第2話 ぬいぐるみ殲滅作戦 ~mission in possible~
題名はわざとです
「ただいまー」
家に帰ったが誰もいない、そうか今日は母も仕事の日のようだ。時間を確認する、ただいまの時間午後一時十分、待ち合わせまで時間がある。
女の子とゲーセンに行くのなんて久しぶりだ。初めてではない、一年のときは結構クラスの女の子と一緒に遊んでたりしたのだ。
意外にも。
二年のクラス替えで僕は知っている友人が真野だけになって女の子とのかかわりがほとんどなくなったのだ。
だから二年になって女の子と遊ぶのは初めてだ。
とりあえずシャワーを浴びてみた。清潔は大切だもんね。
私服を選ぼうと思うのだが、あまり外に出ないので私服は少ない、普段は学校から帰ると風呂に入るまで制服でいることが多い、そのあとはパジャマだ。だから私服を着る機会が少ないのである。
修学旅行とかどうしようと思う。今度買いに行こうと決意した。
とりあえずたんすから引っ張り出した一番イケているであろう私服に身を包む。所詮僕のセンスだ、たいしてイケてはいないのだろう。
悲しいねまったく。
『カツン』と窓から音がした。
何だろうと思いカーテンを開くと同時に窓を開けるとおでこに何かが当たった。
「いて」
床にはよく消えるあの消しゴムが転がった。
誰だこんな便利なものを投げてくる奴はと思い外を見ると。
「あ、空君ごめん」
なんと悠さんだった。
悠さんの家と僕の家の間隔は約一メートル。結構近い気がするけどいいのかなこれ?
どうやら部屋から消しゴムを投げてきたらしい。
「ごめんごめん当てるつもりはなかったんだけど」
「うん、大丈夫」
「て言うか、部屋まで近いとはね」
「うん、それで準備できた?」
「ああうん、もういいよ、悠さんもいいの?」
「うん、じゃあちょっと早いけどもう行こうか」
こういうわけで出かけることになった。
ゲームセンターに着く、そして悠さんは開口一番こう言った。
「いっえーい! さぁて、ぬいぐるみを取りまくるとしますかぁ!」
なんだこれ、まるで取り放題みたいな言い方だな、もちろんここのゲームセンターにぬいぐるみ鷲掴みみたいなゲームはない。
「取りまくるってどうやって?」
「わかってないなーワトソン君、そりゃあUFOキャッチャーに決まってるじゃあないですか」
ワトソン君って言われた、二度目だが、どこの探偵だよ。
「UFOキャッチャー得意なの?」
「得意だね、得意です、得意過ぎてもうあれだね、百円でぬいぐるみ三個は取れるレベル」
百円で三個って、どうやればそんなに取れんだよ。
「それはすごいな、僕は苦手」
「ほう、欲しいのがあったら言ってくれたまえ空君、この天才キャッチャー悠が取ってあげるから」
天才キャッチャーっておい、野球でもしてらっしゃるのかね。
そして台に着く。
「まずこれだなぁ」
ほうこのくらいは僕も知っている。後ろを持ち上げて前に落とすタイプだ。
百円を入れる自称天才キャッチャー。まるで人が変ったようにまじめな顔になる。
「悠さん、ど――」
「ちょっと黙ってて!」
怒られた、かなりマジで怒られた。相当本気らしいので僕は黙っていることにする。
クレーンを中央に持ってくる。悠さんは横が見える位置に移動する。
狙いは小さめのカピパラのぬいぐるみらしい。カピパラは蛇に睨まれたかのように動かない、ぬいぐるみなので動いてもらっても困るのだけど。
そしてクレーンを下ろす。
アームが開き並べられたぬいぐるみとぬいぐるみの間に突き刺さる。
アームがはさんだのはそのカピパラの左右二個分のぬいぐるみだった、つまり五個のぬいぐるみだ。
アームが閉まるとぬいぐるみたちは窮屈そうにへこむがアームはそのぬいぐるみたちのせいであまり閉まらない。
そのまま持ち上げると中央のカピパラが上に上がりぬいぐるみたちがアームの輪の中で四角を作る。
表現が難しいのだ、今目の前で起きていることを言い表すには無理がある、一言で言うならば神業だ。神にしか成し得ぬ業だ。
そのままアームは取りだし口へと運びぼてぼてとぬいぐるみを落とす。一仕事終えたアームは元の居場所へと帰って行った。
アームさんお疲れさまでした。
