第5話 下校風景 ~あの頃はまだ期待に胸を膨らましてたなぁ~
帰り道、ふと気になったことを訊いてみる。
「真奈ちゃんと奏音ちゃんはいつ仲良くなったの?」
「えーと、私の回想シーンに突入してもいいならお話します」
「うん、じゃあいってみようか」
「はいっ!」
朝っぱらから人を轢いてしまい、私の高校生活は波乱の幕開けでした。犯罪の香りがします!
東雲先輩達と別れた後、私は教室の扉の前で、どう入るべきか悶々と考えていました。
「パターン1、元気よく、おはよー! ってのはどうかな? でもそれじゃ、なんだあいつって思われちゃうかも……」
これは却下です
「パターン2、無言で入る。あぁ、これじゃあ暗い子だと思われちゃう……」
これも却下です
「よしっ、普通に入ろう、普通に普通に!」
私は意を決し、扉に手をかけスライドさせ一歩踏み出しました。この一歩は小さな一歩ですが、私にとってはとても大きな一歩です!
ですがそこで問題は発生したのです、してしまったのです。私は床の出っ張りに足を引っ掻け……転びました。
クラスの子からの視線に真っ赤になりながらそそくさと席に着き、心の中で「やってしまった、やってしまった」と連呼しながら担任の先生が来るのを待っていました。
私が教室に入った時間は比較的遅かったので、すぐに先生は来ました。
チャイムが鳴り先生が出席簿を見ながら言います
「入学おめでとう、えーと、月凪の隣の席の天野原はまだ来てないのか?」
「ままままだではないでしょうかっ!?」
私はストレートのくせにテンパりながら答えました
そのときです――
ガラッっと扉が開き――
「その結婚待ったぁー!!」
彼女は綺麗な黄金色の髪をなびかせ、変なことを叫びながら颯爽と教室に入って来たのです
「天野原、遅刻だぞ?」
「何を言っているんだ? 失礼、何を言ってるんですか先生、ボケましたか?」
「天野原……後で職員室に――」
「行きません」
先生は「なんだこいつは?」というような顔をしていました
「そもそも私は遅刻していません」
「いやいや、おもいっきりしちゃってるから、チャイム鳴っちゃってるから」
「それは学校とか先生の時計を基準にしたからです、私の時計はまだ6時30分です」
「それが本当だったらお前どれだけ早く来るつもりだったんだよ!」
先生は自分の先生という立場も忘れて、突っ込んでます、いいのでしょうか?
「なんならもう一度チャイム鳴らしましょうか?」
「出来るもんならやってみろ、鳴ったら遅刻はなかったことにしてやる」
すると金髪さんは指をパチンと鳴らしました、その瞬間
『キーンコーンカーンコーン』
チャイムがなったのです、私は、いえ、クラス全員驚いたと思います。
「というわけで、遅刻はなしでお願いしますね」
何事もなかったかのように、私の隣の席に座る金髪さん、私は初対面ということも忘れて話しかけていました
「あ、あの、Nice to meet you!」
「うん、ワタシは日本語話せるからね、ていうか発音いいね」
「Oh! I`m sorryってえぇっ!? 金髪さんといったら英語ですよ!? こんなこともあろうかと、今まで英語頑張ってきたのに!」
「それは申し訳ないね、ワタシは天野原奏音、日本人(?)だよ」
「今、日本人の発音が少しおかしかった気がしましたよ? わかりましたっ! 異世界の方ですね!」
「えっ!? どうして!?」
「だってこんなに可愛い人がこの世界にいるはずがありません、ばればれですよっ!」
奏音ちゃんは何でか、少し落ち着いたように言いました
「君もすっごい可愛いじゃないか、名前は何て言うの? よかったらワタシの高校初めてのお友達に……」
その言葉に私は、なんと言えばいいでしょう? 飛び上がりました! とにかく嬉しかったのです
「はいっ! もちろんですっ! 私は月凪真奈っていいます、よろしくです!」
「うん、よろしくね真奈ちゃん」
このあと入学式を終え、奏音ちゃんが「ねーさん達を回収しに行こう」と言うので3年生のフロアを歩いていたら、東雲先輩が法定速度を無視して突っ込んできたんです。
「以上、回想終了です」
「なるほど、なかなか楽しそうな高校生活初日だね」
「はい! これからが楽しみで仕方ありません! 期待でこの小さな胸も大きくなるかもしれません、いえおっきくなって欲しいです!」
「あの、ところで奏音。遅刻したの?」
お姉さんモードの悠が奏音ちゃんに言うと、まずいといった表情で
「な、なんだねーさん。話し聞いてなかったのか? 書類上は遅刻になっていないから、遅刻はしていないぞ……」
悠は奏音ちゃんの耳元で「そんなホイホイクラフト使っちゃ駄目でしょ」と小さい声で言う
真奈ちゃんはきょとんとした表情だ
「わかった、次からは気をつけ……ます!」
「そういえば悠先輩と奏音ちゃんが姉妹だったなんて驚きです! 髪の色とか全然違うのに」
「父さんが金髪で母さんが黒髪なんだ、だからねーさんは母さんの髪でワタシは父さんの髪を受け継いだのさ!」
「ちなみに私の場合、父も母も銀髪です。どっちから受け継いだのでしょうか?」
「どっちもじゃない?」
ルーナの質問に悠が普通に答える。僕の「どっちでもいいじゃん!」というツッコミは間に合わなかった……
「え、悠ちゃん。今のは私的にはボケたつもりだったんだけど……」
「ルーナ先輩! 他人に分かってもらえないボケはその時点でボケではなく、ただの戯言ですよ!」
ルーナは地面に手をつき「真奈ちゃん、さりげなくひどいこと言うんだね……」と落ち込んでいた。僕も気をつけよう。
「そういえば奏音、なんで今日はいつもみたいに、髪をサイドポニーにしないの?」
僕も気になっていた事を悠が訊いてくれた、奏音ちゃんはなんでか、髪を結ばず流している
「ん? ああ、イエメンだよ」
「なんで1990年5月、イエメン=アラブ共和国とイエメン民主人民共和国とが統合してできた、アラビア半島南西端の国の名前がでてくるんですかっ!? それを言うならイケメンです!」
「いやいや、真奈ちゃん。それも違うでしょ、それを言うならイメチェンでしょ。ていうか、博学だね……」
「はい、私はどんなボケに対しても突っ込めるように、かなり勉強しましたから」
「勉強する理由が少し残念だな……」
「そんなことはありませんっ! おかげでみなさんと同じ高校に入ることができました!」
「待て待て、うちの学校そんな頭良くないから!」
すっかり蚊帳の外だった奏音ちゃんが一歩前に出て振り返り、こちらを向く。
「話しを戻すと、うん、ホントにちょっとしたイメージチェンジだよ、高校生になったからな! どう? 可愛い?」
「可愛いんじゃない? いてっ」
何者かにふくらはぎを蹴られた、隣の悠は少しご機嫌斜めに見える。
「どうしたの悠?」
「なんでもないもん!」
むすっとそっぽを向く悠。「か、可愛い!」と心の中で叫んだ僕だった。
駅に着き、真奈ちゃんと別れ電車に乗る。
「ところでルーナ、お前の家どこだよ? 悠の家に居候か?」
「まあ、そんなところです」
ルーナは意味ありげな笑みを浮かべた。この後、僕はこの「意味」を知ることになるのだが……、それはずいぶんと後の事になる。