37話 揺れる気持ち
「メアリー、君とヘンリー卿の関係を、私はまだ納得していない」
アルバートの声は低く、しかし抑えきれない激情を帯びていた。
メアリーは毅然と背筋を伸ばした。
「何度も申し上げています。ただの友情ですわ」
「友情であんな眼差しを交わせるものか!」
アルバートの鋭い視線が突き刺さる。
「……いや、もしかして君は……私よりも、あの男を――」
「そんなこと!」
言葉を遮るようにメアリーの声が高まる。
しかし、胸の奥に潜む動揺は隠しきれなかった。
アルバートは苦しげに眉を寄せ、拳を握りしめる。
「私は……嫉妬しているのだ。自分でも情けないほどに。だが、君のことになると冷静でいられない」
その告白に、メアリーの心臓が大きく跳ねた。
だが同時に、どう応えるべきか分からず、彼女は視線を逸らしてしまう。
「……もう、今日は失礼します」
そう告げると、メアリーは深く一礼し、部屋を後にした。
廊下に出た瞬間、胸の奥に渦巻く感情が押し寄せる。
――アルバート様は、本当に私を……?
けれど、それを確かめる前に、二人の距離はケンカ別れによって引き裂かれてしまった。
その夜――。
屋敷の奥から、突如として煙の匂いが漂い始めた。
「火事だ! 火事だぞ!」
叫び声と共に、慌ただしい足音が廊下を駆け抜ける。
赤い炎が厩舎を包み、夜空に火の粉が舞い上がる。
「メアリー! どこにいる!?」
アルバートは声を張り上げ、炎の方へと駆け出した。
嫉妬と怒りに揺れていた心を振り払うように――。
彼女を守らねば、という想いだけが胸を焦がしていた。