「ふぅまぁ、こんなもんか、満足満足♪」
天野原さんは本当に満足そうだ。
「……すごいね、言葉にならないよ」
「えっへん、まぁね、五個一気に取ったのは久しぶりかな運が良かったみたい♪」
この人がいるとUFOキャッチャー内の罪なきぬいぐるみたちが絶滅するな、とか思いつつも、その技量には感服する。
そのあとも悠さんは乱獲を続け、UFOキャッチャーの中身は何か物足りない光景になっていた。
手提げ袋をくれた店員さんも心なしか青ざめていた。
「はいこれ同じの取れたから空君にあげるよ、一緒に鞄につけよう。おそろいおそろい♪」
手渡されたのはあのカピパラだった。
「うん、ありがとう」
普通こういうことは男である僕がすることじゃあないのかなと思いつつも、無下にもできないのでもらうことにした。
時計を見ると既に五時を回っていた、三時間近くUFOキャッチャーをやっていたようだ。
悠さん曰く「x軸とy軸とz軸を考えて(中略)するとうまく取れるよ♪」とかなんとか。要するに僕にはできないらしい。
「最後にさ、プリクラ撮ろうよ、記念写真」
「む、恥ずかしいなぁ」
そうは言いつつもまんざらではない僕。
撮り終わり、僕は天才キャッチャー悠さんが狩った(取った)ぬいぐるみたちが入った袋を両手に持つ。もちろん悠さんも両手に持っている。
それだけたくさん狩った(取った)のだ。
悠さんは心なしか疲れている様子だった。
家に帰ったのは六時ちょっと前。家の前で袋を渡し、悠さんと別れる。
「じゃあまた明日ね悠さん」
「うん、後でね♪」
ん、後でね?
まぁ何かの間違えであろうと思いスルーする。
「ただいまー」
すると母が帰っていた。
「あらおかえり、どこ行ってたの?」
どうやらいつも僕が家にいると思っている母が家にいなかった僕を不思議に思ったらしい。まぁ無理もない、いつも僕は責任もって自宅を警備しているからな!
「ちょっとゲーセンに」
「そう」
あんまり興味はないようだ、それはそれで助かります。
しかし妹が黙っちゃいなかった。
「お兄ちゃん、そのカピパラどうしたの~?」
「まさか自分で取ったってわけじゃないよね~ だって兄ちゃんそういうの苦手だも~ん」
何にやついてやがる美佳。
こいつは俺の実の妹で名前は東雲美佳という実の妹だ。義理ではない、なんの萌え要素も感じさせない中学三年生だ。何故だか中学では結構モテるらしい、神様ってのは理不尽だよね。確かに妹ってことを抜きにすれば可愛いのかもしれない。
「ん、ちょっと友達が取っていらないからってくれたんだよ」
美佳はまだにやついている。
「へぇ~、兄ちゃん友達いたんだ~、へぇ~友達がねぇ~」
なんてこと言いやがる、僕にも友達くらい……いた気がする。いや、いるし。普通にいます。
「うるさいぞ美佳、お前、冷蔵庫上から二番目左奥に隠してるプリンを食べられたくなければ黙ってろ」
「何故それを、プリンを人質に取るとはずるいな兄さん。仕方ない、今日は引き下がってやろう」
僕に対しての呼び方がころころ変わるのはいつものことだが。
何様だこいつ、とは思うものの、まぁ追及されるとボロが出そうなので助かる。
「夕飯の時間になったら呼んでよ」
そういって僕は自分の部屋に戻った。
部屋に戻ってはみたものの、することがない。
ふと足元をみると消しゴムが転がっている、昼に悠さんが投げ入れたものだ。
とりあえず拾った、どうやら新品らしい、ビニールがまだ付いている。
「明日返すか」
消しゴムを机の上に置くと、ビニールに包まれたマンガに目がいく。
昨日買ってまだ読んでなかったのを思い出したので読むことにした。
数ページ読んだところで美佳が僕を呼びに来た。
「兄さ~ん、ごっはんだよぉ!」
ノックもなしにドアを開けてきやがった。
「ナニやってんの?」
うふふ、といった表情で手を口の前に置いていたりする。
「何? 何ってなんだ? 発音の問題だ。僕は今マンガを読んでいた、何か質問があるか?」
美佳は少し残念な様子で
「べっつに~、ご飯できたから下りて来てって母さんが」
「ああ、今いく」
まったく、妹が健全に育っているかが心配な今日この頃だ。どうやら今日はカレーのようだ。席に着くと三人同時に手を合わせ
