第15話 エルデの街並み
たしかにそこは街だった。池袋や新宿のような、いや、ロンドンといったほうが近いかもしれない。とりあえず、そういった繁華街であることは確かだ。立ち並ぶビルは、やたらと綺麗で建てたばかりのよう。地面には赤やベージュ色のレンガが敷き詰められていて端には木が一例に植えられている。ただ新宿やロンドンと明らかに違うところは車道がなく、車が一台も見当たらないところだ。
おそらく傘で事足りるのだろう、その証拠に空には人が歩いている、飛んでいると表現したほうがいいかもしれないが、どちらでもあまり変わらないだろう。服装はまちまちだ、スーツの人もいれば制服の人、私服の人もいる。ここはティエラと同じだ。
「さてと、まずはゲームセンターでも行く?」
どこへ行くでもなくぷらぷらと歩いていると、悠さんがそう言った。
「ゲーセンか、エルデのゲーム興味あ――」
僕の言葉を遮り、奏音ちゃんが割って入る
「ダメだ! ねーさんがゲーセンに行くと余計な荷物が増える、邪魔だっ!」
「たしかに悠ちゃん無双が始まってしまいますね」
悠さんはしょぼんとする
「ほら、またの機会に行こうよ」
「……うん、そうだね♪ じゃあ他にどこか行くところある?」
「ワタシ、デバイス屋さんに行きたい!」
「何それっ!? デバイスって売ってるの?」
「うむ、クラフトが使えるデバイスは生まれたときから持ってるんだけど、最近はクラフトの使えない補助デバイスがあるんだよ、もちろん意思はない」
「ケータイに例えると、アプリみたいなものだね、デバイスで電話とか、メールとかできるようになるんだよ」
と悠さんが補足説明してくれる、僕の知識と今言われたことを照合し、結論を導き出す。
「賢い電話みたいだねっ!」
「たしかに一つの媒体としても使えるから、クラフトを使えなくてもいいなら先輩でも持てるぞ、女の子にモテるかは別として……ぷっ!」
「一言多いからね奏音ちゃん」
「そうですね。悠ちゃんを攻略したからって、私達まで落とそうとは考えないことです、ギャルゲの主人公じゃあるまいし、痛い目見ますよ」
「そんなことは断じてしないからなっ! 僕は悠さん一筋だっ!」
「言い切ったな」
「言い切りましたね」
「ふわぁ、言い切られちゃったよ!」
「もちろん言い切るとも!」
僕は自信を持っていた、悠さん以上に可愛い子はいない、絶対に浮気なんて考えられない。だがその自信は一瞬にして打ち砕かれた。
「ではテスト」と言っていきなりルーナは自分のスカートを上げ始め、下着が見える寸前のところで止めた。僕の目は彼女の雪のように白い綺麗な太ももに釘付けになってしまった。
「「「なっ!」」」
「がっつり見てましたね空輝さん、不合格です」
「がっつり見てたな先輩」
「がっつり見ちゃうんだね空君」
ジト目で僕を見る三人
「いいものはいいっ!」
確かに悠さんは僕の知っている中で最も可愛く、そして理想の女の子である、だが、男という生き物は目の前の欲望に恐ろしく弱い生き物なのだ。これは浮気とは言わない、だからと言って代わりの言葉は見つからないのだが……。
その後僕は悠さんに一発いただいたが、甘んじて受けよう。
「さあ、着いたぞっ」
ビルの壁に設置されている看板には『オンザマップ』と書いてある、似たような店を知っているがここは異世界、気のせいということにしておこう。
中に入ると、まさに電気屋さんだった。電気で動いているのかは怪しいところだが、見た目は電気屋さんで間違いないだろう。画面レスなパソコンや画面レスなテレビ、おまけに傘まで置いてある
「悠さん、これ画面ないよ? テレビ見れないじゃん」
「ん、これはね。ここを押すと……、ほら」
悠さんがボタンを押すと、SF映画でしか見たことのないような光の画面が展開される、画質もきれいでまるでそこにそれがあるかのようだ。
「すごいね! 映画の中みたい!」
「たしかにこういうのはティエラにないよね」
近くに展示されている傘をみると『早い、疲れない、場所を取らない。の三拍子、長距離飛行ならこれ!』と書いてあった。牛丼みたいだな。
