第18話 買い物はある日突然に!
それから数日が経ったある日の帰りのホームルーム、担任である卜部先生がアンケートをとっていた。
ちなみにあの夜以来ルーナがまとも(いつも通り)になることはなく、朝だろうが夜だろうが妹キャラだった。こっちがいつも通りにならない事を心から祈ろう。
「今度の体育フェスティバル、うちのクラスで何やるか書いてくれ、多数決な」
配られたのは白紙の紙、ギャルゲーとかならここで選択肢が現れるのだろうが、残念なことにそんなものはない。まぁ選択肢を選ぶだけで女の子と仲良くなれるゲームとは違うよ、自分の道は自分で切り開かないと。
ここは無難に(どこが無難なのかは分からないが)メイド喫――
「ちなみにメイド喫茶とかは却下な。書いてもいいが書いた奴にはメイド服を着てもらう」
――ナンデモナイヨ?
「今消しゴムで消した真野には着てもらおうかな」
何喫茶と書いたかは知らないが、おそらく喫茶関係を書いたのだろう、真野は反論する
「先生ぇ! 男のメイド服に何の価値があるというんだ! メイド服とは、女の子が着てからこそ価値が生まれるんじゃないんですか!? もし先生がどうしても着ろというのなら……俺は!」
落ち着くように深呼吸する真野、なにかまずいことでも言うのだろうか
「まんざらでもないです!」
「まんざらでもないのかよっ!」
僕は予想の斜め下を行く答えに教室全体に響き渡る声で突っ込んでしまった。
あぁもう、やっちゃったよ。みんなこっちみてる……。ここまできたらいくところまでいってやる!
「お前言ったよな、メイド服とは女の子が着てからこそ価値があるって、その通りだよ! お前は途中まで正しかった、あのスカートとニーソのコントラストが(中略)だから男のお前がメイド服を着ることは失礼にあたる。メイドを侮辱することに繋がるんだ! だからお前がメイド服を纏おうと言うのなら僕は全力で阻止する、何があっても着させない!」
教室(主に男子)からは拍手が聞こえてくる。
「わ、悪かった空、俺が間違っていた……。先生、と言うわけだ俺は何があってもメイド服を着るわけにはいかない!」
「じゃあ列の一番後ろの席の人、紙を集めてきてくれ」
なんというスルー!? 蝶のようにひらりとかわしたぞ! でもまぁ、男がメイド服を着ることは阻止できた。よしとしよう。
「多数決の結果は明日発表するな、じゃあ解散」
ちなみにこの後僕は数名のクラスメイト(男)に握手を求められ、女子からは少し引かれた……。
「空君空君、この前の話、覚えてる?」
帰ろうと席を立つと、隣の席の悠に声をかけられた。
「この前の話?」
「ふっふっふっ、他人に聞かれちゃまずいから筆談でした、あれだよ……」
悪人っぽく言う悠だが、そんな演技もまた可愛らしい、心底御執心だな……。
「いやいや、それは授業中だからでしょ! 筆談って言えば聞こえはいいけど、ただ手紙回してただけだからね!」
「そうそう、その話しだよ。今日とか、どうかな?」
「いいよ、どうせ暇だし」
もちろん奏音ちゃんと美佳の誕生日プレゼントを買いに行こうという話しである
「じゃあどこの遊園地に行こうかっ!」
「ちょっと待て! 何の話し!?」
「デートの話し」
「そんな話ししてなかったよ!?」
「バレた?」
てへっと自分の頭を軽く叩く悠、行っちゃう!? 今すぐ遊園地行っちゃう!?
「あぁもう! やめろ! 可愛すぎる!」
「ふえぁ!? わわわわかってるよぉ! 実は、妹たちの誕生日プレゼントの話だよ!」
顔を真っ赤に染めながら言う悠。本当に分かっているのだろうか、多分悠は自分で思っているよりも可愛い、僕が保証しよう
「うん、どっちにせよ暇だからいいよ」
「やたっ♪ ルーナちゃんにも言ってくるねー」
言うと同時に悠はパタパタとルーナのもとへと駆けていった。
ルーナの暇を確認し、教室を出ると、後輩三人が待っていた。奏音ちゃん、真奈ちゃん、光木の三人である。
「先輩、なんで私だけ呼び捨てなんですか?」
「なんの話しだよ光木ちゃん」
「うわぁ、やめてください。光木ちゃんだなんて気持ち悪い、名字にちゃんとか、ないです」
「うわ、ひっでぇ!? 自分で呼び捨てやめろっていったくせに!」
「ええ、言いました。呼ぶなら美月様、美月殿、からお選びください、いえ。選びやがってくださいませ」
「なにその二択!? ていうか、お前後輩だよね!?」
「はい、そうです。ぴっちぴちの十五歳です、誕生日は言いませんけどね」
おぉ? 天野原姉妹と違って自分から誕生日を言わない事にちょっと感動!
「そもそも」と光木は僕に人差し指を向ける
「一年や二年早く生まれたくらいで、先輩面しないでください!」
「どこの不良生徒だよ! お前そんなんじゃ運動部で生きていけないぞ!?」
運動部に限らず、部活は先輩後輩の上下関係が厳しいものである。
「いや、たしかにね僕もそう思うよ? でも本音と建前ってものがあるじゃん?」
大切だよね、本音と建前……
「あら、先輩。分かってましたか……、好感度少しアップです。『美月たん』と呼ぶことを許します」
「何その三番目の選択肢!?」
「私の好感度を一定まで上げると現れる選択肢です、ちなみに美月たんルートを開くには、相当の努力が必要ですよ、まぁ先輩には無理でしょう」
……よくわからない後輩だ。
帰り道、駅で美月たんと真奈ちゃんと別れ電車に乗った。
「あぁ、奏音ちゃん」
「なんだ先輩?」ときょとんとする奏音ちゃん。
「今日、僕達用があるから途中で降りるね、奏音ちゃんはそのまま帰っちゃって」
「? なんだ先輩、ワタシも行くぞ?」
「いや、それはダメ、と言うか……」
ドッキリを仕掛けるのに本人に言ってしまっては元も子もない。もちろん秘密である。
「なるほど……、ワタシに秘密と言うことは」
勘のいい奏音ちゃんのことだ、まさかバレた――
「あだるてぃーな匂いがするぞ! ――痛いッ!?」
少しでも心配した僕がバカだった。悠に叩かれる奏音ちゃん
「ばばっ、バカなこと言わないの! なななななんであだるてぃーなのさぁ! そそそそそんなわけないでしょ!?」
どんだけ動揺してるんだよ悠……、自分では多少の下ネタは言えるくせに
「ところで奏音ちゃん誕じょふひふれへんほはひはほひい?」(誕生日プレゼント何が欲しい?)
ルーナが今危ない事を言いかけた気がするので咄嗟に口を押さえた。唇柔らかい……。
「はひふるんへふはほひいひゃん!」(何するんですかお兄ちゃん!)
「バカかお前は!? 言ってどうする!」
「? よくわからないけど、とりあえずワタシにはまだ早いということだな。わかった、ワタシが大きくなったら誘ってくださいね」
奏音ちゃんと別れることに成功した僕達は、途中の駅で降りた。ちょっとした繁華街で、目指すはショッピングモール!