「「「いただきます」」」
父さんは仕事で帰りが遅かったり帰ってこなかったりする。
特に何も起ることなく夕飯を済ます、大体何かが起こるって方がおかしいのだ。
僕の人生に非日常を期待してはいけない。
いや、いけなかったのだが、今日から非日常の連続なので、なれない非日常とどう付き合っていくかが今後の悩みだ。付き合っていくと言ったら悠さんともか、なんて思ってしまう僕はバカだ。
食器を片し部屋に戻ろうとすると家のチャイムが鳴った。
『ピンポーン』
母は皿を洗っているので僕に言う。
「あら、誰かしら? 空ちょっと出てくれない?」
断る理由もないので承る。
「はーい」
ドアを開けるとそこには三十歳くらいの女の人と……悠さんがいた。
玄関では悪いので、中に通す。
「「お邪魔します」」
二人をリビングへ、途中悠さんにウィンクされ、ドキッとしたのは秘密だ。
どうやら引越しのあいさつに来たようだ。
悠さんのお母さんが始める
「遅くなって申し訳ありません、先週隣に引っ越してきた天野原と申します。よろしくお願いします」
そこで悠さんがごそごそと鞄から紙に包まれた四角い箱を取りだした。
「ボクは娘の悠です、あのこれ、つまらないものですが」
よくあるあれですね。はじめて現実で見た。
「どうも御叮嚀に」と母は受け取った。
それからしばらく母と悠さんのお母さんは話しているようだ。楽しく話しているようだ。
それを見た悠さんは僕の隣で
「空君、どうする? 母さんたち長くなりそうだけど」
それを美佳は聞き逃さなかった。
「あっれっれ~、ど~して悠さんとは仲がよさそうなのかなぁ~、初めて会ったんだよねぇ~?」
僕ピンチマジピンチ超ピンチ! いや、べつに隠してるわけじゃないけど。
さらにたたみかけてくる。
「悠さんこんな可愛いのに、兄ちゃんの名前知ってるんだろ~う、ヘタレでチキンなお兄ちゃんにこんな可愛い子に声かけられるはずないし」
まぁな!どうせヘタレでチキンでアニオタで変態紳士とか気取っちゃってますよ!
「兄さん二個増えてる」
? 僕は口に出してないぞ?
僕が言い淀んでいると悠さんが言いだした。
「はーい注目!」
僕を含む四人の視線が一斉に悠さんに集まる。
そして僕の腕をつかみこう言い放った。
「ボク達、付き合ってます! 男女交際中です、今度の日曜デートしに行きます!」
悠さんのお母さんを除く三人が吹き出した、これも僕を含む。
「そんな……兄ちゃんに彼女が、しかもこんな可愛い……」
美佳はなぜか青ざめている。世界の終りだ、みたいな表情だ。
母はと言うと。
「へ、へぇそうなんだ、うちのバカな子をよろしくね悠ちゃん」
「はい! おまかせください!」
悠さんのお母さんはにこにこしている、既に知っていたのだろうか。
「家族公認だね空君♪」
なんて言いながらウィンクする悠さん、ああかわいい。
それからしばらくして悠さん達が帰って行った後のことだ。美佳が部屋に来た。
珍しくドアをノックする、珍しくというか初めてなんじゃないかな?
「ん? 入っていいぞ?」
読んでいたマンガを机に置いてドアの方を向く。
ドアを開けた美佳が最初に取った行動は僕に枕を投げる、だった。投げられた枕は一直線に僕の顔面へと飛んできて、そして突き刺さった。
「ボフッ!」
僕は椅子ごと倒れた。
「何しやがる美佳……」
「よかったじゃない兄さん、可愛い彼女ができて!」
ぷいっと部屋を出て行った。
え? なになに、やきもちですか? まさかね。
十時を回ったところで寝ることにする。アニメの録画予約はぬかりない。電気を消してベッドに入った。
これからは毎日が楽しみだ、こんなに幸せだとそのうち何か悪いことが起きるのではないかと心配になる。
そうこうするうちに僕は寝たようだ。
次に僕が目を覚ましたのは朝ではなかった。
ガラガラと言う音に目を覚ました、その数秒後ドスタッ! と言う音がした、その程度のことを気にするはずもないので僕は音から背を向けもう一度寝ようとした、真っ暗で何も見えないしね。
すると僕のベッドに誰かが入ってきた。
おやぁ、初めての心霊体験でしょうか? マジで怖いんですけど!
