第24話 欲望と理性 って言うとなんだか倫理に出てくる本みたいだね。
藤永さんと少し話した後、採寸がどうのこうのだから呼んできて言われ、よく理解しないまま悠たちを呼びに、僕は校庭へと向かった。
その途中、二階で真奈ちゃんと光木に会った。
「あ、東雲先輩じゃないですか! 今日はお一人ですか?」
真奈ちゃんのこの純粋無垢な笑顔にはとても癒される。この純粋さをこのまま大切にしてほしいよ。
「うん、今呼びに行くところなんだよね」
「ああ、そうですよね。天野原先輩たち以外には友逹がいな――げふんげふん」
光木も笑いながら言うのだが、何だろうこの真奈ちゃんとの差は。純粋な笑顔ではない。いや、むしろ悪意しか感じられない! この子といると、真奈ちゃんが間違った方向に進んでしまいそうで心配だよ。
「いや、人を呼びに行くのに何人もいらないでしょ?」
「そ、そうですね確かに。私は思うんですよ、トイレとかなんで友達ひきつれてぞろぞろと行くんでしょうね、する部屋違うのに」
「うん、僕は男だから個室については分からないかな! でも、うん。みんなで一緒のことをするっていう団結感っていうの? そういうのが味わえるんじゃないの?」
「うっわぁー、何ですかその団結感、しょーもないですね……」
そ、そうだね。冷静に考えるとその通りだよ……。
「でも、団結感、いいですよねわかります。ちょうど今みたいな感じですね」
言いながら光木は自分のクラスの方を見る。
「そうだね美月ちゃん! 体育フェスティバル楽しみだね!」
隣にいた真奈ちゃんが、その視線に気づいたように飛び跳ねる。ホントなんていうか、小動物みたいに可愛い子だね、もちろん僕は悠にぞっこんだよ!
「先輩目がいやらしいですよ、真奈ちゃん逃げて」
「はい?」と首をかしげる真奈ちゃん。
「いやいや、そういう目では見てないでしょ!?」
「ほほう、ではどういう目で見たのですか?」
「子猫を見るような目かな?」
「わ、私は子猫さんですか!?」
「ああ、子猫を狙うカラスの目ですね、分かります」
僕は光木に嫌われているのだろうか?
「いや、人間の目だけど、もういいや……」
「ところで先輩?」と真奈ちゃん。
「先輩のクラスは何するんですか?」
「うん、たこやきっさ、だね……。たこ焼きを出す喫茶店らしい……」
「ぶっ!」
予想通りというか、なんというか、光木が噴きだした。
「いやね! 名前考えたの担任の先生だから! 生徒は一切関与してないからね!」
「~~~~~~~っ!」
だめだ、ツボったらしい。会話にならない。
「たこ焼きですかぁ、いいですね先輩! 当日お邪魔しちゃっていいですか?」
ホントにさ、真奈ちゃんっていい子だよね……。
「うん、もちろんだよ! おごるからさ、奏音ちゃんもつれて三人でおいでよ、そう言えば奏音ちゃんは?」
いつもより静かだなぁと思っていたがそうか、奏音ちゃんがいなかったんだ。
「はい、学級委員なので、クラスのみんながどの競技に参加するかを決めてますよ。私たちはもう決まっちゃってるので暇してたわけです。 午前中は暇してますので必ず行きますね!」
すっかり忘れていたが、体育フェスティバルとは午前が文化祭的なノリで、午後が体育祭。そして一年生は午前中はお客さんとして参加する。お店を出すのは二、三年生なのだ。
「はぁはぁ……」
やっと笑いがおさまったらしく光木が顔を上げた。
「そんなに面白かった?」
すると光木は真剣な眼差しで。
「たこやきっさ。どうやったらこんなにハイセンスな名前を思いつけるのでしょうね、その先生。ぜひ弟子入りしたい所です」
どのあたりがハイセンスなのか説明が欲しいところだけど……、いや、多分説明されても僕には理解できないと思うからいいや。でもあれ? 藤永さんもよく考えるといい名前って言ってたし、僕がずれているのだろうか?
