表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

5話 秘密

「……あなた、男、なのですね」


 控え室に響く自分の声が、やけに冷静に聞こえた。

 眼鏡の奥で私は相手をじっと見据える。


 ドレスを半ば脱ぎかけた“エリザベス”は、観念したように肩を落とした。

「……本当の名は、エドワード・ハミルトン。エリザベスは、姉の名前です」


「姉の、名前?」

「はい。姉は病弱で、社交界に顔を出せない。だが父は、どうしてもハミルトン家の名をつなぐ縁談を進めたい。……だから私が女装して、代わりに舞踏会へ出ているのです」


 私は思わず額に手を当てた。

(そんなややこしい事情……! でも、なるほど完璧すぎる美貌の理由も納得。中身は男だから、隙がなさすぎたのね)


 エドワードは恥じらうように視線を逸らした。

「……どうか、この秘密はお坊っちゃまには……」


「ふん」

 私は腕を組み、ずしりと体重をかけて立ち上がった。

「私が黙っていれば済む問題ではありません。あのお坊っちゃま、あなたにすっかり夢中なんですから」


「……アルバート様が、ですか?」

「そうです! 婚期がおくれにおくれて困っているというのに、よりによって“男”に惚れてどうするんです!」


 声が大きすぎたのか、扉の外から「メアリー様……?」と若いメイドの声がした。

 私は慌てて「何でもないわ!」と怒鳴り返す。


 ……道のりは遠い。

 お坊っちゃまを結婚に導くどころか、相手が男では振り出しどころかマイナスだ。


 それでも。

 私は再び眼鏡を押し上げ、ぐっと睨みつけた。


「いいですかエドワード様。あなたの事情は理解しました。しかし――お坊っちゃまの婚期を妨げることは、断じて許しません!」


「そ、それは……」

「ですから! もし万一、アルバート様が“あなたしか見えない”などと言い出したら……その時は、私が必ず説教して改心させます!」


 エドワードはしばし呆気にとられ、やがて――吹き出した。

「……あなた、本当に面白い人だ」


「面白い? 私は真剣そのものです!」


 眼鏡の奥から鋭い光を放つと、彼はなおさら笑いをこらえきれなくなった。

 困ったことに、その笑みは女性のドレス姿にもかかわらず、妙に爽やかで……。


(あぁ……厄介なことになったわね)


 私はため息をひとつ。

 お坊っちゃまの婚活は、思った以上に“険しい道のり”であることを、改めて痛感したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