40話 火事のあと
火はようやく鎮まり、屋敷の一角は黒く焦げ落ちていた。
人々は安堵と疲労の入り混じった顔で後片づけに追われている。
メアリーはアルバートの上着にくるまれ、庭のベンチに座っていた。
肺に残る煙の苦しさと、張りつめていた緊張から解放され、身体が小刻みに震えている。
「もう大丈夫だ」
アルバートは彼女の肩を強く抱き寄せた。普段の威厳ある主人の姿とは違い、ただ必死に守ろうとする男の顔だった。
「おまえが……いなくなるかと思った」
低い声が震え、押し殺した感情がにじむ。
メアリーは目を伏せた。
「私……どうしても、エミリーを置いていけなかったのです」
「分かっている。だが――」
アルバートはそこで言葉を切り、拳を握りしめる。
「おまえを失う恐怖に比べれば、何もかも些細だ」
その告白めいた言葉に、メアリーの胸が強く揺さぶられた。
しかし――。
「アルバート様!」
そこへ駆け寄ってきたのは執事だった。
「今回の火事、どうやらただの事故ではないかもしれません。人為的な跡が……」
空気が一気に張り詰める。
「……誰かが、故意に?」
アルバートの瞳が鋭くなる。
メアリーは青ざめた。
(昔もこんなことがあった……。でも、まさか、同じ犯人ということがあるのかしら……。)
アルバートはそんなメアリーを見つめ、決意を込めて言った。
「いいか、もう二度と俺の目の届かないところへ行くな。今度は絶対に守りきる」
炎の残り香の中、二人の間に新たな火種……
陰謀と告白未遂の余韻が静かに燃え続けていた。




