41話 メアリーの過去編・18年前
メアリーは遠い昔を思い出す。
それは、十八年前にさかのぼった。
――当時はまだ十代半ば、フリルたっぷりのドレスが大好きな、あどけなさの残る貴族の令嬢だった。
天真爛漫で、少々おてんばが過ぎるところはあるけれど、貴族ではありふれたレディ。
暖炉の炎が揺らぐ広間で、優しい父と母と三人で過ごす晩餐は、彼女にとって何よりの幸福だった。
「メアリー、あなたには素晴らしい未来が待っているわ」
母が微笑みながら手を握る。
「社交界で輝く姿を、きっと見ることができるだろう」
父もまた、誇らしげに娘を見ていた。
――しかし、その夜は永遠には続かなかった。
突如、屋敷の外から叫び声が響き、黒煙が吹き込んできた。
「火事だ! 火事だ!」
召使いたちが慌てふためき、廊下はたちまち炎に包まれていく。
火の手はあっという間に屋敷を包みこむ。
父と母は必死にメアリーを逃がそうとしたが、燃え広がる炎がその道を阻んだ。
「メアリー、走りなさい!」
「何があっても、生き延びるのよ!」
最後に見たのは、両親の必死の姿と、崩れ落ちる天井――。
気づけばメアリーは、夜の冷たい風の中にひとり、焼け落ちる屋敷を見つめていた。
すすだらけの顔、涙で濡れた頬。
家も、家族も、すべてを一瞬で失った孤独な少女がそこにいた。
力なく焼け跡をさまよっていたとき、暗がりから一人の少年が現れた。
「君は……大丈夫か?」
栗色の髪を風になびかせたその少年――ヘンリーだった。
彼はまだ若く、けれど整った顔立ちに不思議な落ち着きをたたえていた。
「……わたし……ひとりになってしまったの」
涙声で告げるメアリーに、ヘンリーは迷わず上着を脱ぎ、肩にかけてくれた。
「大丈夫。君はひとりじゃない。僕がいる」
炎に照らされたその横顔を、メアリーは一生忘れられなかった。
それは、悲劇の中で芽生えた――運命の出会いだった。




