表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏現実紅殺戮 愛情は狂言  作者: 三月べに


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/19

少女は人形玩具



 朝陽に目を覚ます。

締め切られたカーテンの隙間から差している。気分は最悪だ。

喉はカラカラ、顔には涙が乾いた跡、身体中がまた痛い。

ボヤけた感じが頭に残っている。


「いやー、お目覚めかい、眠り姫」


寝返りをしようとして右に目を向けたら、そこに見知らぬオッサンがいた。

ハスキーボイスの草臥れた顔のオッサン。

あたしは視認した瞬間にベッドと棚の間に在ったベルトにある短剣を掴んでオッサンの肩に突き刺した。


「ははは、威勢がいいな。お嬢チャン」


しかしオッサンは笑顔のまま短剣を引き抜いて言った。あたしはもう一つ短剣を取ろうとしたが。


「待て待て、恩人を串刺しにしないでくれ。私はお嬢チャンに刺されるために永眠から起きたわけじゃないさ」

「………吸血鬼がなんで、起きてるんです?」


身体が重くて起き上がれない。敵ではなさそうだ。


「お嬢チャン、あのメモリカードを何処から手に入れた?」


あ、と思い出す。

あのパソコンの画面を見てからだ。あれが元凶。

頭痛に騒音に痙攣。


「貴方が…治したの?」


幸樹さんは何故かラトアさんを連れてこいと言っていた。この人も吸血鬼だ。

吸血鬼が治したのだろうか。

「こんなもんが、偶然お嬢チャンの手に渡るなんて世も末だな」とオッサンは手にするメモリーカードを見た。


「お嬢チャンの中に悪魔が入り込んだ」

「は?」

「頭の中で叫んでたのは、悪魔だ。私は悪魔退治の専門、の吸血鬼さ。ははは、十年前から墓で眠ってたのに叩き起こされちまったよ。運がよかったな、私の居場所はハウンしか知らなかった」


悪魔?ハウン?

そういえば、ハウン君もいたっけ。


「ハウンに好かれてるようで」


オッサンはあたしの腹部に目を向けた。やけに膨らんでいる掛布団を捲れば、そこにはハウン君が。

お……重いと思ったら…。

あたしの腹の上に頭を置いて眠っている。


「悪魔って……貴方達が戦争した相手?まさか、そのメモリに入ってたとでも言うの?」

「あれ?お嬢チャン知らないのかい?悪魔は人間の手で機械の中に閉じ込められたのさ。奴等、電気と気があってたせいかねぇ、ほら、ゴース○バスターみたいな感じで掃除機でスッポリ入った、ははは。時代が変わるにつれて、最終的にコンパクトになったんだ」


それがこれ、とメモリーを見せ付けるオッサン。


「数少ない、悪魔の生き残り。人間達があちらこちらって混ぜてなくしちまってどこにあるかわかりゃしねー中、運が悪い奴がメモリーを開いて殺される」


パキッとメモリを握り壊した。

回収し損ねた地雷を踏みつけた、ということか。あたしは運が悪いのかよかったのか、一体どっちなんだ。

悪魔が封じられたメモリー。

それを。あの人は知っていのか?


「悪魔は殺した────と、言っておいたが違う」

「は?」

「お嬢チャンのケースは稀なもんで、私にも無理だった」


草臥れたオッサンは、にぱっと笑っていった。


「は…はぁ?何それ」

「悪魔は脳に直接叫ぶ。悪魔の悲鳴だ。それで殺すか、或いは話して取引を持ち掛ける。それだけなら、私が引き剥がして殺せたが……特殊な悪魔で、お嬢チャンから引き剥がせなかった」


引き剥がせなかった。

つまり───あたしの中にまだ悪魔がいる!?


「そこの」


あたしが口を開かないようにしわくちゃの手でオッサンは押さえ付けた。びくともしない。


「小僧達には悪魔はもうお嬢チャン達を苦しめないと言っておいた」


指差すのは、椅子に座って大口を開けて眠っている白瑠さん。その後ろにはPCを大事そうに抱えて壁に凭れて眠っている藍さん。ドアの隣には、ラトアさん。


「いや、悪魔は殺したと嘘ついた。嘘は嫌いだよ、胸が痛いなー。でも仕方ない。お嬢チャンを救う方法は悪魔を封じるか一思いに殺すかの二択だけだったからさ」


封じるか───殺すか。


「何故か悪魔はぴったりとお嬢チャンの中に引っ付いた。奥のそのまた奥に、潜んじゃったのさ。悪魔の気持ちはわかるよ、私だってこんな美女から離れたくない」

「…美女ではありません」

「ああ、すまないね、絶世の美少女か。………ん、それは嘘が混じるな」


自分で勝手に言ったんだろ。


「特殊な悪魔じゃなきゃ容易く引き抜けたんだがな。仕方なく封じた。生き埋めってやつさ」

「何故彼らに嘘を?」


悪魔を封じ込めたのはわかった。どうして白瑠さん達に嘘をついたんだ?


