56話 告白の夜
数日後、
メアリーは重い足取りで、ヘンリーの屋敷を訪れた。
静まり返った応接室。カーテンの隙間から差し込む光が、埃の粒を照らしている。
「……どうして、あの夜……火事の夜にあそこにいたの?」
メアリーの声はかすれ、指先が震えていた。
確認するのが怖い……でも、聞かずにはいられない。
ヘンリーはゆっくりと椅子から立ち上がり、窓辺に背を向けた。
「気づいたんだね。――あの日、僕が、屋敷に火を放ったんだ」
空気が一瞬にして凍りつく。
メアリーの息が止まった。
「……なんですって?」
ヘンリーは笑った。
けれど、その笑みは苦しみの色に染まっていた。
「母上が……いや、君の母上が僕を捨てて、別の貴族と結婚していたと知った時、どうしようもなく憎かった。
彼女が新しい家族を作り、幸せそうに笑っていると聞いたとき――頭の中が真っ白になったんだ」
「じゃあ、私の家を……」
「そう。あの夜、屋敷に忍び込み、灯りを倒した。まさか、あんな大火になるとは思わなかった。
けれど、あの炎を見たとき……初めて怖くなった。君の泣き声が聞こえたんだ」
メアリーは唇を噛み、震える声で言った。
「あなたが……母を、父を……!」
「違う!」ヘンリーは激しく首を振る。
「あの人を殺したかったわけじゃない。
ただ、僕を捨てたことを、思い知らせたかった。……だけど、取り返しのつかないことをした」
沈黙が落ちる。
時計の針の音だけが、カチカチと部屋の中に響いた。
「だから、私を助けたのね……罪を償うために」
メアリーは静かに言った。
ヘンリーの肩がわずかに揺れた。
「そうかもしれない。君を見るたび、あの夜の炎がよみがえる。君を守ることでしか、自分を許せなかった」
メアリーの目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。
「……どうして、今さらそんなことを言うの? 黙っていれば、私はずっとあなたを……兄のように慕っていたのに」
ヘンリーは、哀しげに目を細めた。
「それでも、君には真実を知る権利があると思ったんだ。僕のせいで、君は一人になった。……許されるとは思っていない」
メアリーは立ち上がり、震える手でスカートを握りしめた。
「許せない……私の中の“ヘンリー”は、今も優しかった頃のままなのに」
そう言って、彼女はゆっくりと背を向けた。
扉の前で一度だけ振り返る。
「さようなら、ヘンリー。――もう、過去には戻れないわ」
扉が静かに閉じられたあと、ヘンリーはその場に崩れ落ちた。
今更しても仕方がないとわかっていても、後悔と苦悩でおし潰れそうだった。
冬の光が、彼の涙を無情に照らしていた。