「これすごいんだよ、最近発売されたんだけど、今までのは、あんまり長く飛んでると体力が持たなくてさ、遠くに行くのに時間がかかったんだけど、これなら一っ飛びだよ」
「へぇ、ところでエルデには飛行機とか、自動車とかないの?」
「うーん、あるにはあるんだけど、環境にも悪いしね、最近では専ら傘かなぁ」
「へぇ、環境に優しいんだね」
悠さんは僕の言葉に黙ってしまった、そして数秒唸った後
「環境に優しいって何なんだろうね。環境に優しいっていうけどさ、それって環境が人間たちに優しくしてくれるためにしてるんでしょ? 別に環境がいくら悪くなっても人間の生活に問題がなければいくらでも環境を破壊するよね、まったくやれやれだよ」
ずいぶんとまともなことを言い始める悠さん、僕はびっくりする。
「そ、そうだね……」
「ってこの前ニュースで偉そうな先生が言ってたよ? ボクもそうは思うけど、環境に優しいのはいいことだと思うよね~」
「自論じゃないのかよ! いきなり真面目に話し始めるからびっくりしちゃったよ!」
「ボクはいつも真面目です」
と言いながら綺麗な黒髪をさらっと払う。
「いや、ふざけてるとは言わないけどさ……」
そのあともユニークな電化製品(?)を見て回っていると「せんぱーい、ねーさーん」と呼ばれ奏音ちゃんたちの方へ歩いていく。
「このデバイスどうかな? 最新機種なんだけど、先輩買わないか?」
「え、いや。僕お金ないし……」
う~んと悠さんが隣で悩んでいる。そして
「せっかくエルデに来たんだし、ボクがプレゼントするよ!」
「え、いや、悪いよ! 高そうだし……」
そもそもプレゼントってのは男がするものだ、女の子にされるのは嬉しいけども……
「新規は安いんだよ、学割きくしね♪」
「ケータイかよ!」
ホントにケータイみたいだった。ちゃちゃっと会計を済まし悠さんが戻ってくる。
「はいこれ」
といってネックレス型のデバイスを渡される。
「あ、ありがとう……。大切にするよ!」
「うん! コンセプトは『説明書なんてないんだぜ! 何故って? めんどくさいからだよ!』らしいから説明書見なくても使えると思うよ、ていうか無いよ」
「それって簡単だから説明書作らなかったんじゃなくて、めんどくさいから作らなかったんだよね!?」
金色の長方形のネックレスを指でなぞると光の画面が展開される、アイコンは分かりやすく、タッチで操作できるようなので何とかなりそうだ。ていうか、これどんな技術使ってるんだろう……。デバイスをいじっていると隣から声がする
「あああ~~~~~~~~」
変な声のする方をみるとルーナが変なことをしていた。変なことだ。金色の扇風機に向かって声を発していた。
「へぇ、エルデにも扇風機はあるんだねって――おいっ!」
「な~ん~で~しょ~う~~~?」
「ルーナじゃない! 奏音ちゃんそんなに早く髪を回して疲れないのか?」
扇風機だと思ったもの、それは奏音ちゃんの金髪サイドポニーだった。本当の馬の尻尾のようにすごい勢いで回っている、これなら夏も快適に過ごせるだろう、と思ったが、残念ながら回している本人は相当疲れるようで、汗だくだ。これでは暑苦しくて実用化は不可だな。
「はぁはぁはぁ、ルーナ先輩、こういうの、はぁ。無茶ぶりってやつですよ……」
「ちなみに私のツーサイドアップは水中を素早く移動するのに適してます」
「マジで!?」
「マジなわけないじゃないですか、冗談です」
そういいながらどういう仕組みかはわからないが手を使わずに、ひゅんひゅんと髪を回転させるルーナ、あながち嘘ではないのかもしれないところが怖い。すると首をかしげる
「? 空輝さん、ツッコミが来ませんね、頭でも悪いんですか?」
「いや、冗談に思えなくて――って頭悪いってどういうことだ! その通りだよ!」
「わーお、認めちゃいました! さらに私のツッコミまで奪っていきました! やりますね……」
そこで悠さんのケータイが鳴る。
「漫才中悪いんだけど準備出来たみたい、行こうか」
そうして僕たちは学校へ向かった。