「時間がなかったのさ。血相かいて心底心配してたから、一思いに殺す選択はとらないと思った。かと言って悪魔を封じるなんて選択を選ばないだろう?お嬢チャンを生かすって選択を私が選んでやった。嗚呼、この事はくれぐれも黙っておいてくれ。殺される最後なんて御免さ。私は世界の終わりまで平穏に眠っていたいからな」


草臥れた顔で笑う吸血鬼。

自分の身が可愛いか。

知ったら笑顔で白瑠さんは頭蓋骨を破壊しかねない。もし話したら、どっちを選んだかなんて、わからないけれど。


「封じたって……どうやって?」

「おいおい、そんなこと聞いてエクソシストになるつもりなのかい?お嬢チャンが訊くのはその効力がいつまで続くか、だろう?」


あたしは黙って睨み付けた。


「効力はわからん。その悪魔の力量がわからないからな………少なくともそう半年は持つだろう」


こめかみを指差してオッサンは答えた。

悪魔の封印の効力、早くて半年。


「解けたら?」


それが重要だ。


「取引したらお嬢チャンが我々(、、)の敵になる」


吸血鬼の───敵。


「お嬢チャンを殺すか、或いは取引を持ち掛けてくるだろう。なんであれ吸血鬼を滅ぼす為に必要なことさ。取引したら、その時はお嬢チャンを殺すしかないだろう。吸血鬼全員がお嬢チャンの敵になる」


あたしは、ハウン君とラトアさんに目を向けた。


「お嬢チャン次第だ。甘い誘惑にも地獄に似た苦痛にも負けないでくれよ?ははは、ハウンをこれ以上無口にさせないでくれ」

「ハウン君…?ちょっと、待ってよ。解けたら何かないの?あの笑う不快な奴をなんとかできないわけ?半年後にまた頭で騒がれるのを堪えろっていうの?」


取引をしたらの話を訊いてるんじゃない。また騒ぎ出した悪魔の対処法が聞きたい。


「ははは、それを教えたら悪魔まで知ることになっちゃうじゃんか」


笑ってオッサンが手を振った。


「……聞いてんの?」

「お嬢チャンの頭にいるんだから当然さ」

「半年後まで悪魔が同居して生活を覗き見られるんですか?」

「さー知らないさ。可能性はあるだろう。頭にいるんだし今の話まで聴こえてるかも……ね」


オッサンは、そう顔を近付いて囁いた。

頭の中。

嫌なところに封じやがった。悪魔に覗き見られ聞き耳立てられる。

青ざめた。が直ぐに思い返す。


「わかった、じゃあ何かあるんですよね。この悪魔をなんとかする方法」

「勿論。おにーさんが助けてあげよう」


胸を叩いてオッサンは答えたが、どうにも信用できない。

今殺さないのならば、何かしら方法があるのだろう。


「信用……出来るんですよね?」

「ハウンを信用するなら」


またハウン君の名前が出た。


「ハウン君と何の関係があるんです?」


問えば頬杖をついてオッサンは草臥れた笑顔を見せる。


「ハウンが吸血鬼になった時からの世話役なんだ、私は。言わば父親代わり。元は神父さ。名はジェスタ」


元神父でハウンの父親代わり。


「ほら、見ての通り幼いだろう?ハウンはその幼さで吸血鬼になったからな、誰かが面倒見なきゃいけなかった。私にとっても息子さ。だから、息子のお気に入りは殺したくはない」


それが救う動機になる。

そして、ハウン君次第でもあるんだ。

幼い姿で長い時間を生きる吸血鬼。

喋ってくれたのだから、少なからず好いてくれていることは間違いのだろう。だからこの吸血鬼を呼んでくれたらしい。

信用はできる。だから、あとはあたし次第。


「あたしが敵になることはありません。あたしは吸血鬼が好きなんで」

「それっておにーさんに告白してくれてるのかな?」

「どうかしら」


ふん、とあたしは鼻で笑う。白い肌で墓から出てきたオッサンに見えるが、吸血鬼には見えないからコイツは好かないだろう。


「頭の中が騒ぎになったらハウンに私を呼ばせればいい」


そう言って大欠伸をした。本当に神父だったのだろうか、疑ってしまう。


「さて、私も眠ろうとしよう」

「何故あたしのベッドに入ろうとするんですか?」

「いや、私は美女と同じベッドじゃないと眠れない病気なんだ」

「墓場で寝てたんでしょアンタ」


一応助けになったからあたしは仕方なくベッドを譲った。汚れたらどうしよう。


「あー、一つ確認し忘れてたんだが」


リビングのソファに行こうとしたら呼び止められた。


「取引をしていないよね?お嬢チャン」

「…?してませんよ、頭の中の声には怒鳴るしかしてませんから」

「ふーうん。そっか。じゃあなんかのサービスだったのかもね」

「サービス?」

「ラトアから聞いた。痣が消えてるよ」


それだけを言って「おやすみ、絶世の美少女チャン」と勝手に話を終わりにされた。

あたしは部屋を出て、廊下で服を捲って確認してみる。

痣なんて、跡形もなかった。酷いくらい青ざめていた痣が一日で治るはずない。

悪魔の仕業?一体何のため?



