34話 バイオリンの響き
晩餐会の夜。
煌びやかなシャンデリアの下、ドレス姿の貴婦人や紳士たちが談笑を楽しんでいた。
その中央に立つメアリーの手には、久しく触れていなかったバイオリンがあった。
アルバートの勧めで、彼女は一曲披露することになったのだ。
最初は緊張で指が震えたが、弓を弦に滑らせた瞬間、メアリーの心は不思議なほど落ち着きを取り戻していった。
やさしく、透明な旋律が会場を包む。
空気が澄み渡り、ざわめきは消え、人々はただ彼女の音色に耳を傾けた。
アルバートもまた、胸の奥を強く打たれ、視線を逸らせずにいた。
――これほどの才能を、どうして隠していたのか。
演奏が終わると、会場は大きな拍手で揺れた。
その中の一人、上品な装いのご婦人が近寄ってきた。
「まあ、なんて素晴らしい演奏でしょう! ぜひ、私の娘にもバイオリンを教えていただけませんか?」
突然の申し出にメアリーは戸惑った。
けれども、アルバートに視線を向けると、彼は静かにうなずき、
「メアリーにとっても良い経験になるだろう。許可しよう」と言った。
後日、メアリーはそのご婦人の屋敷を訪れ、娘にバイオリンの指導を始めることになった。
慣れない立場に戸惑いながらも、生徒の目が輝くたびに、自分の音楽が誰かの心に届いていることを実感した。
レッスンを終え、帰るため廊下を歩いていると、廊下の先から背の高い貴族風の男性が歩み寄ってきた。
切れ長の瞳に、微笑をたたえながら――
「メアリー? 君は、メアリー・じゃないか!?」
メアリーは、瞳を大きくみひらいた。
「あなたは……」




