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ツッコミはある日突然に  作者: ついしょ
第一章 ツッコミはある日突然に
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第13話 異世界は案外近いところに

 光を抜けると寮の一室のような、しかし寮にしては広く、整理された部屋に出た。

 ど○でもドアみたいな押入れだなと驚いたが、僕をそれ以上に驚かせる光景がそこには広がっていた。

 艶やかでさらっとした白銀の髪は腰まで届いていて、それをツーサイドアップにしている、肌は雪のように白く、眼は少しつりあがっていて瞳はサファイアのように青く透き通っている。まるで精巧に作られた人形のような顔立ちをしていて『可愛い』というよりは『美しい』という印象を受けた。そして彼女は悠さんにはない『あるもの』を持っていた。『胸』である。僕はあまり大きさを気にしないが、彼女の胸部には女性の最大の魅力の中の一つであり、男のロマンである双丘があった。悠さんの胸をみかんと例えるならば、彼女のそれはりんごといったところだろう。

  そろそろお気づきではないだろうか、何故僕がここまで胸の大きさを正確に表せているかということに。

 僕がネコ型ロボットの秘密道具よりも驚いたこと。

――――彼女はお着替え中で下着姿だったのだ。上下ともに白と水色の縞模様……。

「…………」

「…………え?」

 徐々に彼女の顔が赤くなっていき――――叫ぼうとしたのだろう。だが彼女は叫ぶことができなかった。

「どーんっ! 先輩、立ち止まってたら危ないぞ、後ろから人出てくるんだから!」

 押入れから出てきた奏音ちゃんに僕が突き飛ばされた。不意の突撃に僕はよろけ、前にいた銀髪美少女(下着姿)にぶつかり、彼女を後ろにあったベッドに押し倒すこととなった。