「つーちゃん、大丈夫ぅ?」


目を覚ました白瑠さんは猫なで声を出して問う。うるうるした眼で心配な眼差しを向けてくる。


「ええ、大丈夫です…はい、申し訳ご」

「んーよかったぁ」


謝罪を遮られて抱き締められた。苦しい。


ハウン君とジャスタは起きるなり帰ってしまったのでリビングにいるのは、ラトアさんと藍さん、幸樹さんに白瑠さんだ。

 幸樹さんは起きるなり診察して昨日の昼から何も食べていないあたしの口に食べ物を突っ込んだ。今も何かを作っている。


「お嬢、一体何処からあのメモリーカードを手に入れたんだい?僕の方が遭いそうなのに、なんでまた?」


さっきからずっとPCのキーボードをカチャカチャ押す藍さんが訊いた。

一同が耳を傾けたのがわかる。

何処から──プレゼントだ。

誰からの──多無橋さんだ。


「わかりません、いつの間にか在ったんですよ。拾ったかもしれませんが…覚えてません」


 あたしはそう答えた。

藍さんからラトアさんに目を向ければ、黙って目を逸らされる。ラトアさんも話すつもりはないらしい。

全く。なんでまたあたしはボコボコにされてまで手に入れた物に危うく殺されなきゃいけないんだ。

多無橋あの野郎。


「なんのメモリーなのかを開いたら……ああなりました」

「貴女の好奇心は危険ですね」


幸樹さんが歩み寄って白瑠さんに羽交い締めにされたあたしに皿を渡した。フルーツポンチだ。

それを横から白瑠さんに奪われる。


「こんな調子でアメリカに行けるんですか?白瑠」

「アメリカ?」

「あーだめじゃん、俺が話すのにぃー」


頭の上で白瑠さんが喋る。


「ラトアの仕事がアメリカであるんだ。いい機会だから暫くそこで仕事するぅんだぁ」


また勝手に決めてる。


「はぁ、そうですか。でも、パスポートないんだけど」

「うひゃひゃ、そんなの用意できるよぉ」


突っ込みは不要らしい。


「アメリカの方が危険だというのに……大丈夫なんですか?白瑠」

「あっちの方が安全だよぉ」

「どうでしょうか、予想してない事態に陥る娘ですよ」

「ちょ…そんな推測が全くできないトラブルメーカーみたいに言わないでくださいよ」

「椿さん、貴女今年厄年です」


他人にはっきり告げられた!!

真面目に言われちゃった!


「大丈夫大丈夫、俺が付きっきりになるよぉ」


白瑠さんは身体を揺らしながら言う。羽交い締めにされたあたしも揺れる揺れる。


「うーえー、やだーなー。つーお嬢に暫く会えないなんて」


落ち込んだような表情をしつつも手を止めない藍さん。さっきから何してんだろう…。


「椿さん」


幸樹さんに呼ばれて顔を向ける。


「アメリカに行ってもですが……行く前もくれぐれも死にかけないように」

「死、死にません…頑張ります」


気圧されてブンブンと頷いた。

好きで死にかけているわけじゃない。

そういえば今年、死にかけるの四回あったよね…。

来月生きてるかなぁ。サンタさんじゃなくてサタンに会う羽目になったりして。

 翌日は幸樹さんが付きっきりで看病してきた。全然平気だというのに。

寧ろ、怪我が完治してバリバリ元気だ。

 そのまた翌日。

幸樹さんは表の仕事に、白瑠さんはパスポートを取りに行くとかで、藍さんにあたしを預けて出掛けた。

こう過保護にされては、多無橋さんに会いに行けないではないか。


「椿お嬢ー……」


やけに暗い声を出すなと振り返ってみれば、本当に暗い表情をしていた。


「えっと…?」

「お願い!お嬢!頼み事を聞いて!!」

「嫌です」

「即答!?」

「どうせコスプレでしょ、最近してないから」

「今回は深い事情が!」

「結局はコスプレかよ!」


藍さんの頼み事、結局コスプレ。

足にすがってきたのでとりあえず、深い事情とやらを聞いてやろう。


「実は……先週から中学生の女の子とメールのやり取りをしてて」

「解決法はズバリ通報ですね」

「最後まで聞いてくださいぃいいい!」

「すがるフリして足を撫で回すな!」


一回蹴り飛ばしたら床に項垂れた藍さんはしくしくと泣くフリをしながら続けた。


「ほんと、仲良く…メールをしてたんだよ?そ、それなのに、昨日からパッタリとメールの返事が来ないんだよー。何かあったのかな?何かあったんだよね?椿ちゃん、お願い!中学校に潜入して無事を確認してきてほしいんだ!!」

