39話 助け
「メアリー!」
耳の奥で、必死な叫び声が響いた。
重い瞼をどうにか開けると、炎の向こうにアルバートの姿があった。
煤で黒く汚れた顔、それでも瞳は鋭く、恐怖を押し殺して彼女を探し続ける目――。
「ここだ! メアリー!」
アルバートは燃え落ちる梁を肩で押し退け、煙の渦の中へ飛び込んできた。
「アルバート……」
メアリーの声はかすれ、ほとんど聞き取れないほどだった。
彼は一瞬で二人を確認すると、まずミリアを抱え上げ、窓際へと運んだ。外から伸びるはしごに向かって大声で叫ぶ。
「この子を頼む!」
外にいた使用人たちが受け取り、ミリアは無事に運び出された。
次の瞬間、アルバートは振り返り、煙に飲まれかけたメアリーのもとに駆け寄った。
「バカ者……! どうしておまえがここに残った!」
「……エミリーを、助けなきゃ……」
その言葉に、アルバートの顔が歪む。怒りと焦燥、そして抑えきれない想いが混じった表情。
「そんなことは俺の役目だ! おまえは……おまえは――!」
言葉の続きを飲み込み、彼はメアリーの身体を抱き上げた。
熱気で燃え立つ廊下を走り抜け、瓦礫を蹴散らし、最後の力を振り絞って窓へ飛び出す。
風が一気に肺を満たし、外の冷たい空気が肌を刺した。
地面に降り立った瞬間、周囲から歓声と安堵の声があがった。
「メイド頭を助けて下さった!」「旦那さまがメアリーを!」
メアリーはアルバートの胸の中で、かすかな意識を取り戻す。
「……助けて、くれたの……?」
「当たり前だ。おまえを置いて行けるわけがないだろう」
そう告げる声は震えていた。
炎の光に照らされたアルバートの瞳から、こらえきれぬ涙が一筋こぼれ落ちた――。




