第9話 よくわかる奇跡の起こし方
東雲家一階リビング。
僕はそこで美佳と奏音ちゃんにお説教をされていた。正座で。
何故説教をされているかは言うまでもない、男子禁制の僕の部屋に不可抗力とはいえ立ち入ってしまったからだ。
男子禁制の僕の部屋ってなかなか面白い状況だな。
「だからね兄さん! いくら妹が悲鳴をあげたからって、中の状況を知ってたら開けちゃいけないと思うの!」
元はといえば奏音ちゃんが窓から侵入したのが原因何だが……。
「ごめんなさい」
「だからさ、先輩! 何で半裸のねーさんがいると分かっている部屋のドアを開けたのさ!」
「ごめんなさい」
「ところで兄さん、こいつ誰?」そういって美佳が指を差すと、奏音ちゃんはむっとした。
「お前こそ誰だっ! 年下だったら先輩って呼ばせてやるんだからなっ!」
「十五歳だけど?」
奏音ちゃんはむっとした表情がらぐぬぬという表情になった
「な、何月生まれだっ!? ワタシの方が早かったらおねーちゃんって呼ばせてやる!」
「五月だよ」
奏音ちゃんはなんてこったという表情になった。だんだん面白くなってきたぞ
「うひゃあ! 何日だっ! ワタシの方が早かったら……、奏音様って呼ばせてやるんだからなぁ!」
いい加減ツッコんでやれよと僕は思うのだが……
「三日だよ」
「うわぁぁぁーーーーーんっ!」
奏音ちゃんは泣きながら部屋を出て行った。
――数秒後。
「あ、フロン先輩、サンダル借りますね」
「僕はクロロフルオロカーボンじゃないっ! そもそも温室効果ガスじゃないっ! 空輝だ!」
そんな僕の喚きは完全にスルーされ、また泣きながら出て行った。
奏音ちゃんがいなくなった東雲家、とても静かだ……。
「それで兄ちゃん、さっきの誰? やたら可愛いかったけど」
やはり奏音ちゃんは可愛いいようだ、女の目から見ても可愛いようだ。
「ああ、天野原奏音ちゃん、悠さんの妹だってさ。僕もさっき知り合ったんだ」
「え、マジでっ!? 何で金髪なの!? たしかに似てないわけじゃないけど……」
「僕もよくわからないから、帰って来たら奏音ちゃんに聞いてみてくれ」
そして数分後『ピーンポーン』と家のチャイムが鳴った。
「はい」と僕が玄関のドアを開けると、少々息を切らせた奏音ちゃんが立っていた。
「や、やぁ空輝先輩……」
「おかえり、どうしたの奏音ちゃん? とりあえず上がってよ」
「ああ、あとサンダルありがとうでした」
そしてリビングへ行き美佳の前へ
「どうしたの蒼ちゃん?」
美佳が不思議そうに訪ねると
「そ、その……先程は申し訳なかった、お詫びと言ってはなんだけどこれを」
そういって差し出したビニール袋にはジュースとお菓子が入っていた、これを買いに行っていたのか、変に律儀な奏音ちゃんだ。
「え、いいのに、年は同じでしょ?」
「いやたとえ三日でも年上は年上だ、処分は如何様にでも……」
美佳は困ったように僕の方を見るが僕は助けを求められても困るので首を振る。
「そうだ! じゃあ友達になろう! 喋り方も普通だよ? 私は東雲美佳、そこの兄ちゃんの妹だよ」
奏音ちゃんはまたも太陽のような笑顔になり
「おおぅ! 兄妹揃って寛大なんだな東雲家! ワタシは天野原奏音、悠ねーさんの妹だ! 宜しく頼むぞ!」
「ところで五酸化二窒素先輩、ワタシの出身について話したか?」
「いや、僕は水と反応して硝酸とか作れないからね、いい加減気体の名前言うのやめてくれないかな? 確かに名前は空輝だけどさ、空気じゃないんだよ? くそう紛らわしい。ああでも出身の方はまだだよ、勝手に話すには少し重大すぎるかなと思ったからさ」
美佳は首を傾げる。
「どういうこと?」
「賢明な判断だ先輩、ありがとう。では話そうワタシは――」
「えっーーー!?」
突然美佳が叫んだ。奏音ちゃんは困惑した表情で
「ど、どうしたの美佳ちゃん!?」
「うん、多分驚くだろうから、先に驚いておいた」
「ああなるほど」
「そこで納得するのかよっ!」
僕はついツッコんでしまった。
奏音ちゃんが一通り話した後美佳が口を開いた
「なるほどね、よし麻雀をしよう。私に勝ったら信じてあげる」
「麻雀? ああ、エルデでは一巡目に勝負がつくから、つまらないと言われて今ではほとんどやらないあの麻雀か」
一巡目ってどんだけだよエルデ……
早速牌を用意する、三人麻雀だ。サイコロを投げ親を決める、奏音ちゃんのリングはもちろん光っている。
「あ、私が親だ」
奏音ちゃんが親になった。まさか、この流れって……
牌を配り終え――
「ツモだ」
「「なっ! 天和!?」」
僕と美佳の驚きの声が重なった。
「天和、大三元、四暗刻、字一色」
牌を開くとそこには言った通りの役が揃っていた。どこの麻雀漫画だよ……
「あ、有り得ない……」
「平等に確からしい確率ほどいじりやすいものはないからね。これで信じてくれたかな美佳ちゃん?」
「う、うん」
「じゃっ」
一言そう言って帰ろうとする奏音ちゃん
「ちょっとまってよ! 悠さんはどうなるのさ、せめてそれだけでも説明してから帰ってよ!」
奏音ちゃんはすっかり忘れていたようだ。
「おぉっと、そうだったそうだった、ねーさんのことだし、寝てればそのうち起きると思うよ?」
「えっ? じゃあどうしてさっき深刻そうな顔をして出て行ったの?」
そう、彼女は先ほど僕のした「悠さんは大丈夫なの?」という質問に答えずに自分の家に帰ってしまっていた。
「おいおい先輩、毎週買ってるマンガは発売日に買ってこそだろう?」
「お前……、まさかマンガなんか買うために僕にとてつもない心配をさせたのか?」
「わわわ、悪かったよ先輩! そそそそんな怖い顔しないでぇ」
奏音ちゃんは今にも泣きそうな顔で言った。僕はそんなに怖い顔をしているのだろうか。
「まぁ、悠さんが大丈夫ならいいけどさ……」
そのあと美佳が奏音ちゃんの耳元でこっそりと「兄さんは滅多に怒らないけど、マジで怒ると怖いから気をつけてね」
と言っていたのは聞こえなかったことにする。そんなに怖くはないと思うのだけれど……