48話 静かな闘志
それからの日々。
メアリーは、まるで自分の限界を試すように働いた。
早朝よりも早く起き、廊下の磨き上げから始める。
指先がひび割れても、膝をついても、決して手を止めなかった。
彼女の姿を見て、他のメイドたちも次第に口をつぐみ、やがて一目置くようになっていった。
けれど、メアリーにとって本当の戦いは
――夜だった。
ランプの明かりが、かすかにゆらめく小さな部屋。
彼女は古びた本を開き、ペンをとる。
読み書き、計算、歴史、礼儀作法。
それらを独学で身につけようと、眠気と闘いながらノートに向かった。
「いつか……アルバート様のお役に立てるように」
その小さな声は、夜の静けさに溶けて消える。
アルバートは、相変わらず無邪気な笑顔でメアリーに話しかけてくる。
けれど、メアリーは少しずつ距離をとるようになっていた。
主人と使用人。
その線を、使用人は決して越えてはいけない。
彼がどんなに優しくしても、
「お兄さまに叱られます」と笑ってかわした。
心が痛んでも、顔は笑って。
夢中になって働いて。誰に何を言われてもメアリーの決意は揺るがなかった。
夜になると、眠気と戦いながら机に向かい――。
そうして月日は流れ、
メアリーはいつしか、屋敷の誰もが認める有能なメイドになっていた。
アルバートは、そんな彼女を見て言った。
「きみは、まるでメイドの光みたいだね」
メアリーは、少しだけ俯いた。
「光なんて……ただの、ランプの明かりです」
だがその夜。
ランプの下で、彼女の書きかけのノートに滲んだ涙が、静かに紙を濡らした。
アルバート様が、みていて下さっている。
希望の火が強く灯った瞬間だった。




