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38話 炎の夜

メアリーは燃え盛る廊下を駆け抜けていた。煙が容赦なく肺に流れ込み、目は涙で曇り、息をするたびに喉が焼けるように痛む。


「ミリア! どこにいるの!」

必死に呼びかけると、奥の物置部屋からかすかな声がした。

「……たすけて……!」


若手メイドのミリアが、倒れた棚に足を挟まれて動けなくなっていた。

火の粉が舞い、木材が今にも崩れ落ちそうになっている。


「大丈夫、必ず助けるわ!」

メアリーは燃える熱気をものともせず、力いっぱい棚を押し上げた。腕が震え、汗と涙と煤で顔がぐしゃぐしゃになっていく。それでも、なんとか棚をどかすと、ミリアの足を引き抜くことができた。


「さあ、立てる?」

「……はい……でも……足が……」


火の勢いはどんどん強くなり、逃げ道を塞ぐように炎が迫ってきていた。廊下も天井も火の帯に覆われ、出口は完全に遮断されている。


「こっちへ!」

メアリーはミリアを肩で支えながら、窓へと向かおうとする。しかし窓も炎に包まれ、熱風が顔を焼く。


煙が濃くなり、視界が白く霞んでいく。肺は限界に近づき、メアリーの足もふらついた。

「……っ、逃げ道が……」


崩れ落ちる梁の音が轟き、火の粉が二人の上に降り注いだ。ミリアが恐怖で泣き出し、メアリーは必死に彼女を抱きしめる。


「大丈夫……私が守るから……」


しかし、体力も呼吸も限界だった。

意識が遠のき、熱と煙に飲み込まれるように、メアリーの視界は暗転していった――。


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