「わざわざ潜入する意味がわからん!!事情が浅いわ!」


耐えきれずまた足蹴にする。

全然深くないじゃないか。何が深い事情だ。忌まわしい。


「椿ちゃん!僕は本気の恋をしてるんだ!お願いだよ!僕の恋の手助けをして!」

「それでは中学生の制服は着なくていいんですね」

「着てほしい!!」

「どこが本気の恋だどあほ!!」


ガシリと手を掴んで必死に頼み込む藍さん。冷静に対応することを一瞬心掛けたが一瞬しか持たなく拳で藍さんの頭を殴った。


「そ、それとこれは…違うんだよーう」

「いや、あたしの台詞だろ。メールの女の子の無事を確認するだけなのになんでコスプレしなきゃいけないんですか、死ね」

「一番最後怖っ!」

「ごめん、本音が」

「謝ってない!?」

「直接会えばいいじゃないですか。なんです?もう自分の年齢と趣味を明かしたんですか?援助交際だったんですか?」

「援助交際じゃないよ!ピュアなメールのやり取りをしたんだよ!」


そう言い続けるからそのメールを見てみれば、本当に普通のメールだった。変態要素が表れてないメールのやり取りだ。

これでメールが途切れるのは不自然だな。

でも、相手はわかんないだろう。女心は秋の空。

ただの遊びで相手をしてやるくらいするだろう。飽きて拒否してるのもあり得る。


「藍さん…犯罪ですからもう少女を好きになるのはやめましょう」

「ええ!?だめっ?だめなの!?」

「きっと騙されただけです。そして言わせていただくと……それは恋じゃない」

「っ!!冷たいお言葉…!ドライ過ぎるよお嬢!!」


そんな涙目で見られても、本音だもん。

歳上でイケメンでも、包容力のない藍さんなんか好きになるわけない。あたしは断言してやる。

それに、ロリコンだし…。


「お嬢!お嬢恋したことある!?」

「学生の時はそれなりに」

「それを思い出して!僕はあの子にメロメロなんだよ!夢中なんだ!」


夢中なのはいつもじゃん。

ストーカーだってやるじゃん。

でも、藍さんの眼は真面目だ。

……少女関連は真面目な顔をする人だから騙されないぞ。


「無事を確認してくれるだけでいいんだ!お願い!なんでもしますから!!」

「………なんでも?」

「なんでもする!!足だって舐めるから!」

「靴だろ、足指はお前喜ぶじゃんか」


とりあえず足蹴にしつつ、考えてみた。なんでも、ね。


「えっと……椿お嬢様。眼がとんでもなく冷たいですよ。氷の女王様のようです」

「フン、なんでもと言ったこと精々後悔するといい」

「はっ…!?じょ、女王様、一体何の命令をするのですか!?」


何ごっこだよ。

あたしはしゃがんで藍さんと目線を合わせた。


「簡単です。その女の子の無事を確認したあと、多無橋さんの元に連れてってください。白瑠さんにも幸樹さんにも内緒で。簡単でしょう?」

「え……?」


藍さんはきょとんとしたが、その条件を呑むことにした。

 そんなこんなで、あたしは中学生である“寧々ちゃん”の学校に潜入することに。

その為に、必要があるかどうか謎だが制服を着る羽目になった。

 紺色のミニのプリーツスカート。ブラウスの上に学校指定の白いセーター。白のニーソにローファー。

高校生と変わらないと思うがこれが中学生の制服という事実が非常に恥ずかしい。

何より。何より何より。

 藍さんがヤバイ。

口がポカーンと開いてそこからだらだらと涎が落ちていく。息はハァハァと荒くそのせいか頬が紅潮している。

半径一キロ以内に入ってほしくない変質者が登場。

鳥肌だけで人間死ねると思った瞬間だ。


「近寄ったら殺す!」


カルドを構えてそれ以上近寄らないように、後退り。いや、もう、ほんと、近寄らないで。


「ぐふっ……ぐふふっ…ハァハァ…超ツボ……ハァハァハァハァハァハァ」

「お前ほんとはただあたしにこれを着せたかっただけなんだろ!?涎!」

「ぐしゅるしゅるっ…ハァハァ、お、思いの外、ツボにストライクした、ハァハァ」

「呼吸を一からやれ!!」


あたしは気持ちだけ百キロ離れてから藍さんが落ち着くのを待った。

藍さんは涎を拭いてから(袖がべったり)息を整えて「つーお嬢のおさげがマニアックで」と指差す。

確かに耳の後ろに髪を二つに束ねたけど、これアンタの指示じゃん。二つ結びにしたら幼さがでるって。


「ツインテールの方がいいと思ったけど…その方がツボ!」

「やっぱり遊んでるのか。目と首、どっちに刺してほしい?嫌な方を選べ」


二つ結びと言われてツインテールと連想しなくてよかった。つか指示されてもやらん。


「遊びじゃない本気だ!!」

「死ね」

「あぶねっ!?え?超危なくない!?今当たってたら確実に死んでたよ!カルドって投擲する武器だっけ!?」

「死ねばよかったのに。世の中の少女とこれから生まれてくる女の子の為に……死になさい」

「つ、椿ちゃん!落ち着くんだ!悪いのは椿ちゃんにツボるほどの萌え美貌を与えた神だ!」


思わずカルドを投げた。それは藍さんの首を狙ったのだが外れて壁に突き刺さる。本当に本当に死ねばよかったのに。

神って。何の話だよ。


「艶やかな黒髪におさげ!長い睫毛から覗くつぶらな黒い瞳!それとは対象の白のセーターは天使の羽根のように掌まで隠れる袖がツボ!その下から出ている紺のスカートは小悪魔っぽい!トドメは白のニーソにローファー!ふっくらした太ももを包む白いアイツ!なんて萌え要素がありまくりなんだ!!天使の罠!?ぐふふっ!これで眼鏡を掛けて照れたように話し掛けられたら…ハァハァハァハァ!」

