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ツッコミはある日突然に  作者: ついしょ
第一章 ツッコミはある日突然に
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第14話 寮から街へ

 部屋を出ると、そこはヨーロッパのゴシック様式の大聖堂を彷彿とさせる廊下だった。

 窓にはステンドグラス、そこからは光が差し込んでいて、なんとも神聖な雰囲気、壁にはランプも並べられている。休日の午前ということもあってか、歩いている人は少ない。その中で確認できる髪の色は黒、赤、茶色、明らかに今いる場所が日本でないとわかる。

 悠さんについて行くと広い空間に出た。エントランスホールといったところだろうか。

 天井は高く、大きなシャンデリアがぶら下がっていて、ところどころに彫刻が彫られている。どうやらここは二階らしい。なぜなら中央には城にあるような、やたらと広い階段があり、その両端には明らかに不釣り合いな近代技術、エスカレーターがついているからだ。

 コツコツと歩くたびに響く大理石が高級感を出している。

海外旅行に来たような気分だ。考えたらここは寮なんだよな、寮でこの規模となると学校はこれ以上だと予想される。

 無駄に大きい扉をくぐり外にでると――庭が広がっていた

 中央にはこれまた豪華な噴水、その向こうにはよく整理された林が広がっていて、それを貫くようにレンガの道が通っている、そこが外に通じているようだ。

「どこの豪邸だよ……」

「はっはっは、サンストニフォンの技術はエルデ一なんだぞっ!」

 慎ましい胸を張って威張る奏音ちゃん

「そうだね、私も初めて来たときは驚きました。私の国には、これほどのものはありませんでしたから」

「私の国? ルーナは外人さんなの?」

「はい、私はサンストニフォンに留学に来ているんですよ、私の国はとにかく雪が綺麗です」

 胸を張るルーナ、サンストニフォンは技術で勝っていても、バストは完敗だった。

「サンストニフォンに銀色の髪を持つ人はいないんだよ、綺麗だよねルーナちゃんの髪」

 ルーナのツーサイドアップがぴょこんと跳ね

「ほ、褒めても涙しか出ないんだからっ!」

「どんだけ嬉しいんだよっ!」

 僕のとなりの奏音ちゃんは金髪のサイドポニーをブンブンとプロペラよろしく振り回している。そして視線で悠さんに「どう? ワタシの金髪はどう?」と訊いているようだ。

 悠さんはそれを完璧にスルーして僕の方を向く

「空君、どこか行きたいところある?」

「グラビティーーーーーーッ!!」

「いや、任せるよ。そもそも僕はなにがあるかもわからないしね」

「あ、そっか。そうだったね」

 奏音ちゃんは地面に手を付き「ねーさんにまで……」と落ち込んでいた。

 ルーナはその肩に手を置き

「大丈夫、奏音ちゃんの金髪も黄金虫みたいに綺麗だよ!」

「うう、ルーナ先輩。誉めてくれるのはとっても嬉しいんだけど、ワタシの髪を虫に例えないで欲しい……」

 素直に喜べない奏音ちゃんだった。

 門を出る前に、部屋を出てからずっと気になっていた事を聞いてみる

「あのさ悠さん、なんでこんなに晴れてるのに三人とも傘を持ってるの?」

 寮の部屋をでるとき、みんな当たり前のように傘を持って出たのだ。外は雨が降っているのかな? と思ったが、そんなことはなく、雲一つない青空が広がっていた。

「ん? あー傘ね、すぐわかるよ♪」

 弾むように言う悠さん。すぐわかるのか……

 門を出て僕は驚いた、かなり驚いた。門の外は一面湖が広がっていて、向かいの岸までは一キロから二キロくらいあるようにみえる。

「これって、どういうこと?」

「あっちに見えるのが街だぞ」

 そう言って指をさす奏音ちゃん

「ああ、船でも来るのか」

 ルーナがこいつは何を言っているんだ? といった表情で

「船なんて来ないですよ」

「なるほど、泳いで行くのか」

「はい、そうです。水着は持ってきましたか?」

「んなわけあるかっ! 今のはボケだよ、突っ込んでよ! ボケを空振るほど悲しいことはないよ!」

「んなわけあるかっ!」

「遅いよっ! 明らか遅いよっ! 駅の改札に着いてから財布忘れたことに気付くくらい遅いよっ!」

 ルーナは「ぷっ」と笑い

「それは遅いですね、ドジっ子可愛いです」