「まぁ、それはともかく。ゴチになります、楽しみにしてますね」
そういいながら笑う光木。なんだかんだいってこの子もいい子なんだよね。
そんな感じで二人と別れ、今度こそ悠たちを呼びに校庭へと向かう。
外に出ると春の心地よい風が頬をなでる。校庭の中央では生徒が先生と共にやぐらを組み立てている。当日はここに点数を掲示する、高さは大体二階くらいだったかな。毎年恒例ではあるけど、そろそろ部品を新しくしたらどうだろう、古くて崩れたりしないのだろうかと、不安になるんだよ。
悠たちを探し歩きながら辺りを見回していると、急に視界が暗くなるとともに、甘いいい香りがやってきた。多分悠だね、春休み前、食堂で似たようなことあったしね。
「ふーあーゆー?」
思った通り悠の声。僕は用意してた答えを何も考えずに言った。
「悠でしょ?」
「え!? 空君はいつからボクになったの!?」
ふーあーゆーって、ああそうか、あなたは誰? って意味か。
「ごめんごめん、僕は東雲空輝だよ!」
悠はにへへ、と笑い。
「うん知ってる! ボクの素敵な彼氏さんだよね♪」
「げほぉあっ!」
悠と出会って約二カ月、『可愛い』が口癖になりつつある僕だった。
「うん、まぁそれはともかく。藤永さんが呼んでるよ、ルーナは?」
「理沙ちゃんが呼んでるの? ルーナちゃんは――」
またも僕の視界が真っ暗に。
「ここはどこ? 私は誰?」
「すごいね、『だーれだ!』に一言添えるだけで記憶なくした人だよもう! そんなわけでここは学校、あなたはルーナ」
「おお、私はルーナって言うんですか、知りませんでした、お兄ちゃんの可愛い妹のルーナですね?」
「いや、妹ではないけど、もういいや突っ込まない。そうだよルーナだよ」
「むぅ……」
悠に袖をひっぱられた。
「ん、なになに悠?」
「空君あれなぁに?」
少し機嫌が悪そうに、やぐらを指さす悠。ムスッとしてても可愛いよ! なんでご機嫌ななめなのかは知らないけどね!
「ああ、あれはやぐらだよ。当日は点数とかを掲示するんだよね」
「なんか、今にも崩れそうだけど……大丈夫なのかな?」
うわすっごい、みんなそう思うよね。まだ全部完成していないとはいえ、風で揺れちゃってるもんね……。
「知ってるよお兄ちゃん! 大丈夫大丈夫、絶対安全! こういうのフラグって言うんですよね!」
なんでだろう、今タイタニック号が思い浮かんだよ?
「そうだねフラグだね! ってやめようね、当日ここに人が乗るんだからさ!」
「おぉう、なんか契約書にサインさせられそうだね」
「一切の責任を負いませんって? 何それ怖い!」
「ところでお兄ちゃんはなんでここに? 教室で看板作ってたんじゃないんですか?」
そうなんだよね、看板作ってたんだよね、僕ほとんど何もしてないけどね!
「そうだそうだ、藤永さんが呼んでるからさ、呼びに来たんだよ」
「わぁ! お兄ちゃんカボチャの馬車はどこですか?」
「それ作るのにどんだけでっかいカボチャ用意しないといけないんだよ!?」
「えっ!? そこなの空君、突っ込むところそこなの!?」
「あ、そっか。馬車って学校に馬なんていないよ!」
「えぇ!? だからそこじゃないよ! なんでお迎えにカボチャの馬車なんだよぉ、ルーナちゃんはシンデレラじゃないよぉい!」
お、珍しい。悠が突っ込んでる!
「でも不思議ですよね、なんで魔法使いの魔法は十二時までしか続かないのでしょうか?」
「え、そこなのルーナちゃんっ!? 魔法が切れたのになんでガラスの靴は残ってたの? とかじゃないの!?」
おぉ、今日はツッコミの日だね悠。
「色々突っ込み所の多い作品なんですね」
「ところで悠とルーナは童話に何を求めてるんだよ!?」
「「現実味」」
それは無茶だろぉ、魔法とか使っちゃってるんだよ? そんなのに現実味求めちゃいけないでしょう? ああでもこの子たちも一応似たようなことはできるのかな? クラフトで。
「ある意味すっごい現実的だけどねシンデレラとか、ほら姉たちのいじめ的な意味で。まぁいいや。教室に戻ろうか」
そんな感じで二人と教室に戻ると、何でか男子生徒は廊下に出されている様子、何があったんだろう?
「真野、真野。何があった?」
訊くと真野は一瞬にやりと笑ったような気がした。
「ああ、いや。なんでも無い、入ってこいよ」
何もないんだったらいいか、と思ってしまった僕が浅はかだった。だって男子だけ廊下に出てるんだよ? もう少し考えてもよかったよね。
僕が教室のドアを開けると藤永さんと目があった。
「――え?」
そう、上半身は下着姿で、スカートを脱ごうと手を掛けた藤永さんに、ね。
もうなんていうか、ホントにお約束というか。でもまさかこのお約束にこの現実世界で出会えるとは思わなかったんだけど。結果から言うと。教室では採寸作業が行われていた。
「きゃああああああああああ!!」
飛んでくる手のひら、羞恥でか、特殊能力でかは知らないけど、その手は赤かった。多分前者だよね? 藤永さんのあの手が真っ赤に燃える! とか、やめてね。
見てしまったんだから仕方ない、たとえ事故だったとしても甘んじて受けよう。さぁこい!