「今日こそ息の根を止めてやる。覚悟しやがれ」


一度コイツは病院送りにして精密検査をさせてやるべきだ。

 散々暴れた末に漸く出発。

私立女子中学校にあたしは潜入した。

学校なんて懐かしい。

校門を潜って校舎に入った。藍さんはきっちり学校指定の下履きまで用意していやがったからそれを履いて校舎を歩く。

丁度昼休みの時間らしく一人歩いても目立たない。

 …目立たない。

 …………目立たない。

なんかしら不審がられると思ったが平然と生徒とすれ違う。


「どう?バレてないっしょ?」


耳元から藍さんの声が漏れる。頑なに断ったが何かあったら自分が白瑠さん達に叱られるからと強引に小型通信機をつけられた。


「はぁ……なんでバレないのかあたしには理解し難いです」

「そりゃあつーお嬢があまりにも似合ってるからぐふっ」

「いや、普通に身長でもわかるでしょ」

「…………」

「…………うるせえ!あたしは百五十センチ以下じゃねえ!!」

「何も言ってないよ?!わ、わかってるって!つーお嬢は百五十五センチ以下だって!バストはギリギリDカップで体重は推定」


ブツリとあたしは通信機を切った。

死ねばいい。アイツまじ許しまじ。殺す殺す殺殺殺殺。滅したい。嗚呼、あの時見捨てればよかった。あの時、玄関さえ開けなければ。思えばあれが悪夢の始まりだった。

 思わず、叫んでしまったが幸い一人の生徒しか振り返っていない。

さっきから前方を歩いていたから気にはしていた。中学生とは思えない小さな身長の女子生徒。白銀のショート。脱色した髪の女子中学生がこの世にいるなんて、と思っていたのだ。

叫んだことで彼女は振り返ってきた。あたしをじっと見てきたかと思えば、五十メートル先から駆け寄ってきた。

ヤバイバレた?と焦りつつも白銀の女子中学生の顔が見たくて動かない。

ん、可愛い顔だなぁ………………………ぁ?あれれれ?

見たことあるな。

ん?幻覚…か?

空似…だよね?

首を傾げて凝視している間にもその女子中学生はあたしの前に来た。


「つばき、おはよう」


そうぼんやりした瞳で見上げて、ぎこちなく小さな唇を動かして小さな声で挨拶。間違いなく、幻でなければ、ハウン君。

あたしと(セーターだけはMサイズ)同じSサイズの制服らしいが見た目小学生のハウン君には大きいようで手はすっぽり袖の中、スカートが膝上五センチのニーハイ。


「写真撮ろう!!」


 突っ込みは全て後回し。

あたしは直ぐ様携帯電話を出した。通りすがりの女の子に頼んで携帯電話のカメラ機能で撮影してもらう。

ハウン君を抱き締める形でピース。

永久保存!

いや、保存するならハウン君一人だけで!

あたしは女子生徒に礼を言ってからハウン君にカメラを向けた。

と、そこで気付く。

おや…?この子も見たことあるぞ、と。


「“寧々ちゃん”!?」

「え、は…はい!」


藍さんに画像を見せてもらった。なんでもお互いの写真を交換したらしく、寧々ちゃんの顔は予め確認できたのだ。

中学生らしい幼さがある可愛い顔の女の子、間違いない、この子だ。


「あたし、藍乃介さんの……近所に住んでるの」

「え?藍くんの?」


藍くんって呼ばせてる…。


「そう。なんか昨日から連絡取れなくて凄く心配してたの、どうかしたの?」

「え、あっやだっ…ごめんなさい。親に携帯電話を取り上げられちゃって…メールを返せなかったの」


申し訳なさそうに寧々ちゃんは言った。ふむ、そうゆう事情だったのか。

携帯電話ばかりいじっている中学生にはありがちなだろう。


「携帯電話が戻ってきたら連絡するって伝えてもらえるかな?」

「今校門の前にいるよ、直接言ったらどうかな。紺色のバン。何かあったんじゃないかって凄い心配してたから顔を見せた方がいいわ」

「あ、そうなの?じゃあ行こうかな。…ふふ、藍くんって本当のお兄ちゃんみたい。わたしお兄ちゃんがいないから、嬉しいや。ありがとう」


寧々ちゃんは踵を返して藍さんの元へと駆けていってしまった。

藍さんが本気の恋と言っていたからお節介を焼いてしまったが、かなり余計なことをしてしまったかもしれない。

完全に“お兄ちゃんみたいな人”のポジションに入れられている。寧々ちゃんはその気はない。

ん?でも…メールでも兄妹ごっこみたいな会話をしていたような…。

日常生活に悩みまで色んな会話をしているようだった。アプローチかけてる台詞なんて見つからなかったが……。

つか、あんな変態の元に行かせてよかったのか?十中八九間違いだ。


「あ、そうだ。ハウン君、どうしてこんなとこにいるの?」


あたしは突っ立ってただ見上げてくるハウン君に漸く質問をする。

それよりもどうして女装をしているのかが気になる。実は女の子?…いや、男の子か。否、噂の男の娘!?