しかしどうも温かいのだ。
「人間……?」
ここまで来て確認しないほど僕は鈍感ではないので寝がえりをうつようにして後ろを見ると。
ふにっ。
「ひゃうっ」
というかわいい声が僕の耳に届くとともに顔にとても柔らかな感触がした。悠さんだ。
顔の前に楽園が広がっているようだ。すっごい、いいにおい。甘い香り、ああほんととろけるぅ。悠さんの慎ましい胸、慎乳が僕を楽園へと誘う。そこで気づく、彼女はパジャマだ。つまり悠さんの胸と僕の顔の間には布一枚しかない。寝るときはやっぱり外すんだね悠さん。
僕のマザーコンピュータ(脳)がものすごいスピードでこの状況を処理しようとしている。ファン(鼻)は回りっぱなしだ、すごい勢いで空気の入れ替えを行っている。
女の人の胸に触れる体験なんて初めてだ、当り前だろ? ああ、でも牛のおっぱいには触ったことあるよ、えへん。
ではない! 何故ここに楽園が広がっているんだ!?
「もう、意外と積極的なんだね空君」
ていうか、ナンデココニイル……
「うわぁ! 悠さん!」
「来ちゃったよ♪」
来ちゃったよ♪ っておい、どうやって入ってきた!?
「んーとね、ちょっと棒使って窓開けて、ジャンプした」
どうやら心を読まれたようだ。ジャンプって、ずいぶんとアクティブなのね。
「あのぉ悠さん、ここにいられると僕寝られないんですけど(興奮して)。」
「いいじゃん 朝になったら起こしてあげるから寝ちゃって寝ちゃって、ボクも寝ちゃうからさっ!」
女の子と一緒に寝るとかってねぇ、アニメ以外の世界で起きていいことなの?
僕近いうちに死ぬんじゃない? 死ぬの? とか思っていると。
昼間の電車のようなかわいい寝息が聞こえてきた。もう寝ちゃったんですかぁー、早いな悠さん。
チキンでヘタレな僕はどうも意識してしまって眠れそうにないので――床で寝た。床で寝ました! ああ、床で寝たさ!
何とでも言うがいい! そうさ! 僕はチキンでヘタレさ! 自分のベットで無防備に寝ている女の子に手を出すどころか、そこで一緒に寝られないほどのヘタレっぷりさ!
そうして朝が来る。
僕はほとんど寝られなかった。
一緒でなくとも自分の部屋で女の子が寝ているという状況でもう駄目なのだ。起こすと言っていた悠さんを少し早いが起こす。彼女にも準備があるだろう。
「悠さん起きて自分の家戻った方がいんじゃな――」
ない? と言いかけたところにパンチが飛んできた。
ゴスッ!
「ブゲフワッ!」
朝からナイスなパンチありがとうございまーす。
「うぅん、起こしてくれたの? 空君ありがとう、ボクが起こすはずだったんだけどなぁ」
そこで悠さんは気づいたようだ。
「あれ、どうしたの空君? ボクの寝顔でも見て鼻血出した? 興奮した? 発情した?」
まぁ、そういうことにしておこう。
「うん、すっごい可愛いから」
もうこんな恥ずかしさには慣れたさ、これがオタの適応力だ。
すると悠さんは顔を赤らめて。
「なっ、冗談だったのに……恥ずかしいこと言うなぁ空君、照れるじゃないかぁ」
照れてるよー、めっちゃかわうぃうぃよー!
「じゃあ戻るね」
といい悠さんは窓の方へ。窓を開け桟に足をかけ、そして飛んだ。飛んだ?
隣の部屋をみるとうまく着地していた。
て言うか部屋の窓開けっ放しで来たんだ、セキュリティ面が心配だ。
じゃあまたあとでと別れ、着替えて一階へ。
「あら空輝、早いわねぇ。鼻の下赤いけどどうしたの?」
「ああ、おはよう。ちょっと鼻血が」
「エッチな夢でも見たんでしょう?」
母はにやけながら言う。
「母よ、そういうので興奮して鼻血出すのはマンガやアニメの中だけだ」
顔を洗い血を落とし、歯を磨き、寝ぐせは直さない、寝ぐせはその日の髪型だ。あんまりひどいと直すけど。
リビングへ行くと、テーブルの上には食パンと弁当が用意されている。
美佳の通っている中学は近いためまだ寝ているようだ。
今日は食べている時間がありそうだ。そもそも、朝ご飯は大切なもんだ、小学生のころは朝ご飯を食べていて遅刻したこともある。
食べ終えると家のチャイムが鳴った。
母が笑っている
「うふふ、悠ちゃんかしらねぇ、早く行きなさい女の子を待たすようなものではないわ」
「ああ」
言っていることは確かなのでうなずく。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
家を出ると悠さんが待っていたそれも、満面の笑みを浮かべて。太陽のような笑顔だ。
この笑顔を守りたいと心から思った。リア充とかそんなの関係ない。
「おはよう空君、今日もいい天気だね♪」
「おはよう悠さん、天気がいいと気分もいいね」
守りたいのとは別として、僕のリア充ライフ二日目のスタートだ!