第1話 朝のひと時
朝、デバイスのアラームが鳴り目を覚ます。こう見えてもボクは寝起きがいいんだよ、自慢だね。
目の前には大好きな男の子、東雲空輝君の顔、ついいたずらしてしまいたくなる気持ちを抑える。今日はボクの通っている高校の入学式、ボクはつい先月転校してきたばかりだからほとんど新入生と変わらないと思う。デバイスのスヌーズ機能でもう一度アラームが鳴り、観念した空君はゆっくりと目を開ける。もちろん目の前にはボクの顔、つかの間の沈黙の後、空君の目が大きく開かれる。
「うわっ! えっ!? ななな何でここに悠がいるの!?」
ボクの記憶喪失事件以降空君はボクを「悠」と呼んでくれる、「悠さん」なんて他人行儀な呼び方より絶対こっちがいい、女心って複雑で難しいんだね、自分で言うのもなんだけど。
「長く説明するのと、短く説明するのどっちがいい?」
空君は少し考えて
「短くお願いします」
「うん、空君が大好きだからだよっ♪」
「――ッ」
ウィンクしながら答えると……、空君は白目を剥いて気絶してしまっていた、前にも似たような事があったなぁ。
えいっ! と空君の頬を軽く叩く
「はっ、えっ! 何で悠がここにいるの!?」
記憶が飛んでいた? まさかボクじゃあるまいし。
「長い説明と短い説明どっちがいい?」
またも少し考えて
「長い説明でお願いします」
「空君がとっても好きだからだよ♪」
「短いのも長いのもほとんど大差ないじゃんっ!」
「あはは、しっかり覚えてるじゃん、じゃあまた後でね」
ボクは入ってきたときと同様にはしごを使い自分の家に帰る、いくら時間が早いとはいえ、いつまでも空君の家にいるわけにもいかない、遅刻しちゃうもん。
天野原家1階リビング
「お、ねーさんおはよー」
この金髪の可愛い女の子は、天野原奏音ボクの妹だ、何故姉妹で髪の色が違うかと言うと、父さんの髪が金色だからだと思う、ボクは母さんの髪の色を受け継いだというわけです。
奏音はサイドポニーにしていない、朝だからだろう。いつも思うんだけど、ホントに髪が綺麗、結んでいない金色の髪はサラサラしていて、窓から差し込む光を反射し神々しく輝いている。自分の髪に自信がないというわけではない、奏音とは同じシャンプー、リンスを使っているし、髪には気を使っている、でもジャンルが違う、黒髪対金髪では闘えないのだ、それぞれにそれぞれの良さがある。
「うん、おはよ♪」
「悠、あんまり空輝君に迷惑かけちゃだめよ?」
まさかボクの所業が母さんにばれていたとは
「な、何故それを知ってるの母さん?」
母さんは奏音の方を見る、すると奏音は舌を出して
「いやー、プリンには勝てなくて……」
「なるほどね、ならしかたがないや」
プリンの魔力は凄まじいからね、屈してしまうのは仕方ない
「ねーさん! 今のところ空輝先輩だったら『プリンぐらいでバラすなよっ! お前をバラバラにしてやろうかヒャッハー!』って突っ込んでくれたぞ」
「いやいや、空君はヒャッハーとか言わないからさ」
「早く朝ごはん食べて着替えて来なさいよ、待ち合わせしてるんでしょ?」
そうだった、こんなところでゆっくりしている暇はなかった
ボクは朝食のラーメンをさっさと食べ終えて身支度を整え自分の部屋へと戻った。
ティエラの高校の制服に着替える、サンストニフォン国立学院はなかなか心の広い学校で、親の同意が得られれば、ティエラの高校にも通うことができたりする。
パジャマを脱いだところでカーテンが開いていた事を思い出し、閉めようと窓の方を向くと――空君が目を真ん丸にして立っていた。
……状況整理はじめまーす。
時間はだいたい7時ちょっと前、ボクは自分の部屋でお着替え中、上半身は下着(可愛いの)のみ。窓、カーテン共にフルオープン、隣の家ではボクの好きな人がこっちを見て固まっている。明らかに無意味だと思う質問をしてみよう
「あの、空君……見た?」
……つかの間の沈黙
「きゃーーーーー!!」
空君は悲鳴(?)をあげカーテンを閉めてしまった。
下着を見られるというハプニングはあったけど着替えは終了。ボクから言わせて貰うと、下着を見られるなんて些細な事だと思う、さすがに生を見られちゃうのは恥ずかしいけどね。だって中を隠す為に穿いてる物を見られていちいち恥ずかしがってたら、外なんて歩けないじゃないですか。いやいや、見せてって言われても見せないよ? さすがにそれはないし、そんなことを言う人もいないと思う、そう信じたいな。
「さてと、そろそろ行きますか」
玄関で靴を履いていると奏音に声をかけられた。
「ねーさん、先輩には内緒だぞ?」
「うん、大丈夫。じゃあ行ってきます」
「いってらー」
家を出ると既に空君が待っていた
「あ、ごめん空君待った?」
すると急に空君が頭を下げる
「ごめんなさいっ!」
「えっ!?」
後から来たのはボクなのに、なぜか空君に謝られた
「なんで空君が謝るのさ、ボクが遅れたのに」
「いや、さっき、その、覗いちゃったから」
「あれは空君は悪くないよ、ボクのミスです、ごめんね」
「僕としてはむしろありがたかったんだけど……」
「え? 今なんて?」
よく聞き取れなかった。
「いや、なんでもない! そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ!」
「うん? そうだね、じゃあ今日も1日がんばろー!」
「おー!」
ボクが拳を突き上げると空君もそれに続いてくれる。
空君がいてくれればどんな事でも頑張れる気がする、すっごい頼りになるんだから♪
この後は悠に代わり、空輝がお送りします。