「まだ真っ昼間じゃない、今日は曇りだけど。眠くないの?」

「ねむい、の」

「じゃあどうしてここにいるの?」

「……………」


答えたくないのかそれとも言葉が見付からないのかハウン君は黙ってしまう。

女装してる訳は言いたくないのかもしれない。

まぁ…いっか、写真写真と。


「この前はありがとう、ハウン君。お礼を言いそびれちゃった。ありがとうございます」


深々とあたしは頭を下げた。


「君がいなきゃ悪魔に殺されてたんだよね、ジェスタさんを起こして連れてきてくれてありがとう。本当、痛かったんだよ、助かったよ」


しゃがんで目線を合わせてもう一度お礼を言っておく。

運が悪い中でハウン君がいてくれて幸いした。


「おれいは」


ハウン君は自分の唇に人差し指を当ててから、言った。


「チュー」


少年でも吸血鬼。色っぽく目を細めておねだり。

お礼はチュー!?

え、唇ですか、ハウンさん!?

とんでもないお礼要求に硬直していれば、とんと押された。

あたしは尻餅をつく。

そのあたしに馬乗りになったハウン君が、小さな手で頬を押さえ──キスをした。

フレンチではなくかなりディープなキス。

あたしが抵抗する前にキスは終わり、ペロリと自分の唇を舐める妖艶な吸血鬼。

うっ……犯罪のにおいがする。

学校で中学生じゃない二人が制服を着て廊下で乗っかりディープキス。一方は女装男子プラス吸血鬼。犯罪級ラブコメ…!!

そうでした、彼は少年でも遥か歳上。きっとあたしより経験豊富なんだろう。

なんか、もう、メロメロになりそうだよ。

やべショタコンになりそう。

ハウン君に心を奪われそうだ。

─────ズキッ。


「いたっ…」

「…つばき?」


痛みが走って頭を押さえる。ハウン君は無表情ながらも心配して顔を覗く。


「ん、大丈夫…後遺症かな、はは」


頭痛ではないようだ。何ともない。笑いかければ頭を押さえた部分にハウン君はチュッとキスをした。

それから何事もなかったかのようにあたしから退いて廊下を歩き去ってしまう。

さよならの挨拶をしない子だ…。

あ、やべ。寧々ちゃんが藍さんの毒牙にかかる前に助けなきゃ。

あたしも立ち上がりその場をあとにした。


「つーお嬢!通信機を切っちゃだめじゃん!」


 校門近くに停めてあったバンを開けば、藍さんが待ち構えて叱ってきた。

左右を見ても寧々ちゃんは見当たらない。


「寧々ちゃんをどこに閉じ込めたんです?」

「このバンのどこに隠すところがあるって言うんだい!?もう校内に戻ったよ…はぁ、僕もこれで一安心だ」


胸を撫で下ろす藍さんは不安が消え去ってすっきりしたみたいだがどうにもあたしはすっきりしない。


「ほら、僕の頼み事は終わったから次は椿お嬢だ。多無橋氏のところに行こう」


爽やかな笑顔で藍さんは促す。

何かモヤモヤしつつもあたしはバンに乗り込んだ。

バンを走らせながら「寧々ちゃんに聞いたけど誰かといたんだって?」と藍さんは訊く。あたしは後ろで武器の整理をしながらハウン君がいたと短く答えた。


「へぇ。そっか。あのちっこい吸血鬼の坊やか、つーお嬢の恩人。すごい偶然だね、あはは」


わざとらしく笑う藍さんの背中を見る。そんなあたしをバックミラーで確認してから「あの神父ヴァンパイアに一番小さいサイズの制服をあげたんだ」と答えた。


「なんでも眠りから起こした罰を吸血鬼の坊やに与えるんだってさ」

「罰?」

「起こさない約束だったんだ。その約束を破ったから、制服を着させて昼間に学校一周でもさせてるんだろうねーぐふふっ」


あたしのせいじゃないか。

ハウン君は何も言わなかった。罰くらい、言えるだろ。言ってくれればよかったのに。

あの似非神父め。


「そんな怖い顔をしないしない。約束を破ったんだ、それはいけないことだよ。言わば契約。契約を破っちゃいけない。これは絶対のルールなんだから、悪魔だって契約は守る」


そう語る藍さん。

何が言いたいんだこの人。


「そういえば。つーお嬢。多無橋さんに会うのにどうしてそんなに武装してるの?もしかして実は食事に誘われた日に仕事をもらってたり?」


いきなり話題を変えた。あたしが武器をバンに運んだ時は何も言わなかったくせに。


「別に。常備してないともしもの時、困りますから」

「ふーんー。もしもかー」


あたしはバックミラーに映る藍さんの顔を見た。にやにやした意地悪な目付きをしている。

「言わなかったけどさー」とまた口を開き始めた。


「あのメモリーカード。かなり最新だったねー」

「……へぇ、そうなんだ」

「んー、そう。落ちてるような代物なんかじゃないんだよねー。きっと厳重にガードされていたはずさ。調べてみたらね、“悪魔の指輪”とかいう黄色のダイヤが嵌められた指輪が…行方を眩ました」


