらい」

「それを初めてって言うんだろぉがぁ!」

 外国人顔負けだ。外国にもレストランはある、他の星からやってきたのだろうか?

「レストランってのは、食べたいものを注文すると、それを作って持ってきてくれるの。僕たちは食べて、お金を払うだけ」

「めっちゃ便利やん♪」

「なんで大阪弁?」

「あはは♪」

 突っ込んでいると胸はいっぱいになるが、お腹は膨れないので注文することにする。僕はハンバーグを、悠さんはスパゲティーを頼むと五分程度で料理が運ばれてきた。

「ボク、自分以外の人が作ったスパゲティーを食べるの初めてなんだ♪」

「多分、悠さんが作った方が美味しいと思うよ……」

 お世辞とかではなく本当にそう思う。悠さんが作ったスパゲティーを食べるともう他のそれがそれでなくなってしまう。

「いただきまーす♪」

「いただきます」

 悠さんがスパゲティーを口へ運ぶと動きが止まった。

「ねぇ、空君。これホントにスパゲティー?」

「やっぱりそう思うよね、絶対に悠さんが作った方が美味しいもん」

「違うよ、スパゲティーってこんなに美味しいものなの?」

 悠さんの手が小刻みに震えている「空君も食べてみなよ」と言ってフォークにパスタを巻く悠さん。

 こ、これって間接、キスってやつなのでは……。

 悠さんが僕の口へスパゲティーを運ぶ

「あーんして♪」

「おげふぉびゅば!」

 リア充爆発しろ! 僕爆発しろ!爆ぜろ! 粉々になれ僕!

 そうは思いつつも食べる、初めてのキスはトマトソースの味だった……違うか。

 スパゲティーの味は普通よりは美味しかった(悠さん補正を含む)、美味しかったのだが、悠さんの作ったスパゲティーに勝てるはずがない程度だった、なんせ悠さんの作ったものはリミットブレイクしているからな。

「あの、美味しいんだけど。絶対悠さんが作った方が美味しいって」

「空君、ボクが作ったのを美味しいって言ってくれるのはうれしいんだけどさ……、ボクはこんなに美味しいスパゲティーは作れないよ」

 どうやら味覚が違うようだ、悠さんの作ったスパゲティーはまるで別世界の食べ物かのようで、地球で表現できるおいしさを越えていたのに、こんな遊園地のレストランのスパゲティーがそれを上回ることはまず不可能だ。

 それからの悠さんは黙々と食べ続け、「おかわり♪」と言って同じスパゲティーを注文し、2杯目も完食したのだった。


 食後のコーヒーを飲み一息つくと悠さんは満足そうに言った

「いやぁ~、幸せだね~♪」

「ホントだよね、あんまりいいことが続くとそのうち悪い事が起きそうで怖くなるよ」

 悠さんが少し真面目な顔になる

「悪い事は起きない、いや起こさないよ、だから安心して楽しもうよ。ボクは生まれつき運がいいんだ♪」

「そうだね、楽しむよ!」

 今僕はどんな顔をしているのだろう、おそらくとても幸せそうな顔をしているはず。鏡があったら見てみたいわ。

 三日前までの僕は毎日アニメみて友達とそれについて話したりしてた。それはそれで充実してたのではないかとは思う。しかしどうだろう、僕は悠さんに出会って、一緒に過ごして分かった、まだ三日しか経ってないけどね。

 オタの充実にも限界があるということだ。リア充はこんなに楽しい毎日を送っていたのか、オタが妬むのもわかる。いや僕には分かり過ぎる。

「次は何にのろっか?」

 コーヒーを飲み終えたところで悠さんが聞いてくる。

「コーヒーカップ以外ならなんでもいいよ」

 本当にもうあれには乗りたくない、トラウマになった。

 悠さんは「じゃあここは?」といってパンフレットを指差す

「またジェットコースターですか……」

 これで本日三度目だ。レストランを出て真っ直ぐそこへ向かう。


 確認するが今日は日曜日、一週間で最も自由な一日だ。なのに何かがおかしい気がする、やたら空いているのだ。いくら普通の日曜日とはいえ、この日本有数の遊園地で、こんなに並ばずに乗れるのは滅多にないはずだ。みんな他の乗り物に行っているのだろうか。

 というわけで、そのジェットコースターの列に列んで約十分で順番が回って来た。

「ねぇ悠さん、今日全然待たずにに乗れるね」

 前に行ったと言う友人の話しだと最低でも三十分は待ったと言っていた。

「う~ん、そうだね。まぁさっきも言ったけどボクは運がいいからね♪」

 乗り込みレバーが下がる。

「わくわくしてきたよ~」

「僕は緊張してきたよ……」

 さっき読んだパンフレットにこのジェットコースターは園内最速の飛ばし屋と書いてあった。

発車のベルが鳴り黒いサングラスをかけた係員さんが「振り落とされないようになっ」と、言ってウィンクをした

「振り落とされたりしちゃうような作りはまずいんじゃないの!?」

 僕はつい突っ込んでしまったが、係員は「ははは、いってらっしゃい」と手を振っている。

 それに悠さんも振り返す

「いってきまーすっ」

 いちいち可愛いんだから……。

 発進するといきなりスピードが上がる、速い速い。

「うわぁー!」

「いぇーい♪」

 園内最速は伊達ではなかった、左右上下に揺らる、これはこれで気持ちがいい。景色も綺麗。そして急カーブに差し掛かる。

 この速さで突っ込んだらそのまま空中へなんてこともあるんじゃないかな、ジェットコースターが「もう俺、決められたレールを進む人生なんて嫌なんだ」とか言い出してさ。なわけないか。僕失笑。


 そこで「ガキョ」と、本来出ないような音が聞こえた気がする。え?

「ちょっと、嘘だろ!」

「きゃっ!」

 悠さんは僕の手を力いっぱい握る。ジェットコースターは無理矢理レールを外れ、見えない道を進んで行く。

 そして重力に従い地面へ。つまり本当にジェットコースターは自分の人生を進もうとしてしまったのだ。

 成る程、そうだよな。いいことありすぎたもん、神様だってそろそろ悪いことを与えるはずさ、でも死ぬのはやだなぁ。

 いくら空いていたからといってこのジェットコースターには僕たちの他にも人が乗っているのだ。

 僕のリア充生活の代償は僕一人の命では足らないようだ、本当に申し訳ないと思う。

 ふと隣を見ると悠さんが何かをぼそぼそ言っている。しかも左手首が凄い勢いで輝いている。なんでかな……。

 悠さんだけは守ってあげたい、しかし今の僕にはどうする事もできない、これほどまで自分の無力さを呪ったことはない。

 あ、あったかも。中二のときに……いや、この話しはしなくていいや。体に衝撃が走る、そこで僕は気を失った。


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