パシーンという音が響く、不思議と痛みは無い。僕はゆっくりと目を開けるとルーナが手のひらで防いでくれたらしい、なんて激しいハイタッチ!
「今お兄ちゃんを叩こうとしましたか?」
いや、ルーナ。味方になってくれるのは嬉しいんだけどさ、今のは叩かれても文句は無いよ? むしろ叩いてくれた方が嬉しいよ? ああ、そっちの趣味は無いけどさ、精神的にすっきりするじゃん?
「いや、今のは叩かれても仕方ないんだよルーナ」
「そうなの? ならどうぞ」
そう言うとルーナは僕を後ろからしっかりとロックする。まずい首が動かせない、衝撃を逃がせないよ!
「仕方ないならいいよね東雲君?」
他の女子生徒は服を着ている、多分僕が悠たちを呼びに行っている間に終えたんだろう。
「はい、どうぞひと思いに」
打ち首される人ってこんな気分なのかな? つらいね、男は。
「じゃあいくね」
そのあと教室にバチーンという快音が響き渡ったのだった。
「よう空、どうだった? 見れた……からこうなってるのか」
廊下に出ると真野が話しかけてきた。
「おまえなぁ! 中で何してるか分かってんなら教えてくれよ!」
「いやいや、それは野暮ってもんだぜ……」
「野暮じゃないよ! お陰で頬には紅葉だよ!」
「綺麗だぜそのフェイスタトゥー」
「いや、僕にそんなの付ける趣味ないからね!?」
「一仕事終えた後の男の勲章ってやつだな」
「嫌な勲章だな! っていうか、仕事だったらわざとやってるよね!? ただの変態だろそれ!?」
「で、どうだったんだよ。藤永さんの裸は?」
裸と言っても、上半身だけだったし、下着もつけてたし。うん綺麗だったよ? いい感じにくびれがあったけども、下着も淡い黄色で可愛らしかったよ? っておい、思い出しちゃうじゃないか。悠ってものがありながら、なんて欲望に従順なんだろうね男って生きものはぁ! なんて言えばいいかな真野に、そうだね一言
「よかったよ!」
「だろうな!」
所詮は男子高校生だった……。やだなぁこのジョブ。
『ひゃうん!』
稲妻、奔る。僕と真野は顔を見合す。
「い、今のは何だ空?」
「こ、声からして、悠だったかな?」
「見てりゃわかるけど、お前ら付き合ってんだよな?」
「おう」
あ、まずい、流れで口走っちゃったよ。
「まぁ後で殺すけど、いいや。どこまでいったんだよ?」
聞き流していいの? 殺す言いませんでしたか今?
「まだキスもしてないよ!」
しようとした事はあるけどね! 美佳と奏音ちゃんに阻まれたんだよね。
『ふあぁん、ちょ、ちょっとぉ。理沙ちゃん触りかたが、その、えっちだよぉ』
教室の中から聞こえてくる、悠の甘い声。まずいまずいまずいまずい! そう言うのに飢えた男子高校生が廊下には沢山いるんだぞ? そんな、妄想を掻き立てるような声を出したら……。
『悠ちゃんって、大きくは無いけど形いいよねぇ。ついでに感度も……』
『うぅん、あぁはぁん! ら、らめらおりさしゃん』
「あああああああああああ!!!」
ついに理性が崩壊した一クラスメイトが教室に侵入を試みる。
ふざっけんな! 今の悠を他の男に見られたくない! なんて彼氏の独占欲なんだろうけどさ! でもさ、嫌じゃないですか!
僕が阻止しようと駆けだした瞬間、そのクラスメイトは吹き飛んでいた。
「ごふぁ!」
隣にいたはずの真野が瞬間移動し、ドロップキックをかましていた。
「バカ野郎! 本物を見ちまったら、もう妄想じゃなくなっちまうじゃねーか! どんな事を象像しても罪じゃねー、でもな、それを実行しちまったらそこでおしまいなんだよ!」
んなっ!? かっこ、いいだと……。言ってる事はバカみたいなのに、真野がすっごくかっこよく見えるよ!
「あ、ありがとう真野」
そう伝えると真野は。
「おうよ、いい感じに昂ぶってきたぜ!」
いや、前言撤回、こいつが一番危ない気がする!
『んんっ!』
『うわぁ、さすが外人さん。おっぱいおっきいねソネモーントさん』
『な、なんてことは無いですよ。まぁ悠ちゃんよりはおっきいですけどね、キリッ』
『胸は大きさじゃないんだよルーナちゃん!』
『どれどれー』
『ひあぁ!? き、きついです藤永さん』
おい、お前ら、いい加減にしろよぉ! ほら真野とか目から血を流してるよ!?
それから数分間、僕達男子は自分たちの理性を試されたのだった。
あれ、でもなんで採寸しているんだろう、コスプレはダメだったはずなのに?
みんなも妄想を実行しちゃだめだぞ☆