あたしは沈黙した。

メモリーカードが隠されてた黄色の石が嵌められたあの指輪。


「更に詳しく調べてみたら………多無橋氏に渡るはずだったらしいよ。ぐふふっ、これはすごい偶然だねーお嬢?」


あたしは。

何も答えずに睨み付けた。

何もかも知っているようだ。調べて、辿り着いた。

あたしが多無橋さんに会いに来たのが、きっと決め手になったんだ。

 車が停まった。目的地に着いたようだ。


「僕も約束を破ったし、これでおあいこにしようって伝えておいて。多無橋氏はこのビルの二十四階の部屋だ、アポはとってないから上手く忍び込んで」


藍さんが破った約束──食事に一人で来なかったこと。

あたしは黙ったまま、バンを降りて閉めた。


「くれぐれも、制服を汚さないでー。それから」

「…汚しませんよ、脅すだけです」


藍さんは助手席の窓から顔を出して釘を刺す。あたしは肩を竦めて振り返る。


「多無橋氏からメモリーを貰ったことはちゃーんと幸樹と白瑠には黙っておくよ」


爽やかに笑って藍さんは車の中に引っ込んだ。

 少女趣味の変態というキャラが濃すぎて、忘れていた。否、変態キャラで隠されていたんだ。何を考えてるかわからない、尻尾の隠れた食えない奴。

白瑠さんが思い付きであたしを脅かすならば、彼は計算してあたかも偶然ぶってあたしを脅かす。

 今回、メモリーを見ただけで予想はついていたんだろう。調べてメモリーは多無橋さんから流れたと確信した。あとはあたしがそれを知っているかどうかを確認するだけだ。

過保護に守られたあたしは仕返しするチャンスを待っているはず。

多分、ただの予測だが中学校潜入はただあたしがチャンスを掴む為に出した罠。もしもあたしが忘れていた時の為に──ハウン君が用意されたのだ。自然な流れであの悪魔の話題に入れる切札。

ハッカーで仲介者だけあって頭はキレる。なんて奴だ。

本当に苦手なのは、アイツなのかもしれない。


「説明を、してください」


二十四階に部屋は一つだけだった。一階をまるごと使った会議室。

キーピッキングを使って音を立てずに忍び込んだ。誰かいれば殺戮を決めていたが、幸い多無橋さんは一人。他に人気はない。

あたしは後ろからカルドを首に突き付けた。


「……可笑しいと思ったら、会議の連中がいないのは君のせいかな?紅色の黒猫ちゃん。殺してしまったのか…或いはIが協力したのかな?」


少なからず緊張していたがいつもの調子で多無橋さんは喋る。どうやら藍さんが細工してくれたようだ。つくづく食えない人。


「ふむ…どうやら、君は無事(、、)のようだね」

「───メモリーの中身を知っていて、あたしにプレゼントをしてくれてありがとうございます」


強く押し当てれば、少し強ばった。脅しは効いてくれているようだ。中学生の制服を着た分の素敵なステージを貰えた。邪魔は当分来ないだろう。


「仕事に失敗した、報いというわけですか?」

「違うさ。言っただろう?最初から渡す気だったと」

「ほう?なら初めからあの悪魔であたしを殺す気だったんですか。聴かせてやりたかったわ、頭が割れるくらいの悲鳴を」


ガシリと短い髪を鷲掴みにして怒りを噛み殺して言う。今すぐにでも、喉を掻き切りたい。


「っ……?まさか、“彼”の声を聴いたのかい?」

「…どうゆう意味ですか?」

「“彼”の声を聴いて、生きていることに……いや、聴いたことに驚いているんだ。まさか、そんな、君は攻撃を受けたのかい?(、、、、、、、、、)


多無橋さんはわけのわからないことを訊いた。

悪魔を封じたメモリーと知ってて攻撃を受けていないと思っていたのか?


「メモリーを見たら悪魔に攻撃されるのは当然でしょう。他の人が見たと思ったんですか?」

「──誰が見ても、攻撃しないと思ったからこそ君にプレゼントしたのさ」


は?