「うわっ」

「きゃっ!」

……吐息がかかる距離。目の前には綺麗な瞳、視線を少し下げるとしっかりと谷間ができている。

 一瞬の沈黙の後――

「あの、その……見かけによらず、大胆なんですね……恥ずかしいです」

 銀髪美少女はジト目で僕をみながら、ハープの音色のような声で言った。

「いや、今成り行き分かってたよねっ!?」

「私が着替えていたところに貴方があらわれ、押し倒されました。恥ずかしいです」

「大事な部分が抜けているっ!?」

「間違ってますか? とりあえずそこをどい――」

「ちょっと空君! ルーナちゃんにナニしてるのさっ!?」

 奏音ちゃんのあとから来たであろう悠さんがあわてた声で言った

「ルーナちゃん?」

 僕は銀髪美少女から飛び退いた。

「自己紹介はひとまず置いておいて、先に着替えたらどうだろう先輩?」

「え? 僕は着替える必要は――」

「ああっと、失礼。彼女もワタシの先輩なんだ」

 僕は後ろを向き着替え終わるのを待った。

「あの、もういいですよ」

 悠さんと奏音ちゃんと同じ制服を着たルーナと呼ばれていた少女が言った。

「あ、あの。さっきはごめん……」

「気にしないでください、私は大丈夫です。勘違いしてくださいよ? 私すっごい恥ずかしかったんですからね! 大丈夫って言うのも所詮は建前ですっ!」

「建前かよっ!」

 初対面なのに突っ込んでしまった。

「えーとね、空君。こちらはボクのクラスメイト、ルーナちゃんだよっ」

「はじめまして、ルーナ・ソネモーントです。気軽にルーナって呼んでください」

「ここここちらこそはじめまして! 僕は東雲空輝っていいます。よろしく」

 握手をすると、彼女の手がとてもきれいだということが分かった。見た目だけでなくさわり心地も最高だ! って僕は何言ってるんだ……。

「はい、握手はそこまで! 空君ちょっと変なこと考えてなかった?」

 むっとしながら悠さんが上目遣いで聞いてきた。見事に見抜かれていた。

「いやいや、ぼ、僕は悠さんラヴだよ!」

「ふえっ! そ、そんな! ふえっ!」

 悠さんが真っ赤になった。

「なるほど、貴方があの空輝さんでしたか」

「え、僕のこと知ってるの?」

「ええ、ここは学院の寮で私と悠ちゃんの部屋なんですけど、最近悠ちゃんずっと貴方のこと見ていましたし、口を開くたびに空君、空君って」

「え、そうなの!?」

 僕が聞きたいぐらいだったが、この質問をルーナにしたのは悠さんだった。

「そういえば悠ちゃん記憶が一部ないんでしたね、奏音ちゃんから聞きました」

「うん、ないんだよ」

 しゅんとする悠さん

「ところで僕を見てたってどうやって?」

 たしかに悠さんは僕に初めて電車会った時「ストーカー行為をしていた」と言っていたがこのことだろうか。

「ティエラの空輝さんが知らないのは無理ないですよね、お見せします。勘違いしてもいいですよ?」

「つまり本当は見せたくないってこと?」

「見せたくて仕方ありません」

「何その露出狂みたいな発言!?」

 ルーナはパソコンのようなものを出し、おなじみのグー○ルマップを開いた。

「これです」

 ドヤ顔で言うルーナ。

「いやいやっ! これはえーと、ティエラ? にもあるし、これ人は写ってても顔が判断できない程度でしょ?」

「これにクラフトで――」

 ルーナの指の付け根が光った。正確に言うと、彼女の指輪が光った。

「ルーナのデバイスは指輪の形なんだ」

 一瞬悠さんがこっちを見た気がしたが、気のせいだろう。

「はい、そうですよ、よくデバイスのことをご存知で。最近はイヤリングとかピアスとか、何でもありです」

「そうなんだ……」

「えーと、奏音ちゃん私はティエラのことあまり知らないから」

「ああ、そうだな。ワタシに任せてくださいっ」

 そういってパソコンを受け取る奏音ちゃん、珍しく敬語を使っている。

「とりあえず、美佳ちゃんでいいかな、座標は東雲家……、よし」

 そういって僕にパソコンを向けると。

――美佳が冷蔵庫に置いてあった僕のシュークリームを食べていた。

「あの野郎! 僕のシュークリーム!」

「シュークルートですか?」

「いや、キャベツを薄塩で漬けて自然発酵させた酸味のある食べ物じゃないから!」

「辞書みたいな説明ですね、ちなみにドイツ語で言うと『ザウアークラウト』です、ちょっと待ってて下さい」

「今はいらないからねっ!? ていうかあるの!?」

「勘違いしているようですね、悠ちゃんにあげるんです」

悠さんは困った顔で「え、ボクもいらないよ……」

「そう、おいしいのに……」

 しゅんとするルーナだった。

「と、まぁこんな感じでエルデのパソコンは便利なんだ」

「超便利って、法律に触れそうだな!」

「ボクはこんなことしてたのか、ごめんね空君♪」

 ちっとも反省の色は見えないが、可愛いから許す! 可愛いは正義!

「可愛いから許す!」

「あの、ところでそろそろ学校行かないとじゃないかしら、早い方がいいって連絡だったけど」

 ルーナが言う。

「そうだねっ、じゃあ行こうか空君!」

「ちょっと待って! 僕、学校入れるの?」

 悠さんが奏音ちゃんの方をみる視線で聞いている。

「だ、大丈夫……じゃないかな?」

 奏音ちゃんは作り笑いを浮かべている。

「大丈夫ですよ、こんなこともあろうかと」

「あろうかと?」

「吉野君に言っておく予定を立てました」

「あの、えーと。その吉野君が誰だかは知らないけど、予定を立てただけ? 実行してないような言い方だったけど」

 はっ、となるルーナ。にこりと笑った後

「しまったぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 僕の中で一瞬定まったルーナのキャラが崩壊した瞬間だった。

すると悠さんが僕の側に来て、顔を近付けてくる。そして耳元で

「ルーナちゃんは基本的に落ち着いた子なんだけど、たまに暴走しちゃうんだ。まぁそこがいいところでもあるんだけどね」

 本人に聞こえないための配慮なのだろうが、僕はそれどころではなかった。

 耳にかかる悠さんの吐息、微かにかおる甘い匂い。僕の脳はオーバーヒート寸前だった。

「そそそ、そうなんだっ!」

 悠さんは僕の慌てっぷりを見て首を傾げる

「どうしたの? 顔真っ赤だよ」

「いや、なんでもないよっ! ところでどうする? 僕学校入れないんじゃない」

「んー、そうだね。生徒会長にでも言ってみよっか」

 おもむろにケータイを出しボタンを操作する

「あ、かいちょーさんですか? 天野原です、悠です。お願いがあるんだけどいいかなー?」

 なんか、やたらフレンドリーな話し方だが、生徒会長ってどんな人なんだろう。僕の知ってる生徒会長は、高校生とは思えないほど子供だったり、羽が生えたり、下ネタ好きの変態だったりする、全部アニメだが……、さすがにそれはないだろう。

「はーい、じゃあまたあとでー」

 ケータイを閉じる悠さん

「何とかしてくれるって」

「へぇ、いい人そうだね、生徒会長」

「許可下りたら連絡するからそれまで、ぶらじゃーしてきなよって言ってくれた」

「前言撤回、なんだその変態」

 おそらくぶらぶらということを言いたかったんだろう、悠さんになんてこと言わせるんだ、変態生徒会長め

「うん? けっこう面白い子だよ」

「ところでさ、学校行かなくていいの?」

「うん、今はこっちも春休みだから行っても行かなくてもいいんだよ」

「へぇ、まあわかった事にしておくよ」

 細かいことは気にしないことにしよう、なんせ異世界なのだから。

なかなか会話に入れずにうずうずしていた奏音ちゃんがここぞとばかりに割って入る

「質問かっ!? 質問ならワタシが受け付けるぞっ!」

「ところで悠さん、これからどうしようか、少し時間あるんでしょ?」

「!? スルーっ!? 今ワタシスルーされたっ? 空気先輩のくせにワタシをスルーしたのか!! 空気にスルーされたワタシはなんなんだっ!? どんな存在に成り下がるんだっ」

奏音ちゃんが衝撃を受けて騒いでる

 ルーナがなだめるように、奏音ちゃんの肩に腕をぽんとおき

「重量だな……」

「グラビティーーーーーーッ!!」

やたらとテンションの高いグラビティー、もとい奏音ちゃんだ。

「そうだねー、じゃあエルデの街を案内してあげる! デートだよ初……、じゃないんだよね、ごめん……」

「いやいや、謝ることないよ! 嬉しいな! 楽しみだよっ!」

 悠さんは笑顔浮かべ「じゃあ行こうか♪」と立ち上がった。

「私達も行っていいのかな、奏音ちゃん」

「ダメって言われてもついて行きますけどねっ!」

「うん、みんなで行こうよ」

 ちなみに悠さんが電話をし始めたあたりからずっと、ルーナは黙々とシュークルートを食べていた。なんでそんなもんが冷蔵庫に入ってるんだよ……。


設定裏話 ルーナ・ソネモーント ソネ:Sonne ドイツ語で太陽 本来の読み方はゾネですが、そこは御愛嬌 モーント:Mond ドイツ語で月 

 

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