47話 身分の壁
翌朝。
ペンダントが見つかったことを知ったメイドたちは、途端に口をつぐんだ。
けれど、メアリーの心は晴れなかった。
彼女たちの視線は、相変わらず冷たいまま。
まるで、「たまたま見つかっただけでしょ」とでも言いたげだった。
そんな中、アルバートが食堂に飛びこんでくる。
まだ十歳の少年にしては、堂々とした足取り。
メイド頭のモード夫人が目を見開いた。
「アルバート様! こちらは使用人の区画でございます!」
「知ってるよ。でも伝えに来たんだ。ペンダントは、ぼくが見つけたって」
その一言に、場の空気が一瞬で張りつめた。
モード夫人は顔をしかめ、冷たく言い放つ。
「いくらお坊ちゃまといえども、使用人のことで口をはさむのはおやめください。
そのようなことをすれば、かえってこの子の立場を悪くするだけです」
「でも、メアリーは悪くない!」
アルバートは拳を握りしめた。
「ぼくがちゃんと見た。落としただけだ。誰も疑う権利なんてない!」
周囲がざわめく。
メアリーは慌てて立ち上がり、アルバートの袖をつかんだ。
「もう、やめてください……! 私のために、そんなこと……!」
アルバートはその手を見つめ、少しだけ声を落とす。
「だって、みんな間違ってるのに、黙ってるなんて、いやなんだ」
その真っ直ぐな言葉に、メアリーの胸が痛む。
うれしさと、怖さが入り混じるような感情。
「アルバート!」
そのやり取りを見ていたアルバートの兄――若き当主候補、ルイスが静かに近づいてきた。
「アルバート。使用人とあまり馴れ合うのはやめなさい」
低く冷たい声。
メイドたちは一斉に頭を下げる。
「彼女はただのメイドだ。お前の立場を考えろ」
アルバートは唇をかみしめ、言い返せなかった。
その代わりに、メアリーを見た。
困ったように、それでも優しく。
「……ごめん、メアリー。ぼく、守れなかった」
メアリーは微笑んだ。
「いいえ。アルバート様がそう言ってくださっただけで、私はもう十分です」
――その夜。
アルバート様は、とてもお優しい。
弱いものに気をとめ、使用人と同じ目線で接してくださる。
でも……今日の出来事で身分の違いという、越えられない壁の存在を、強く感じた。
メアリーは、はじめて自分の部屋で泣いた。