攻撃をしない悪魔だというのか。


「言っただろう、黒猫ちゃん。あれは“貴重なプログラム”なんだ。長年調べあげられた悪魔のメモリーなんだよ。不可解なことに、あの悪魔は誰が開いても襲わない温厚(、、)なやつなんだ。何もせず声も出さず、まるでこちらを嘲笑うように見てくるだけの、何の危害もない世界で一つだけの“悪魔のメモリー”。だからこそ、君にプレゼントしたんだ」


裏現実に踏み入れた歓迎を示した特別なプレゼントとして。

多無橋さんは言うが、それに信憑性はあるのか。

あたしはカルドを握る手に力を込めた。


「お気に入りの君を安易に消すわけないじゃないか。それも些細な仕事で半分失敗しただけで」


あたしを気に入っているのはわかっている。その通りだ。

だがしかし。


「それでは納得いきません。そんな温厚な悪魔が何故あたしに攻撃をしたんです?」

「っ、それは…そうだね。悪魔の憎き敵である吸血鬼が側にいたとか。吸血鬼ならばいくら温厚でも暴れだすだろう」

「生憎、開いた時には吸血鬼はいませんでした」

「それでは………わからないね。しかし、信じてほしい。決して君を消そうとプレゼントしようとしたわけではないと」


人差し指で多無橋さんはカルドを遠ざけようとしたがあたしはそれを許さず再び首に押し当てた。軽く引くだけで首は切れる。


「あのメモリーの詳しい情報を」

「………………。悪魔の力を我が物にしたい一人の人間がそのメモリーを調べた。人間で実験をし悪魔の取引を観察しようとしたのだが、その悪魔は取引を持ち掛けなかったし人間を殺そうともしなかった」


どんな人間でも男でも女でも幼児でも赤ん坊でも老人でも、悪魔はうんともすんとも言わなかった。ただ、画面の中で時折姿を見せて嘲笑うように見ていた──という。

我が物にできないと判断した人間はそのメモリーを高値で売った。

人間から人間へと売られていったメモリーはいつしか“悪魔の指輪”に代わり、“貴重なプログラム”と成ったのだ。

あたしが開くまで、悪魔は長い間沈黙を続けていた。


「ふふ……これはかなり神話に近い話さ。沈黙の悪魔──悪魔のメモリーなんて吸血鬼に知られたら消されてしまうからね。裏の裏で暗い水の底で伝わる怪談話。今や高値で売れる貴重品だったのに………君が沈黙を破らせるなんて、熟君って娘は───面白い」


堪えていたが、多無橋さんは笑いを漏らす。心底愉快に、できるなら哄笑したいくらいに、堪えながら笑う。


「あの悪魔の特徴は?無口以外になにかわからないんですか?」

「何故そんなことを訊くんだい?まさか、対処に困ってるのかな。沈黙の悪魔がずっと騒ぎっぱなしなのかい?」

「悪魔なら殺しました。散々騒ぎやがったアイツを知りたいだけですよ」


グイッと引っ張り顔を上げさせる。首はこれ以上なくカルドにさらけ出す。どうせなら喉に噛み付いて引きちぎりたい。

あたしが吸血鬼だったら───────ズキッ。

また痛みが走って目を細めたが先程と同じたった一瞬だけ。


「まさか……“彼”を殺せたのかい?一体どこの神父が君を救ったのかい、是非ともお礼がしたいね」

「吸血鬼が殺した」

「可笑しいな……少なくともそこらの吸血鬼では殺せない程の力量だと思っていたんだけどね」


少なくとも、そこらの吸血鬼では殺せない悪魔だろう。


「もういいです。これで失礼します」


そろそろ秘書さんも戻ってくるだろうから、あたしはカルドをベルトにしまった。そこで初めて多無橋さんはあたしの姿を視認する。


「………前回から思っていたのだが、やけに年相応の服装をしてるね。可愛らしい、仕事服と違うからいい」

「師匠に黙って貴方に会うには色んな手を使うから仕方なくです」


思ってもみなかった格好だったらしく目を丸める多無橋さん。殺し屋が学生服だもんな。


「Iさんから伝言です。約束を破ったからこれでおあいこ、だそうです。責めないでください。最後に、これ(、、)はIさんとは関係ありません」


しっかり伝言を伝えたあとに、あたしはセーターの中からバタフライナイフを取り出して、警戒が緩んだ多無橋さんの腹に突き刺した。


「っ…!?」

「あたしはてめえの玩具じゃない。調子こくんじゃねーよ」


耳元で甘く激情を込めて囁いてやる。

刺されるなんて思いもしなかったのだろう。驚愕に満ちた表情で絶句していた。気が晴れてフッと笑う。


「それではさようなら」

「………っはは。流石、わざと急所を、外してくれてるね…ふふ」


離れて会議室を出ようとしたら、冷静を保って多無橋さんは人のいい笑みを浮かべた。

死んでも構わなかったが一応藍さんのお得意様だから急所を外しておいた。メモリーをプレゼントした罰とでも言っておこう。


「では君は誰の玩具なんだい?頭蓋破壊屋、の玩具か」


お得意のムカつく言葉を選んで言ってくる多無橋さんに振り返って答えておく。


「ええ。あたしは頭蓋破壊屋さんの人形です」


いや、違うな。

首につけたチョーカーの鈴を鳴らして言い直す。

────チリーン。


「彼の飼い猫です」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