「お前だよっ!」

「たしかに私は可愛いかもしれないですが、ドジっ子ではありません。ツンデレですっ」

「ツンデレは自分でツンデレって言わないからねっ!」

「可愛いって事は否定しないんですね」

「……可愛いってよりは綺麗って感じかな」

「恥ずかしい事をさらっと言いますね、ありがとうございます」

 ルーナは頬を染めながら言った。

「さて、ワタシの出番だぞ! ついにワタシの出番だぞ! 空輝先輩、この湖はな、飛んで渡るんだ!」

「は? 何言ってるの奏音ちゃん、ついに頭壊れたか?」

「こんの野郎! いい加減にしないとワタシもキレるぞ!」

「ごめんごめん、悪かったよ。それで飛んで渡るってどういうこと?」

「ここでこれを使うんだ」

 そういって傘を見せる奏音ちゃん。傘を何に使うのだろう?

「傘だね」

「先輩には言ってなかったが、ティエラにいるときと、エルデにいるときでは、使えるクラフトの出力が違うんだ。つまり、ティエラよりもすっごいことができるのさ!」

「まさか、傘で飛ぶの?」

 今の説明から至った結論を言ってみる。

「その通りだ。ちなみに、なんでティエラでは制限がかけられるかというと。昔モーセって人がティエラで海を割ったんだとさ、エルデはできるだけティエラに干渉しないようにしてるのに、それはさすがにまずいでしょ? だからそれ以来生命の危機でもない限りは、あんまり派手なことはできないようになってるんだ」

「なるほどな。って、モーセってエルデの人だったの!? あれだよね、シナイ山でヤハウェと契約を結んだっていわれてるあの人だよね?」

「おお、よく知ってるな先輩」

 まさか過ぎた、モーセが異世界人だったなんて。

「さてと、じゃあ行こうか♪」

 悠さんが傘を開く、それにつられてルーナと奏音ちゃんも開く。

「ちょっと、僕は!?」

「ボクと一緒に行こう、二人乗り初めて~」

「え、二人乗りって、自転車みたいな気軽さだけど、大丈夫なの? 傘でしょ、途中で落ちたりしないの?」

「大丈夫だよ、空君はボクが護るもの」

「その言葉は凄い嬉しいんだけどさ、どっかで聞いたことある気がするよ!」

「笑えばいいと思うよ?」

「あははって、それちょっと違うけど多分僕のセリフ!」

「じゃあ掴まって」

 僕は悠さんの傘の柄に掴まる、悠さんはその上から握るので僕の手と重なって、とてもドキドキしてしまう。

「せーのっ、テイクアウト!」

「お持ち帰りじゃなくてテイクオフだからねって、うわあぁぁ~~~~!」

 気球のように、だが気球には出せないような速度で上昇する傘。足場はないのにどうしてか、柄は軽く握っているだけで大丈夫なようだ、重力をほとんど感じない。悠さんの手が僕の手を優しく握ってくれている。

「大丈夫?」

「う、うん。すごいね! ホントに飛んだよ!」

「まぁエルデでは当たり前のことなんだけどね、でも空君が喜んでくれて嬉しいよ♪」

 にこっと笑う悠さん。あ、今気が付いた。これ相合傘だ!

 傘は上昇をやめ街へと向かう。だいたい上空百メートルといったところだろうか、けっこう高い。

「こういうのって跨いで飛ぶものだと思ってたけど、違うんだね。なんか歩いてるみたい」

「えへへ、そうだね。ティエラでは箒に跨いで飛んでる人たちがいるもんね」

「フィクションでしょ!?」

「でも、それがイメージできるってことは、昔はそうやって飛んでたんじゃないかな?」

「ど、どうだろうね」

「あ、これ相合傘だね空君! 空を飛びながら相合傘ってなんかロマンチックだね♪」

「そ、そうだね……」

「空君顔赤いよ、大丈夫? 高いの怖い?」

「いや、違うよ! その、悠さんがこんなに近いんだもん……」

 いきなり高度が下がる、まるでフリーフォール。

「うわぁぁ!」

「ごごごごめん! ちょっと空君、恥ずかしいこと言わないでよ、て、照れるじゃないか……」

 どうやら操作を誤ったようだ、どう操作をしているのかは分からないが、迂闊に変なことを言うのはやめよう。命にかかわる。

 少し後ろをついて来てるルーナと奏音ちゃん

「奏音ちゃん、なんか見てて恥ずかしくなってくるんだけど」

「あ、奇遇ですね。ワタシもです」

 傘のくせにかなりスピードが出ていたようで、五分くらいで街に着いた。



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